高松高等裁判所平成25年(ネ)第175号損害賠償請求事件
いわき病院の精神科医療の過失
3、平成17年11月23日からの精神科医療放棄
4. 自傷他害の危険性を亢進する処方変更の後で患者を守らなかった
1)、自傷他害の危険性の亢進に関する認識不在
渡邊朋之医師は、精神保健福祉法の指定医であるが、野津純一氏のような病状悪化時に放火暴行履歴がある統合失調症患者に抗精神病薬を中止して治療を中断する危険性を認識せず、パキシル突然中断の危険性も認識せず、漫然と外出許可を出し続けた。渡邊朋之医師は精神科医師であれば当然の、ましてや精神保健指定医であるにもかかわらず、患者の重大な自傷他害の危険性に関して、精神科医師であれば当然持つべき、予見可能性を持たず、治療的観察と介入を行わなかったことで、結果回避可能性を持てなかった。
患者が殺人する可能性を最初から予見する必要は無い。まして殺人行為を高度の蓋然性(80〜90%以上の確率)でも低度の蓋然性でも予見できるものではない。しかしながら、主治医が精神科医として常識的な予見可能性(高度の蓋然性である必要は無い)を持って経過観察を行っておれば、必然(高度の蓋然性以上の確率)的に結果回避可能性があった。それが精神科病院に備わる安全機能である。殺人事件は簡単に発生するものではないが、いわき病院は野津純一氏の病状悪化の兆候をとらえ、未然の対応をすることは可能だった。精神科臨床医としての基本無視の怠慢と医療放棄が、精神科医療機関として結果回避可能性を持てず、殺人事件を発生させた。
2)、開放医療は患者を治療せず患者を放任する理由にならない
野津純一氏の両親は入院前問診で、病状悪化時の放火暴行歴を申告した。いわき病院は任意入院で開放処遇を行っていたが、病状が悪化した患者に治療を行わずして、自ら意のままに市中行動を行わせる理由はない。主治医は統合失調症の治療を中断しており、行動に危険性が発生する可能性を予測するべき状況にあった。更に添付文書で禁止されているSSRI抗うつ薬パキシルを突然中止した。主治医の処方変更で発生した状況で、医師は患者の安全に万全を行うべき責務を有していた。病状の悪化が予想できる状況で、患者が治療的介入を受けず、病院を出て自分の意のままに市民と交わることが出来る放任は許されない。地裁判決は無垢なる素人を仮装した弁明を容認したが、専門職の無為と怠慢を許した判決は間違いである。
3)、MO医師の12月5日のレセプト承認
渡邊朋之医師は平成22年8月の人証で、「12月5日に内科医が診察した」と証言した。診療録12月5日のMO医師の記載は、ON看護師が同日朝10時に与薬した薬剤包のレセプト承認である。重要な問題は、野津純一を診察した証拠となる記述が存在しない。また、精神科病院に勤務する内科医であるにもかかわらず、風邪症状と聞いてSSRI抗うつ薬パキシルを突然中止したことに伴うインフルエンザ様症状を疑わず、確認診察した記述が見当たらないところにある。MO医師は診察も問診も行わずにレセプト承認を事務的に行っていたのである。
4)、治療放棄は精神科開放医療ではない
いわき病院は、控訴人の指摘に対して「精神科開放医療を否定する主張」と反論した。精神科開放医療が定着して、精神科病床数が削減されている国々は、精神障害に対する治療を放棄せず、事故から患者を守ることが優先される。患者の治療を行わず患者を守らないで放任する精神科開放医療という主張は、不真面目で無責任であり、医療機関として本末転倒である。
5. 医師としての基本的素養の欠如
デイビース医師団鑑定人は高松地裁に最初に提出した鑑定意見書(2012年3月1日/ P.11)で以下の指摘を行った。
(英国の)医学生が長期的兆候(付け火、暴力及び重大精神障害の履歴)と緊急の短期的兆候(患者の精神状態を不安定化させる可能性が高い、直前に行われた突然の薬剤処方の変更等)に気付かなかった場合は、これらは暴力発動に危険性を増すことに繋がるため、落第となる。
学生がこれらの問題に気付いたとしても、緊急性が迫った高度な危険性に対処できる治療計画(患者の日常的な精神状態と危険性の変動と評価、それに基づく治療計画の作成、危機が軽減したと判明するまでの経過時間を病棟内におらせる又は付き添い付きの外出を許可する等)を提示できない場合にも落第である。
