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高松高等裁判所平成25年(ネ)第175号損害賠償請求事件
いわき病院の精神科医療の過失


平成27年3月2日
控訴人:矢野啓司・矢野千恵
inglecalder@gmail.com


5、地裁判断の間違い


3. 渡邊朋之医師は野津純一氏の病状を正確に把握してない

渡邊朋之医師と野津純一氏の間で、主治医と患者の間の対話が成立していたとは言えない。12月1日から事件(6日)までの間に主治医の渡邊朋之医師は野津純一氏の度々の診察要求をはねつけ、一度も問診と診察をしていない。しかし、事件後に検察の取り調べで、野津純一は「検事さんが若くて優しそうだったので何もかもお話ししました」と言って以下の供述をした。更にSG鑑定医にも同様に答えており、平成17年12月当時の野津純一氏に意思伝達能力があることが確認できる。野津純一氏を調査した検事もSG医師も共に職務上求められる被験者との対話能力を持って必要な情報を取得していた。ところが、渡邊朋之医師は患者との意見交換を保てず、統合失調症(Sc)であることを疑い強迫観念が強いとして10月26日に薬剤師を指導して、薬剤師が離反する原因となったが、結果的に渡邊朋之医師の方が患者野津純一氏の病状を正確に把握してない。

野津純一氏の検事に対する供述
  1. 殺人理由は病院の喫煙所が汚されるなど、イライラがたまっていたから(強迫障害)
  2. 12月に入って、私の病室のすぐそばのドアが大きな音を立てて開け閉めされることが3回ほどあり、さらに怒りがかき立てられた(被害念慮)
  3. 病院の喫煙所を汚す人たちは、私が外出したり病室で寝ているところを見計らって汚す(被害念慮)
  4. 私の喫煙をやめさせようとしている集団が悪質ないたずらをしているように感じた(被害念慮)
  5. 病院に対する怒りが抑えきれないほどになっていた(関係被害念慮)
  6. 腹立ちを解消する方法として。他人を包丁で刺すことを選んだ理由は、「イライラを解消するというのと、矢野さんを犠牲にすることで、私が裁判にかけられれば私の事件に関係ある者として、私の喫煙を邪魔していた集団が警察に捕まり、罰を受けることになるだろう」(思考の歪曲)
  7. 病室のすぐ隣に非常階段があり、「バタンバタン」とドアを明かしまする人がいて、私への嫌がらせかなと思い、私はイライラした(被害念慮)
  8. 12月5日6日はいつにも増して喫煙所が汚れていて、ドアの開け閉めがうるさかった(強迫性障害、被害念慮)
  9. 事件の前日からイライラ解消には人を殺すしかないのかという思いはあったが、はっきりと人を殺そうと決めたのは12月6日に病院を出る直前のことだった(思考の歪曲)
  10. 外出のため、エレベータホールに向かった時、「声が聞こえた所」で右の方から人の話す声が聞こえ「父親の悪口を言っているように聞こえた」(幻聴)
  11. 以前からイライラしているところにこの様な出来事が重なってカチンと頭にきた(感情の歪曲)
  12. 私はこのため完全に逆上してしまい、イライラを解消するためには人を殺すしかないと思った、私は怒りがこらえきれなくなった(感情・行動の歪曲)

渡邊朋之医師は「他人を殺すという考えは、本人が言わなければ解らない」と主張している。野津純一氏は、その考えが出たのは、12月5日と言っており、患者を診察しない渡邊朋之医師は、殺人の言動を直接的に知ることは不可能だったであろう。ところが、12月以降に「ドアの開け閉めの騒音」や「喫煙所の汚れ」等で本人は不満を蓄積し、「喫煙所を汚す人や集団」に怒りを蓄積し強迫性障害(不潔恐怖)や統合失調症の病状が悪化していた。この様な病状が悪化している状況の変化は、主治医がきめ細かな診察を行うか、看護師が顔面を正視して言葉を交える看護を行えば、病院は直接「殺人という言動」を聞かなくても「自傷他害の衝動が亢進している兆候」として把握可能である。特に、渡邊朋之医師の場合は、野津純一氏と言葉の対話が成立していたとは言えない。その上で、主治医は経過観察を行わず、診察要請があっても拒否した。これでは、患者の状況を把握することもできないが、患者の状況の変化を確認しない責任は、いわき病院と主治医にある。



