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高松高等裁判所平成25年(ネ)第175号損害賠償請求事件
いわき病院の精神科医療の過失


平成27年3月2日
控訴人:矢野啓司・矢野千恵
inglecalder@gmail.com


2、精神医学に関する鑑定論争


8. 最終段階のいわき病院の戦術

地裁鑑定論争の経験から予見できる、鑑定論争の最終段階のいわき病院の手法は、焦点をねじ曲げ、控訴人側の反論を封じて逃げ切ることである。いわき病院にとって、裁判で敗訴しなければ勝訴であり、敗訴しないためのテクニックが使用される。


1)、いわき病院は実態が伴わない主張をする

医師が日常の看護師の観察を参考にして診察を行い治療的介入を行う事は常識であり正しい医療である。しかしながら、それが正当であるためには医師自らによる診察・治療とその内容のカルテ記載を行うことが必須である。平成17年12月1日から7日までの渡邊朋之医師は自ら行う患者観察と診察及び治療的介入を一切行っていない。その事実に目隠しして、文中では言及せずに、「看護師の観察を参考にすることに問題はない」とIG鑑定書は主張した。一見この主張は正しい様に見え、地裁裁判官に対して説得力を持った。しかし、現実に行うべき医師の診察が伴っておらず、看護師の観察と看護記録記述だけで野津純一氏に対して行った精神科医療が診察と処方変更効果判定、及びプラセボ効果判定ができていたと認定した地裁判決は医師法違反である。IG鑑定人は全てを述べないことで、治療放棄から裁判官の関心を巧みに逸らせたのである。


2)、いわき病院鑑定人が全鑑定意見をとりまとめたかのように見せかける

地裁判決ではIG意見書(3)は平成24年12月21日の結審日の直前に提出され、原告(控訴人)側の鑑定人の反論を時間的制限で封じた上で、IG千葉大学教授のとりまとめ意見として「原告から証拠として提出された、FJ意見書(甲A69)、NS第2意見書(甲A70)。デイビース第2意見書(甲A71)、がいずれも、本件におけるいわき病院の野津純一に対する診療行為の適否を評価する意見として相応しないものである」と述べた。IG鑑定人は自らが最高権威者を装い、原告が推薦したFJ、NS及びデイビース医師団鑑定人の鑑定意見を講評して退けたことが、地裁裁判官の認識を決定づけたと言える。そもそも相手方の反論が時間的に不可能であることを見越して、自らは他鑑定人の意見を評価できる権威者として、鑑定論争を逃げ切ることは許されない。

IG鑑定人がIG意見書(3)に自信を持っているのであれば、高裁鑑定論争は地裁鑑定論争の継続であり、UD教授ではなくて、IG教授が自ら高裁鑑定意見を執筆することが当然であった。IG鑑定(III)(乙B20、p.8)は「パロキセチンの副作用に関する知識やいわき病院における治療・看護の水準が、平成17年12月6日当時の一般の精神科臨床における医療水準と比較して妥当であったか否かについての法的評価は、最終的には裁判所が行う事であるが、精神医学的見地から評価を示すならば、精神科臨床の一般的水準を逸脱するものとは言えないと判断する。」と述べた。平成15年8月から一貫してパキシル(パロキセチン)添付文書は「突然の中止」を禁止していたが、IG鑑定人は「「パキシル突然中止は避けること」が記載されたのは平成15年8月だが、「投与中に自殺行動リスク上昇が報告されているので注意深く観察する」の追加はH18年6月、抗うつ薬服薬に伴う他害行為調査がH21年2月、その結果が添付文書に載ったのはH21年5月」(乙B18、p.15)として、添付文書違反の問題を「投与中の他害行為リスク記載(H21年5月)」にすり替えた。他害行為の記載が事件の後でも、「パキシル突然中止は避けること」の記載日は変更されない。この様な目くらましの論点隠しに誘導されたことは地裁裁判官の限界と錯誤である。「一般の精神科臨床における医療水準」を主張したIG鑑定人は、薬剤添付文書の重大な基本的注意を守らず、精神科医療に二重基準を認めているため科学的普遍性を持つ意見ではなく、「精神医学的見地」を主張できない。控訴人(原告)側は高裁鑑定論争では、IG鑑定人の地裁最終鑑定書に反論を行う所存であったが、IG教授が鑑定論争から逃げ隠れしたことは残念である。

いわき病院側は高裁でもこの様な「UD鑑定人による、最終とりまとめ」をして、高裁裁判官の判断を誘導する可能性がある。いわき病院の最終戦術と裁判官の理解力の問題であるが、本件裁判の精神医学的判断で、裁判官が道に迷う判決があれば、日本の精神医学界の国際的評価と尊厳を大きく損なう。「いわき病院における治療・看護の水準」は低い、しかし本質の問題は、治療放棄と看護の怠慢である。いわき病院の医療とは言えない実態に眼を背けてはならない。また、UD鑑定人は精神医学者ではない。


3)、鑑定論争は終了すべきである

本件裁判の鑑定論争は終了すべきである。いわき病院は精神科病院として地裁でも高裁でも推薦した鑑定人の名誉と尊厳を尊重していない。鑑定人たる大学教授の学識を損なう鑑定依頼を精神科病院と精神保健指定医は行うべきではない。なお、いわき病院が鑑定論争を継続する意思を持つのであれば、論争の継続を止めないが、その場合には、鑑定根拠を提出しなければならない。大学教授の名前があれば正しい意見ではない。また、いわき病院の錯誤と医療放棄は、大学教授が鑑定する必要も無い、単純で明快な事実認定の問題である。本件鑑定論争はIG鑑定人とUD鑑定人には不名誉な展開となったが、本来学術論争では学者の尊厳が尊重され、この様なことはあり得ないはずである。



   
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