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高松高等裁判所平成25年(ネ)第175号損害賠償請求事件
いわき病院の精神科医療の過失


平成27年3月2日
控訴人:矢野啓司・矢野千恵
inglecalder@gmail.com


3、平成17年11月23日からの精神科医療放棄


3. 野津純一氏の病状の悪化


1)、渡邊朋之医師の経過観察を行わない過失

野津純一氏のパキシル離脱症状はパキシルを突然中止してから6日目の11月28日に「車に酔ったみたい気分が悪い」と訴え、嘔吐時の屯用を服用した時から始まった可能性が高い。嘔気はパキシル離脱症状(パキシル添付文書、P.1 )の一つである。渡邊朋之医師は複数の向精神薬(パキシルとプロピタン等の同時突然中止したことで「副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合」を起動していたにもかかわらず、その認識を有せず「連続的な容態の経過観察」を行わなかった。渡邊朋之医師は離脱症状の発現に関心を持たず不適切である。特に、11月30日は最後の診察であり、渡邊朋之医師が治療目的に関連した症状の診察と確認で、何に気付いたか極めて重要である。


2)、12月1日以降の野津純一氏の不安焦燥

12月1日からは、複数の向精神薬の同時突然中止後に一旦治まっていた振戦(パキシル離脱症状の一つ)が始まり、日を追う毎に悪化したが、ニセ(プラセボ)のアキネトン注射ばかりでアカシジア(イライラ・振戦)は改善せず、野津純一氏はイライラして根性焼きを行った。患者本人には注射がニセではないかという不信感もあった。離脱性アカシジア(パキシル離脱症状の一つ)がひどくなったが診てもらえず、不安焦燥(パキシル離脱症状の一つ)が増幅された。喉痛、発熱に頭痛(パキシル離脱症状の一つ)(風邪症状とインフルエンザ様症状は似ている)が続いており、もらった風邪薬屯用では良くならないので、最後の頼みの綱で正式に診察願いを出したが却下され、野津純一氏の失望は大きく、不安焦燥感が更に増えた。


3)、野津純一氏の統合失調症再燃

野津純一氏は、運悪く時を同じくして、抗精神病薬(プロピタン)が体内から無くなり、統合失調症が再燃(リバウンド)していた。根性焼きをしてもイライラはひどくなるばかりで、12月5日には「このイライラを鎮めるため人を殺す」決意をした(思考の歪曲出現)。診察拒否された日は、父親の悪口の幻聴や集団が喫煙の邪魔をする(被害関係妄想)が出ていた。野津純一氏が外出した時には、本人は激情・逆上(激越、錯乱、興奮はいずれもパキシル離脱症状の一つ)していた。そして殺人を実行した(プロピタンの異常行動抑制作用が失われていた)。渡邊朋之医師は患者野津純一氏が発言しなければ知りようがないと主張したが、「連続的な容態の経過観察」を行わなかったため、患者の病状が極端に悪化した兆候をとらえることができなかったのである。医療義務違反を弁明の理由にして、責任回避を行うことは許されない。


4)、患者の顔面を見ない医療と看護

野津純一氏は、殺人後に血だらけの手のままで直ちに病院に戻った。病室で手を洗ったので、洗面所が血で汚れ、服についた返り血がシーツについていた可能性がある。いつも書く帰院時刻を記入せず、いつも会う母親を追い返し、いつも完食するのにその日の夕食と翌日の朝食も食べなかったが、第2病棟職員は誰も野津純一氏の異変に気付かず、外出許可も続行されたままで、翌日血のついた同じ服で外出し、身柄拘束されて始めて、主治医と第2病棟職員は受け持ち患者が殺人犯だったことを知った。ここでも、いわき病院が「連続的な容態の経過観察」を行わなかった怠慢が表れている。

