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いわき病院控訴審答弁書に対する反論
精神障害の治療と人道及び人権
次期公開法廷(平成26年1月23日)を控えて


平成25年12月6日(矢野真木人9回忌)
矢野啓司・矢野千恵


第6、いわき病院反論書の項目別問題点


〔II,控訴人矢野啓司及び矢野千恵の控訴理由書に対する反論〕


1、渡邊医師は「突然」投薬を中止したのではなく P.23

11月22日までの渡邊医師の治療過程とパキシルを中止する決意をした問題は全く関係ない。パキシルの投薬量を11月23日からそれまでの20mg/日から一挙に0mgにした事実を指摘している。そもそもパキシル突然中止の問題に関する理解が間違っていたことが過失である。

ところで、『渡邊医師は「突然」投薬を中止したのではなく。それまでのアカシジア解消のための努力が功奏さないことから、次善の策として投薬中止の選択絵(原文のママ)をしたのである。』と主張したが、この主張は、渡邊医師に「パキシルを突然中止してはならない」という意味を誤解していたことを示すものであり、お粗末と言うしかない反論である。この様な言葉の遊びが通用すると思っているとしたら、情けない限りである。


2、『プロピタン添付文書には「投薬中止により精神症状等の離脱症状出現のおそれがある」といった記載はない』 P.23

抗精神病薬を急激に減量や中止すれば抗幻覚・抗妄想作用・異常行動抑制作用が失われて精神症状が悪化するのは当然である。副作用としてアカシジアの記載があれば、急激な減量や中止により離脱性アカシジアが発現する恐れも当然のことである。抗精神病薬一般に共通する事項・現象は各々の薬剤の添付文書に記載が無くても「薬物療法の常識」である。統合失調症の治療に関する精神科薬物療法の基本的な常識を欠いて、「個別薬剤の添付文書の記載の問題」に転嫁した答弁である。意味を成さない、屁理屈と指摘する。この様な精神科専門医としての基本的な常識を欠いた薬物療法を行ったことを認識しない主張を行うところが、渡邊医師の過失を証明する。


3、プラセボテストの実施 P.24

「原判決認定事実の範囲で認める」とあるが、「筋肉注射の実施を含め全て渡邊医師が一人で行わなければならないとする控訴人らの主張は間違っている」(P.26)と矛盾した主張である。いわき病院の主張に従えば、「原判決は間違いである」と言わなければならないはずである。


4、根性焼きの観察 P.26

控訴人矢野提出写真及び警察撮影証拠写真に撮影されていた「黒いかさぶたになったやけど傷」に関するいわき病院側の反論が無く、証拠を無視した反論である。やけどの傷が黒化した瘡蓋を形成するまでには2〜3日は経過することは誰もが経験する事である。そもそもいわき病院の看護が杜撰で、あるはずの観察記録という証拠が存在しないことが、いわき病院の看護に問題があった証拠である。いわき病院は12月6日から7日まで純一氏が25時間病院内にいた間にも根性焼きの観察記録を残していない。顔面を観察しない精神科看護の実態が明らかである。


5、「渡邊及び被告訴訟人病院は、経過観察を怠り、異常症状を見落とした」P.26

「筋肉注射の実施を含め全て渡邊医師が一人で行わなければならないとする控訴人らの主張は間違っている」と主張したが、原告は「全てを渡邊医師が一人で行わなければならない」と主張していない。しかしながら、抗精神病薬を中止した純一氏の経過観察や病状悪化を訴えて診察希望を出した時は、内科医師では無く精神科医師が診察を行う必要がある。また、主治医でかつ病院長の渡邊医師は、他の精神科医師の協力を求めれば良かったし、容易にできたはずである。

本件は、判決(P.115)の渡邊医師の12月4日(日)の筋肉注射施行に関連しているが、渡邊医師が自ら筋肉注射を実施していないこと(判決P.115、13行目〜17行目の事実認定は誤り)が確認されたことになる。


6、「被告病院の注意義務」について P.27〜28

いわき病院代理人は控訴審答弁書P.28で措置入院と任意入院の違いを記載しているが、これは法律上の区分であり、渡邊医師が患者を診断して自ら判断すべきことである。当時の純一氏は薬剤を突然中止されたにもかかわらず、その後の経過観察がされず適切な治療介入がなかったため、純一氏には耐え難い異常な状態が作られていた。主治医である渡邊医師が「何故に外出を許可したのか」に対して、「任意入院である」ことを前提にするのは医療者としての本務を放棄していることに他ならない。

