いわき病院医療が引き起こした矢野真木人殺人事件
相当因果関係と高度の蓋然性
1、事件の基本構造
いわき病院長渡辺朋之医師が入院患者野津純一氏に行った医療が、患者に通り魔殺人事件を発生させるに至った事件の基本構造は以下の通りである。問題の本質は、精神医療の基本を守らない、いわき病院が錯誤と誠実性に欠ける医療を行った過失である。
1、任意入院を理由とした放火暴力歴の無視
いわき病院長渡辺朋之医師は野津純一氏が任意入院であることを理由にして、患者の放火暴行履歴を考慮しないで精神科開放医療を行い、入院患者の暴力行動に関して予見可能性を持つことがなかった。渡辺朋之医師は「任意入院」を免責の理由として繰り返し主張した経緯があり、主治医の確定意思として「任意入院患者に暴力行動を予見できない」と主張した。これは、精神保健指定医として決定的な過失である。
2、複数の向精神薬の同時突然中止
いわき病院は慢性統合失調症の入院患者野津純一氏に対して、平成17年11月23日から抗精神病薬(プロピタン)を中止して統合失調症の治療を中断し、同時にパキシル(抗うつ薬)を突然中止した。この処方変更と抗精神病薬の中止は統合失調症治療ガイドライン無視、及びパキシルの突然中止は薬剤添付文書指示違反である。渡辺朋之医師が以和貴会控訴審答弁書に記載したパキシル添付文書の解釈は国語力を疑うほどの、薬剤添付文書の重要な記述の理解に錯誤があった証拠であり、過失を決定づける。
渡辺朋之医師は平成17年12月当時では精神科専門医師の常識であった「パキシルを突然中止する危険性」を認識しておらず、重大な知識不足があった。また、渡辺朋之医師は、複数の向精神薬を処方変更したにもかかわらず、それに伴う医療・看護上の注意事項を看護師に周知及び指示していない。渡辺朋之医師は重大な処方変更に伴って行うべき、チーム医療を起動させなかった。
3、不適切・不十分な主治医の経過観察
渡辺朋之医師が複数の向精神薬の同時突然中止を行った後で、記録を残した診察は睡眠薬を服用した後の11月30日の夜間に一回行ったのみで、重要な時期の患者の経過観察に怠慢があった。渡辺朋之医師は「廊下で出会った」等として「経過観察した」と主張したが、医療記録のない主張は言い逃れであり診察行為を行った証明とはならない。
野津純一氏は平成17年12月6日の朝10時に診察要請をして主治医の渡辺朋之医師に拒否されたが、看護師から診察要請拒否を伝えられて「先生にあえんのやけど、もう前から言ってるんやけど、咽の痛みと頭痛が続いとんや」と怨嗟の声を上げた。重大な処方変更をした後で、患者から繰り返し行われた診察要請に主治医は応えていなかった。複数の向精神薬の処方変更を実行した主治医が病状の変化を自ら慎重に経過観察する意思を持たず、病状の悪化を訴える患者からの診察要請に応えず、放置した。抗精神病薬(プロピタン)とパキシル(抗うつ薬)を同時に突然中止すれば、患者に重大な病状の変化が発生する可能性があることは主治医として予想すべき事であるが、処方変更を実行した主治医は結果予見性を持ち、緊急事態の発生を想定した対応していない。主治医が適切に経過観察を行わなかったことは過失である。
4、非医師の診察に基づいた判断と治療放棄
渡辺朋之医師は、複数の向精神薬の重大な処方変更を行った事実を病棟スタッフに周知せず、また観察と対応に関する指示を与えていない。しかし野津純一氏の観察は、自ら行わないで、重要な情報を与えられず適切な着眼点を持たない看護師に頼った。また、プラセボテストの効果観察を自ら行わず、看護師の一時的な観察報告に頼った。更に、12月5日からの野津純一氏の異常も、「看護師の風邪症状報告」を鵜呑みにして、主治医自ら行うべき、パキシル突然中止の副作用の可能性を検討していない。これらは、非医師の診察を容認した医師法違反である。その上で、12月6日朝10時には、看護師から伝えられた診察要請を拒否し、患者の病状を確認せずに漫然と患者に外出許可を出し続けた。事件発生は外出許可14分後である。問題の本質は、渡辺朋之医師の患者に対する無関心と治療放棄であり、精神科医療が殺人事件の発生を誘発した背景である。
5、看護義務違反
野津純一氏は12月6日の事件直前に凶器の包丁を購入したショッピングセンターのレジ係に顔面の瘢痕(根性焼き)を目撃されていた。7日に逮捕された時には、数日が経過して黒化した火傷の瘢痕が顔面左頬に確認された。野津純一氏は6日13時からから7日14時まで25時間いわき病院内にいたが、看護師は誰も顔面の異常を発見していない。野津純一氏はいわき病院内で根性焼きを顔面に自傷して数日を過ごしていたが医師も看護師も誰もその自傷を発見することがない、おざなりの医療と看護を行っていた。精神科看護の基本は患者の顔面を正視して毎日の病状の変化及び精神の状態を確認することである。いわき病院の患者の顔面確認も行わない看護義務違反は明白である。主治医の渡辺朋之医師はその拙劣な看護師の報告に頼り、医師自らが行うべき経過観察の義務を果たさず、漫然と通り魔殺人事件の発生が起こるにまかせたのである。
6、当時の一般の水準からひどく劣った「医療」
IG鑑定人は事件後5年半後の平成23年7月に提出した鑑定意見書で「事件当時の医療水準では責任を問えない」また「大学病院でもない一般病院の一般の医師には責任を問えない」と主張した。しかし、事件は一般病院の一般の医師には不可抗力の事故ではない。事件に関連した野津純一氏に対する精神科医療で、当時と現在とで責任を問題にできないほど質的に変化した項目は存在しない。また、大学病院と一般病院の違いを主張できるほどの医療水準に関わる問題も存在しない。IG鑑定人はパキシルの突然中断の問題と継続使用の危険性に関する問題を意図的に混同させており、鑑定意見書は裁判官の錯誤を誘導した許されないものである。
事件は主治医の錯誤と知識不足及び日常の基本的な医療行為の怠慢で発生した。いわき病院が精神医療の基本を誠実に行っておれば事件は発生するはずがなかった。問題の本質は、日常医療の基本が徹底されていなかったところにある。いわき病院の渡辺朋之医師は、医療の基本を遵守せず、結果予見性と結果回避可能性を想定した精神科開放医療を行わなかった過失がある。
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