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いわき病院事件の高裁鑑定論争


平成27年1月21日
矢野啓司・矢野千恵
inglecalder@gmail.com


1、高裁鑑定論争の概要


(3)、抗精神病薬(プロピタン)の突然中止


(1)、高裁鑑定人は地裁鑑定意見を否定した

  いわき病院の地裁鑑定人(千葉大教授)は「患者野津純一に投与され抗精神病薬(プロピタン)は11月23日に突然中止されたけれど、2週間後の12月6日には薬効が持続していたと考えられる」と鑑定意見を述べました。ところがいわき病院高裁鑑定人(琉球大教授)は、「プロピタンは1日か2日で速やかに体外に排出されてなくなる、事件当時の12月6日まで薬効は持続しない」という鑑定意見であり、いわき病院が推薦した地裁鑑定人と高裁鑑定人で鑑定意見に矛盾がありました。このいわき病院側の矛盾はどちらの鑑定者の意見が正しいか否かという論争ではありません。いわき病院は地裁で提出した抗精神病薬(プロピタン)に関する鑑定意見を、高裁では改めて鑑定意見を提出して「間違い訂正した」ことになります。すなわち、いわき病院は地裁判決の根拠となった「事件当時には抗精神病薬(プロピタン)の薬効は持続していた」という主張を取り下げたことで、地裁判決を自ら否定しました。いわき病院は、「判決は間違いと主張した事実は無い」と反論するでしょう。確かにいわき病院または高裁鑑定人(琉球大教授)から「地裁判決は間違い」という言葉はありません。しかし、双方の鑑定意見は矛盾しており、論理的には「地裁判決の根拠は間違いだった」として地裁鑑定意見を訂正・提出した高裁鑑定人の意見となります。

上記のいわき病院高裁鑑定人意見(平成26年7月29日付)はいわき病院高裁第2準備書面(平成26年5月12日付)の「2 プロピタンの中止について (3)プロピタンの薬理特性」と一字一句に至るまで同一です。このような「コピペ」の鑑定意見を大学教授が提出した事実はいわき病院鑑定人の医学者としての尊厳を傷つけます。鑑定意見書は高松高等裁判所にいわき病院代理人を通して提出された大学教授署名入りの公式文書です。


(2)、いわき病院高裁鑑定意見は間違い

  いわき病院高裁鑑定人は抗精神病薬(プロピタン)150mg/日はそもそも薬効を期待できないほど低用量であったので「突然中止しても中断症状が発現する程の問題は無い」と主張しましたが、証拠論文を提出できない主張です。プロピタン150mg/日量は標準的な処方量の範囲であり、薬効が期待できるとして認知された用量です。更に、WHOの換算値に基づけば、ハロペリドール6mg/日と同等であり、これはハロペリドール最大許容量で、決して薬用量が低すぎると言うことはありません。すなわち、いわき病院高裁鑑定人は抗精神病薬(プロピタン)の薬効に関する認識を間違えており、鑑定意見は錯誤です。この様な錯誤でも大学教授の鑑定意見として裁判所に提出したところに、いわき病院の医療に精神薬理学的な過失があった証拠となります。



(3)、いわき病院医療の精神薬理学的根拠は破綻した

  いわき病院は精神科専門医療機関であり、野津純一氏に確定診断された慢性統合失調症患者の治療に習熟した医療機関です。そのいわき病院は高裁第2準備書面で抗精神病薬(プロピタン)の体内残存に関する地裁判決を否定し、その事をいわき病院高裁鑑定人(琉球大学教授)が鑑定人として裏付けました。いわき病院は地裁判決根拠を2回にわたり、繰り返して文書で否定しました。その上で、地裁判決根拠となった地裁鑑定人の意見を訂正して提出したいわき病院が推薦した高裁鑑定意見は錯誤でした。すなわち、いわき病院は野津純一氏に対する統合失調症の治療を適切に行った事を証明する根拠を失いました。これは、いわき病院が自ら主張し、かつ高裁鑑定人(琉球大学教授)が追認した見解です。




   
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