〔III,控訴人NS及びNYの控訴理由書に対する反論〕


◎、債務不履行の主張 P.29

HO鑑定人は『控訴人NZは純一氏のいわき病院任意入院では「重大利害関係人」であり、保護者としていわき病院に債務不履行の主張を行うことができること、また、純一氏の刑事裁判における実刑確定はいわき病院の医療過誤とは次元が異なる問題であること等』を指摘した。更に、『任意入院と言えども、「自傷他害防止」ということを念頭に置いている』と指摘した点は重要である。

◎、控訴人NZが契約当事者となる余地はない

控訴人NS及びNYの控訴理由書に対する反論(29ページ)の中で、「純一氏は、任意入院であり、入院契約は、いわき病院と純一氏のとの間で結ばれたものである」とし、NZ夫婦の債務不履行という主張を退ける陳述が見られる。

一般の医療においては、家族は、当然大きな利害関係人である。したがって、医療訴訟では、「後付け」としての本人及び家族、そして場合によっては遺族の主張が成り立つわけです。しかし、いわき病院の反論に基づけば、家族や遺族による医療訴訟そのものが成り立たないと言うことになる。

いわき病院の反論は、純一と管理者は、対等な関係の中で治療契約を結び、入院中に犯罪は犯したが、それは、治療内容や治療に対する不満や不信感とは、全く関係のない次元のものである。それを認めたからこそ純一氏は、実刑判決を受け入れたといったものと主張している。また高松地裁の判決の底流にも、いわき病院と同じ考え方があったと推察される。少なくとも高裁では、前提として、この認識は全く間違っているという、ところから審理をしてもらわなければならない。

そうしてみると、本件を通常の医療訴訟としてだけでなく、とりわけ精神科入院医療における管理者責任の重さという視点から、法的構成(被告側の疑義)をしておく必要があると考える。医師法第23条に、「医師は、診療をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない」とあり、明らかに、保護者は債務不履行を請求できる立場です。「本人『又は』その保護者」となっていますが、とりわけ入院医療となる場合は、心理社会経済的利害関係人であり、日常的な保護の任に当たっている保護者への説明は,不可欠である。

また、精神保健福祉法(第33条)では、「保護者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる」と医療保護入院に関する規定があり,下記の任意入院の手順をご覧になっても分かる通り、任意入院とは、当人の同意が取れないときは、当人に代わって保護者に入院の同意を取りつけ、医療保護入院で入院を継続できるようになっており、保護者の負担が大きくなることを織り込んだ入院形態である。

    http://www.e-rapport.jp/law/welfare/no02/01.html

さらに、下記、任意入院同意書をご覧になって下さい。

    http://amda-imic.com/oldpage/amdact/PDF/jap/kokuchi-j.pdf
2. あなたの入院中、手紙やはがきなどの発信や受信は制限されません。ただし、封書に異物が同封されていると判断される場合、病院の職員の立ち会いのもとで、あなたに開封してもらい、その異物は病院であずかることがあります。
3. あなたの入院中、人権を擁護する行政機関の職員、あなたの代理人である弁護士との電話・面会や、あなた又は保護者の依頼によりあなたの代理人となろうとする弁護士との面会は、制限されませんが、それら以外の人との電話・面接については、あなたの病状に応じて医師の指示で一時的に制限されることがあります。
4. あなたの入院中、あなたの処遇は、原則として開放的な環境での処遇(夜間を除いて病院の出入りが自由可能な処遇。)となります。しかし、治療上必要な場合には、あなたの開放処遇を制限することがあります。
5. あなたの入院中、治療上どうしても必要な場合にはあなたの行動を制限することがあります。
6. あなたの入院は任意入院でありますので、あなたの退院の申し出により、退院できます。但し、精神保健指定医があなたを診察し、必要があると認めたときには、入院を継続していただくことがあります。その際には、入院継続の措置をとることについて、あなたに説明いたします。

上記、同意書の2から6の項目をみれば、任意入院と言えども、「自傷他害防止」ということを念頭に置いている。

そもそも精神保健福祉法に基づく入院医療は、一般医療とは異なり、強制力を行使してでも、積極的に院長と主治医の管理下に置こうとするものだということは、一目瞭然である。

やはり、管理者の債務不履行を問うという点で、利害関係人である純一氏両親との連携は、本件のカギを握るように思われる。

〔IV,結論〕


◎、その他のいわき病院らの主張は原審で述べたとおりである

このいわき病院の反論には、具体性がなく、とりあえず総論的に反論しただけである。いわき病院の反論は控訴審反論書のI、II、及びIIIに限定される。

平成25年10月1日付けの控訴審答弁書で具体的に記載が無い事項は、いわき病院側は過失弁明を行えない、と判断されるべきである。



   
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