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高松高等裁判所平成25年(ネ)第175号損害賠償請求事件
いわき病院の精神科医療の過失


平成27年3月2日
控訴人:矢野啓司・矢野千恵
inglecalder@gmail.com


5、地裁判断の間違い

高松地裁には、精神科医師の渡邊朋之医師と精神科医療機関及び日本の医学部精神科大学教授には不可侵の権威があると思い込みがあり、過失認定に消極的な姿勢があったと思われる。また、任意入院患者や第三者の被害者に対する法的過失責任を問うことにとまどいがあったと推察される。



1. 渡邊朋之医師は誤診を押しつけて患者と対話が成立してなかった

地裁は、渡邊朋之医師の野津純一氏の暴力行動把握に関して、「純一は渡邊のつっこんだ質問に対して回答を回避する傾向があった」(p.104、p.105)ので「渡邊が純一の過去の既往歴に無関心であったとは言えず、過失はない」(p.105)としたが誤りである。暴力既往歴に関して主治医交代時(平成17年2月14日)の問診で純一が「25才 一大事が起こった」と発言しかけた。しかし、内容を詳しく聞かず、精神医学的な確認をしなかったのは渡邊朋之医師である(平成22年8月、渡邊人証)。診療録に基づけば、渡邊朋之医師の突っ込んだ質問に対して野津純一氏の回答が渡邊朋之医師の思い通りでなかった事例は2回ある。渡邊朋之医師の診断上の錯誤と思い込みがあり、パーキンソン病治療薬のドプスの効果を渡邊朋之医師には「効く筈」という押しつけがあり、他方では野津純一氏は実感として「効いていない」と知っており、双方の思い違いが原因で、対話が成立しなくなっていた。この様な場合、対話責任が問われるのは主治医である。

渡邊朋之医師と野津純一氏の対話のすれ違い
i)、 主治医交代後、高力価定型のトロペロンに変更したことで野津純一氏には不快な「光が反射する」副作用が出たが、渡邊朋之医師はトロペロン副作用と思わず、「不気味な現象」とした(平成17年2月25日)。
ii)、 渡邊朋之医師は「ドプス投与で効果があるはず」と思い込んでいた。
8月16日 看護記録「あの白いカプセル(ドプスCap)効きませんね。最初はいいかなと思っていたのに、やっぱり手・足動くんです。」
10月27日 状況から、野津純一氏は「ドプスはやって良くなかった」と発言した筈だが、渡邊朋之医師は「ドプスはやって良くなった」と改変した。
11月7日 渡邊朋之医師診察
(薬) ドプス増えて、家に帰ると関節が痛くなる
(リューマチみたい) うーんどうも今回そうでない
(なかなか説明しても) アキネトン打ったら気持ちがよい
(中間施設の件) ないですね、謝るとかワーカーの許可と院長の指示
(あと困っていること) だいたいみつかったけど
(A)アセスメント 思考途絶、話に一貫性乏しいが

渡邊朋之医師はアカシジア(パーキンソン症候群)をパーキンソン病と診断してドプス(パーキンソン業治療薬)を投与したが、ドプスの薬効を患者自身は「初めの2、3日しか効かなかった」として否定し、FS薬剤師も野津純一氏の意見が正しい事を認めた。このドプスの薬効評価が渡邊朋之医師と野津純一氏及びFS薬剤師との激しい対立点である。渡邊朋之医師は野津純一氏をパーキンソン病(ドプス有効)と診断したが、野津純一氏は治療薬(ドプス)の効果に同意していない。このため渡邊朋之医師は「なかなか説明しても」また、「思考途絶、話に一貫性乏しい」と診療録に記載した。しかし、渡邊朋之医師は平成18年1月10日のレセプト申請で、「パーキンソン病」(ドプス有効)の診断を「パーキンソン症候群」(ドプス無効)に変更しており、診断上の認識間違いをしていたのは、野津純一氏ではなく、渡邊朋之医師であった。野津純一氏はアカシジア(パーキンソン症候群:イライラ、ムズムズ、手足の振戦)で苦しんでいたのであり、またその症状に耐えきれなくて殺人事件を引き起こした。渡邊朋之医師が診断間違いを認めてレセプト申請で訂正したことが確認されたことは重大である。

平成17年11月以降の渡邊朋之医師と患者野津純一氏の対立を、渡邊朋之医師の立場からだけで判断した地裁判決は、客観的な事実関係を踏まえておらず、間違いである。



2. 統合失調症診断に不安な主治医と患者の対立

SG鑑定医によれば、野津純一氏は鑑別不能型統合失調症である。渡邊朋之医師は薬剤師に対して「Scですか、強迫観念が強い患者です」また「薬の作用副作用も、通常の受け止めでなく、本人の気になった所見・作用のみ強調され認識されます」(平成17年10月26日)と指導した。渡邊朋之医師は主治医として慢性の統合失調症患者である野津純一氏に対して統合失調症の診断を確信しておらず、また、主治医であるが患者に対して客観性を保った治療者の立場を維持することができず、感情的な対立者になっていた。

SG鑑定書の野津純一氏の診断
  1. 一般に統合失調症は全くの末期を除いて常に意識は清明、知能も低下しない。人格荒廃の方が先に顕著になるが純一もその通りである。(p.13)
  2. 理屈はかなり遅くまで残存し、行為面が先にダメになる。(p.15)
  3. イライラを解消するために大判焼を食べたり、根性焼きと同一平面で「殺人」を想起するのは、統合失調症の根本症状である「思考・知覚・感情・行動の奇妙な歪曲」である。(p.15)
  4. イライラ解消に殺人を選んだのは野津の緊張型統合失調症の症状である(検察によるSG医師への電話聴取書、p.2)。

渡邊朋之医師は主治医として野津純一氏の「思考・知覚・感情・行動の奇妙な歪曲」を前提として、アカシジアでイライラが亢進した際の自傷他害行動に留意して慎重に患者観察を行う義務があった。現実に、野津純一氏は看護師にムズムズや手足の振戦を訴える頻度が12月1日以降増大していた。渡邊朋之医師は「野津の看護師襲撃は1回限り」として、精神科医療で自傷他害行動の予見可能性を持たなくても良いとする弁明理由としたが、1回の事例があれば、十分である。渡邊朋之医師は主治医として、統合失調症の治療を全て中止した患者に行為面の配慮を行うべきであったが、していない。



   
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