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高松高等裁判所平成25年(ネ)第175号損害賠償請求事件
いわき病院の精神科医療の過失


平成27年3月2日
控訴人:矢野啓司・矢野千恵
inglecalder@gmail.com


1、いわき病院が野津純一氏に行った精神科開放医療


2. いわき病院代理人の10人中7人までの殺人を容認した弁論


1)、代理人の論理はいわき病院の事実

本件裁判ではいわき病院代理人の論理が先走っていると思われるころが散見された。しかし、代理人が主張した事実関係と論理の破綻もいわき病院が主張した精神科医療の現実であり、その責任はいわき病院にある。法律家である代理人が、精神医療に関する事実関係の確認及び論理構成を、いわき病院の承認と同意を基にして法廷に提出したものであることが大前提である。

いわき病院が地裁から高裁に至るまでの提出した主張(答弁書、準備書面等)のある部分は「代理人が弁論のために提出した主張であるので、いわき病院に責任は問えない、また、問うことは間違い」という論理はない。間違った主張があったと被控訴人側が認識するのであれば、その事を個別に法廷で訂正しなければならない。訂正がない場合は、全ていわき病院の実態と主張である。


2)、高度の蓋然性(10人中7人まで殺人容認)の論理は間違い

『いわき病院代理人は依頼者の弁明という大義名分があれば、「高度の蓋然性の論理で、10人中7人までの殺人は許される」と主張しても許されると考えている』としたら間違いである。この主張をいわき病院が主張した医療記録は残されておらず、代理人弁護士が提出した論理だから、いわき病院に責任を問うことはできないとして、裁判所が判断する対象外とすることは、重大な人権侵害を容認することにつながる。いわき病院の主張は、殺人事件の発生を当然のこととする人道上極めて深刻な生存権を否定する精神科開放医療に関する主張である。高裁はこの主張の適否に関する判断を回避してはならない。

いわき病院が殺人を容認する非人道的な論理で精神科医療を行うことは許されないことは、自明である。仮に外出許可者の10人中の1人が殺人を行うような状況があれば、その状況は社会が震撼する異常事態である。いかなる機関であれ放置することは許されない。地裁はこのいわき病院の主張(地裁第11準備書面、P.14 (4)本件の評価、及びP.28 4結論の(3)及び(5)、平成22年12月17日付)の非人道性に関して判断していないが、これは実質的に裁判所が10人中7人までの殺人を容認したことになる。

本件主張は「代理人の主張」として裁判所が判断しないまま放置すれば、今後に提訴される裁判でも同じ論理が繰り返して提起される可能性が極めて高い。現実にいわき病院代理人はいわき北陽病院事件で最高裁に棄却された論理を本件裁判でも、その事実に言及することなく使用した。この様な非人道的な国民の健康に生きる権利を否定した主張には、明確な判断を示す必要がある。


3. 渡邊朋之医師が主治医を引き継いだ時の不始末


1)、渡邊朋之医師は病状が安定していた患者の主治医を引き継いだ

野津純一氏がいわき病院に入院して4ヶ月半後の平成17年2月14日にいわき病院長渡邊朋之医師が主治医を交代したが、その時の前医NS医師の最後の診断は「Stable:安定」である。いわき病院に入院した後で、NS医師の治療で、野津純一氏の病状は改善していたことは明らかである。しかしながら主治医を交代した渡邊朋之医師は「前医の治療が良くなかったが、一時的に改善していた」と表現した。事実認識として渡邊朋之医師は「患者の野津純一氏は前医の治療で改善していた事実があり、その改善していた状況を引き継いだ事実」を確認していた。

渡邊朋之医師が付記した「前医の治療が良くなかった」に根拠が無い。この背景にはいわき病院長渡邊朋之医師の勤務医NS医師に対する個人的な勤務評価の問題が介在しているが、法廷判断の根拠となる医療事実としては「前医の治療が良くなかった」は渡邊朋之医師の誤った評価・認識であり、「Stable」の医療記録が事実として重要である。その上で、薬剤添付文書を読まず、経過観察を真面目に行わない渡邊朋之医師の医師としての治療姿勢で野津純一氏に対する精神科臨床医療を行った事実が本質的な問題である。


2)、渡邊朋之医師は病状悪化を招いたが対応できなかった

主治医を引き継いだ渡邊朋之医師は、統合失調症患者の病状が良好「Stable」と自らも確認したが、早くも交代2日後の2月16日から、抗精神病薬を非定型のリスパダールから高力価定型のトロペロンに変更する処方変更を実行した。ここに前医NS医師の治療を否定したい、いわき病院長渡邊朋之医師の思い上がりがある。しかしながらその後に展開した事実に基づけば、野津純一氏は、翌17日に「意識消失発作」があり、20日以降には病状が悪化して「頭痛、腹満、悪寒、嘔吐、便秘、光が反射」の症状があった。渡邊朋之医師の処方変更は適切ではなかった。

病状の急変に、渡邊朋之医師は抗精神病薬を変更した直後にもかかわらず病状が処方変更に関連している可能性を検討せず、表面的な症状から腸の感染症と診断して対応した。渡邊朋之医師は添付文書に記載がある「嘔吐、著しい便秘、腹部膨満、食欲不振、全身倦怠」の症状に基づいてトロペロン副作用(腸管麻痺)の可能性を疑っていない。本件殺人事件の発生を未然に防止することができなかった医療錯誤でも、渡邊朋之医師が添付文書を読まない医療錯誤が、漫然と繰り返された事実があったことが重大である。