患者野津純一氏の顔面左頬の根性焼きは既にショッピングセンターのレジ係に確認されていた。しかしいわき病院は野津純一氏が25時間いわき病院に滞在し、様々な普通とは変わった行動で異常な状況を示していたにもかかわらず、根性焼きを発見していない。これは、25時間にわたり、いわき病院内の医療者は誰も野津純一氏の顔面を正視する精神科看護の基本観察を行わなかった事実を確認する。いわき病院は「連続的な容態の経過観察」を行わないどこまでも能天気な精神科専門医療機関である。


5)、風邪症状の報告があれば主治医は診察する義務があった

12月6日の野津純一氏の殺人行為を左右する要素として、前日から風邪症状があったか否かは、重要な問題ではない。風邪やインフルエンザが流行する冬期に殺人が頻発するという事実もない。風邪症状の有無で、アカシジアの診断とイライラによる精神症状の悪化と殺人衝動が左右されることはない。

当時の野津純一氏はSSRI抗うつ薬パキシルを突然中止されていた。問題の本質は、風邪診断ではなく、野津純一氏が持続的に苦しんでいた、アカシジアに対する主治医の対応である。看護師から風邪症状という報告があれば、主治医は中断症状が発現した可能性を示すインフルエンザ様症状の可能性を考えて直ちに自ら診察を行う対応をする義務があった。そのような状況にある中で、主治医が重大な時期にある患者を経過観察せず、診察しないことが問題である。患者に発生した重大な兆候を見逃して、風邪だったからたいしたことはないと主張して、患者の治療放棄をする医療を放置してはならない。仮にも内科MO医師の風邪記載(診断ではない)があったことを理由にして、SSRI抗うつ薬パキシル中止による離脱症状のインフルエンザ様症状であった可能性を不問として、いわき病院の精神科医療の免責理由とすることがあれば、それは間違った判断である。いわき病院の診療録の記述からはMO医師が診察したという確認は取れない。また、MO医師は一貫して野津純一氏のアカシジアに関心がない。問題の本質はいわき病院がアカシジアの再発の兆候に対応したか否かであり、判断を惑わされてはならない。

風邪(インフルエンザ様)症状はSSRI抗うつ薬パキシルを突然中止された患者に発生することがある、中断症状が発現して病状が悪化した兆候である。看護師から風邪症状の報告があったからこそ、主治医は患者を診察して慎重に観察する義務を認識するべきであった。その状況にもかかわらず、風邪症状を理由にして主治医の怠慢を免責する判断を行う事は間違いである。主治医の渡邊朋之医師がパキシル突然中止に伴う危険性に関する認識を持たなかったことが、過失の本質である。精神科専門医の「知らなかった、だから責任は無い」という子供の弁明を許してはならない。このような無責任な人物を主治医として信用した野津純一氏は哀れである。

渡邊朋之医師が行う医療行為の持続的な事実は、統合失調症の病状が安定していて抗精神病薬を変更するべき理由がない状況でも、患者と保護者に事前説明と同意獲得を行うこと無く、他の医師への反発という感情論や、自分の好みや思いつきで抗精神病薬の処方変更や中止をすること。また、それにより病状が悪化しても目の前に見える症状に対応するだけで、自ら行った抗精神病薬の処方変更・中止に関連して添付文書の記載を確かめるなど、病状の変化が発生した根本原因を探求しないこと。統合失調症治療ガイドラインや薬剤添付文書など基本的な文書の記載内容を確認せず、指示に逸脱した医療を行っても、自らの誤りに気付いて自ら修正を行うことが無い医師である。

事件の本質は渡邊朋之医師の「無知を容認する子供の弁明:知らなかったから私に責任は無い」にある。渡邊朋之医師は精神科専門医であり精神保健指定医であるその専門家が自らの専門分野の医療活動で、基本的で知るべき情報を「知らなかったから責任は無い」と抗弁することは反社会的である。この様な医師が精神科病院長の職責にあることはそもそも間違いであり、医師免許を返上させることが望まれる。渡邊朋之医師が行った、不勉強による無知がもたらした弁明を、免責理由にしてはならない。



   
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