ブリストル大学医学部学生の卒業資格は英国精神保健法に基づく実行可能な知識を持つことが要件である。野津純一のケースの場合、学生は患者の状態から措置入院に移行させる条件を認定する事が求められる。学生は精神病状が進行している患者の状況を判断して、患者本人が病院内に留まることを望まない場合にも、精神保健法に基づいて拘留を検討できる暴力リスクの程度を判断しなければならない。
渡邊朋之医師が患者野津純一氏に行った精神科医療は英国であれば、医学部学生としては精神科専門医の分野ではない一般学生にも必修とされている精神医学の基本的な認識に間違いがあり、そもそも医師としては落第点の医療行為であるという評価である。渡邊朋之医師は精神保健指定医たる精神科専門医であり、病床数248の精神科病院長であり、国立香川大学医学部付属病院精神科外来担当医師であり、精神科開放医療を推進するSST普及協会の理事たる指導者である。その渡邊朋之医師の精神科医療行為は英国の医学部では落第学生の水準という評価である。
渡邊朋之医師の弁明の基本の「不勉強で知らないから責任は無い」は詭弁である。医師として要求される水準に達していないことは過失である。渡邊朋之医師は精神科臨床医として当然求められる水準に達していない。いわき病院と渡邊朋之医師は精神科開放医療であるから、複数の向精神薬を同時に突然中止した処方変更の後で、主治医が病状の変化を診察する経過観察を行わなくても良い、また、精神障害があっても任意入院の開放医療を行っている患者の病状を確認して患者を保護することは精神科開放医療の否定であると主張してきた。このような無作為と医療放棄を、法治国家である日本が許すことは、精神科医療の荒廃を促進することである。いわき病院と渡邊朋之医師が行った、精神科医療を積極的に荒廃させる要因は以下の通りである。
いわき病院医療の反社会的要素
- 病状悪化時に放火暴行歴が有る慢性統合失調症患者の過去歴を無視した。
- 統合失調症治療ガイドラインの基本を無視した抗精神病薬の突然中止を行った。
- 当時は既に常識でのパキシル突然中止の危険情報を知らず、またパキシル添付文書の記載を間違えて理解(いわき病院控訴審答弁書、平成25年9月30日)していた。
- パキシル添付文書の突然中止の注意に関する理解を間違えていた。
- パキシルとプロピタンのインタビユーフォームを理解していなかった。
- 重篤副作用疾患別対応マニュアル・アカシジア(乙B17)に記載がある「中止後に重篤なアカシジア出現」を知らず、無謀な処方中止を行った。
- 重大な処方変更後、病状悪化するはずがないと思い込み患者を主治医本人が直接経過観察の診察を行わず、病状悪化に気付かなかった。
- 薬剤中止による病状悪化時の改善(治療的介入)方法は、統合失調症治療ガイドラインとパキシル添付文書に記載がある通り、「元の用量にて再投与する」という極めて単純明快なことであるが、無知で行わなかった。
- 「先生に会えんのやけど、前から言っとんやけど、頭痛と喉の痛みが続いとんや」と嘆く患者の願いを拒否した上に放置した。
6. 精神障害者野津純一氏のための精神科医療
渡邊朋之医師は慢性統合失調症の野津純一氏に抗精神病薬プロピタンを中止して、SSRI抗うつ薬パキシルを同時に突然中止する処方変更を事前に説明して同意を得ていない。渡邊朋之医師は10月26日に「Scですか、強迫観念が強い患者です。薬の作用副作用も、通常の受け止めでなく、本人の気になった所見・作用のみ強調され認識されます」、また11月7日に「思考途絶、話に一貫性乏しい」と記載して患者と主治医の間で意思疎通をとれない事実を記載した。しかしながら、このことは患者に処方変更の方針を説明しない理由とはならない。さらに、連続して面会(11月16日、18日)した両親にも処方変更の説明と同意を得ていない。渡邊朋之医師は処方変更後11月30日に1回しか診療録に記載する診察を行っていない。特に、プラセボテストを開始した後で、患者が不信感を表明しても主治医はプラセボ効果を評価する問診と診察を行っていない。向精神薬の処方変更やプラセボ試験は何が目的であったか、渡邊朋之医師の行動からは裏付けが取れず判然としない。渡邊朋之医師が患者の快復を目的とした治療を行っていたとは言えない。この様な治療姿勢が、患者が殺人事件を引き起こすことを未然に防止できなかった背景にある。
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