3)、MO医師は野津純一氏の病状に無関心

野津純一氏のカルテに登場するKS医師(21日20:30時)はイライラを記述したのみである。MO医師(22日、23日)は風邪症状に対応する頓服とカマグを処方したが、野津純一氏の病状の悪化に対応していない。内科医として病状を確認せず、観察していない。MO医師は患者の病状を確認する診察を行わずカルテのレセプト処理をする医師である。MO医師がレセプト処理をするときに、患者の現在の病状を確認しない姿勢は一貫している。12月5日にも、MO医師のレセプト処理を診察した事実としていわき病院の過失免責理由とした地裁判決は間違いである。なお、渡邊朋之医師は人証で内科医が診察したと証言したが、その発言の真偽を疑わず、事実と認定した地裁判決は安易である。


4)、SZ医師は対応できた

2月23日にSZ医師が抗精神病薬のトロペロンを中止してリスパダールに戻して、野津純一氏の病状(胃腸症状等)は劇的に改善した。渡邊朋之医師が添付文書を読むという基本に忠実であれば、簡単に対応できた事例である。平成17年2月の渡邊朋之医師の処方変更に伴う野津純一氏の病状の悪化は、主治医がトロペロン薬剤添付文書を確認しておれば対処可能であった事実を物語る。そもそも、渡邊朋之医師は抗精神病薬をリスパダールからトロペロンに変更する必要は無かった。


5)、渡邊朋之医師を助けるチーム医療は破綻した

幸いにも渡邊朋之医師の主治医交代直後の不始末を、いわき病院はチーム医療で重大な結末に至る前に回避できた。言い換えれば、この時点ではいわき病院で野津純一氏の治療でチーム医療が機能していた。しかし、その後の9ヶ月間の経過で、いわき病院長渡邊朋之医師と勤務医の精神科医師、薬剤師、及び看護師の間のチーム医療が、少なくとも野津純一氏に対する治療で、機能しなくなっていた。この機能の荒廃が重要である。野津純一氏が11月23日の処方変更まで「それなりの入院生活を送っていたから免責される」のではない、この点で地裁判決は間違いである。事実は過去の暴力歴は全て統合失調症に由来しており、そして野津純一氏の殺人である。野津純一氏の殺人衝動を未然に防止できなかったいわき病院の精神科医療に過失責任が問われる。

一連の経過で、渡邊朋之医師は抗精神病薬トロペロンの添付文書に記載された副作用情報を読んでいなかったが、この行動様式は、同年11月23日以降の病状の変化があった際に、SSRI抗うつ薬パキシルの添付文書や文献にあるSSRI中止時の特徴を踏まえなかったこと、及び統合失調症治療ガイドラインを無視した医療行動に通じる。そもそも平成17年2月の野津純一氏の突発的な病状の悪化は主治医の渡邊朋之医師が原因者である。その病状の悪化に主治医として原因をつかむことができず、病状を改善できず、また病状が悪化している時に継続して患者観察と治療を行わず、渡邊朋之医師は主治医として対応できなかった。渡邊朋之医師の不勉強と知識不足は一貫している。

主治医交代時には、いわき病院としては仕事に忠実な勤務医の協力がありチーム医療が機能したことが幸いした。渡邊朋之医師はいわき病院長であり、チーム医療の維持と機能向上を図る義務を有している。本件殺人事件が発生する直前の10月の時点で、渡邊朋之医師は野津純一氏を医師の指示を聞かない強迫観念が強い患者と考えたが、薬剤師は「コンプライアンスが良い患者」と意見が違い、薬剤師は渡邊朋之医師から離反した。渡邊朋之医師が複数の向精神薬の同時突然の中止を行うに当たって、薬剤に関する助言を行う薬剤師が処方変更に同意せず離反していたことは、重大な組織上の問題である。そして、渡邊朋之医師は薬剤師の助言に反し独りよがりの単独で、複数の向精神薬を同時に突然中止した。また看護師は顔面を精神科看護の基本から逸脱して患者を正視する看護を行わず、更には、2月の時点で行われた勤務医の精神科医師が病院経営者の渡邊朋之医師をバックアップする体制がなく、いわき病院ではチーム医療が崩壊していた。

平成17年2月の時点では2人の精神科医が協力したが、NS医師は渡邊朋之医師が資質を嫌い、SZ医師に関しては錯誤を助けられたことが病院長として不愉快で野津純一氏の治療から遠ざけた可能性がある。2医師に合わせて薬剤師が離反したことは、薬事処方で複数の向精神薬を同時突然中止した渡邊朋之医師の暴走をチェックできる、薬事処方の問題点を理解して対応できる高級医療技術者が不在で、機能の面からもチーム医療の崩壊は深刻な状況であった。上記の過程で、内科のMO医師はレセプト承認の機能を受けもち、渡邊朋之医師の従順な協力者であり続けたが、一貫して野津純一氏の精神科医療ではチーム医療の外にいたことは重要である。いわき病院でチーム医療が機能しておれば、殺人事件は未然に防止できた問題である。渡邊朋之医師は野津純一氏に複数の向精神薬の処方変更を行った事実を看護師に周知せず、留意点を指揮していない。渡邊朋之医師はいわき病院長であり、チーム医療を破綻させたことに責任を有する。月日の経過でいわき病院の医療の荒廃が進み累積したことは、デイビース鑑定人の指摘である。

いわき病院長渡邊朋之医師が野津純一氏に対して平成17年2月に行った医療錯誤の教訓は、同年11月から12月にかけての事件で活かされることはなかった。渡邊朋之医師は自らの不足や錯誤を見直すことができない精神科医師である。



   
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