4. 渡邊朋之医師は野純一氏の中断症状悪化を無視した

地裁判決(p.115〜116)は「風邪症状の訴えしかなければ主治医の診察は必要なく、外来の待合に並ばせる必要もない」としたが間違いである。主治医は11月30日に「強いムズムズ訴え」を把握し、異常体験(人の声、歌)等として幻聴を確認していた。また、看護記録に基づけば、平成17年12月1日以後の野津純一氏の言葉は以下の通りである。地裁判決は再発症状を見逃しており「風邪症状だけとした」ことは誤りである。また論理的な問題として、仮に風邪(インフルエンザ様)症状だけであったとしても、SSRIを中止した後であり、その事を理由にして主治医は患者を慎重に診察する義務があった。

事件直前の野津純一氏の病状の変化
11月30日 渡邊医師診察
患者 ムズムズ訴えが強い
退院し、1人で生活には注射ができないと困難である
心気的訴えも考えられるため ムズムズ時 生食1ml 1×筋注とする
クーラー等への本人なりの異常体験(人の声、歌)等の症状はいつもと同じである
看護記録
12月1日 「下肢がムズムズしてたまらんかった」、「手足が動く」
12月2日 「内服薬が変わってから調子悪いなあ…、院長先生が『薬を整理しましょう』と言って一方的に決めたんや」、「四肢の不随意運動出現」、「手と足が動くんです」
12月3日 「調子が悪いです。横になったらムズムズするんです」、「ムズムズするんです、薬下さい」、「体が動くんです」、「手足が動くんです、注射して下さい」
12月4日 「又、手足が動くんです、注射はいいです、何か薬下さい」、「アキネトン打って下さい、調子が悪いんです」、表情硬く「アキネトンやろー」と確かめる
12月5日 「少ししんどいです。足と手も動くんです。」
12月6日 10:00時「先生にあえんのやけど、もう前から言ってるんやけど、咽の痛みと頭痛が続いとんや」両足の不随意運動あるが、頓服、点滴の要求なし。
12:10分 外出
12:24分 本件事件発生
(控訴人矢野記載)

主治医は11月30日にムズムズ訴えと、幻聴を確認していた。野津純一氏の症状から、12月1日以降は「手足のムズムズ」と「振戦の訴え」が多く、風邪症状の訴えだけでないことは確かである。また、プラセボ試験を開始して以後、主治医は一度も診察せず、看護師は左頬と手の根性焼きにさえ気付かなかった。内部情報によれば、野津純一氏はこの間に「異常な幻聴出現」があり、第6病棟(閉鎖病棟)の看護師に訴えた。看護師は「野津は危ない」と主治医院長に伝えたが、無視された。香川町殺人事件の発生をTVニュースで知った第6病棟看護師たちは「事件の犯人は野津やわと噂し合った」という。渡邊朋之医師が患者野津純一氏の病状の変化(悪化)に関心を持たず、経過観察をしなかったところが、医療放棄である。

渡邊朋之医師は主治医として患者野津純一氏の「ムズムズ訴え」を心気的である可能性を疑い12月1日からプラセボ試験を行っていたので、患者野津純一氏に離脱症状(アカシジア)の発現があるか否かは論理的に重大関心事であった。そもそも幻聴を渡邊朋之医師は野津純一氏の症状として11月30日に確認していた。ところが、12月1日から6日までの間に亢進していたムズムズや手足の振戦等の症状及び患者のプラセボに対する不信感に主治医として何も対応していない。その上で12月5日の風邪(インフルエンザ様)症状である。主治医としては、看護師の報告からSSRIの離脱作用の可能性を疑って、患者を放置せず、病状を確認する義務があった。地裁が、「風邪症状の訴えしかなければ主治医の診察は必要ない」とした判決は、明白に誤判決である。主治医は、風邪(インフルエンザ様)症状の報告があったからこそ、診察する義務が生じていた。



   
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