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いわき病院控訴審答弁書に対する反論
精神障害の治療と人道及び人権
次期公開法廷(平成26年1月23日)を控えて


平成25年12月6日(矢野真木人9回忌)
矢野啓司・矢野千恵


第6、いわき病院反論書の項目別問題点

以下の項目立ては、〔大項目〕をいわき病院が提出した「控訴審答弁書」にあわせてある。


〔Ⅰ,控訴人ら全員の控訴理由に共通する反論〕

〔1,はじめに〕

「控訴人らの本件訴訟には合理的理由がなく、早急に棄却されるべきである。」には同意できない。むしろ「いわき病院と渡邊医師が純一氏に対して行った錯誤と不作為の精神科臨床医療の論理的必然の結果として矢野真木人殺人事件が発生したことは明白であり、過失責任が存在する」との判決を求める。


〔2,本件における基本的争点〕

いわき病院代理人は「本件犯行は、平成17年11月23日の渡邊医師の処方変更によりプロピタン・パキシル・ドプスが中止されたことによって、純一に統合失調症精神症状の再燃増悪、離脱症状の発現等が起こり、イライラ感が高じてこれを解消するためには人を殺すしかないと思い至ったため、通り魔殺人に及んだ」と要約したが正しくない。いわき病院と渡邊医師の過失の概要は以下の通りである。

本件犯行は、平成17年11月23日にアカシジア対策で渡邊医師が行った複数の向精神薬の処方変更により、重度の強迫性障害を伴う慢性統合失調症の患者純一氏に抗精神病薬(プロピタン)維持療法中止により統合失調症の治療が中止されて、精神症状の再燃増悪、離脱症状の発現等が起こり、同時にパキシル(抗うつ薬)を突然中止して純一氏の病状を断薬の相乗効果で著しく混乱させた。断薬期間中に渡邊医師は純一氏の診察を11月30日夜に行ったのみで、翌12月1日からアカシジアで苦しむ純一氏に対して、アカシジア緩和薬(アキネトン)を中止し薬効がない生理食塩水に代えるプラセボテストを開始したが、12月6日の事件まで純一氏を1回も経過観察の診察をしていない。純一氏の病状は急激に悪化したが、看護師は適切な看護を行わず患者観察をいい加減に行っていた。純一氏は主治医の渡邊医師の診察を度々求めたが診察を受けられず、12月5日には「激しいイライラを解消するためには人を殺すしかない」と思い至り、翌6日には渡邊医師の診察拒否で激越状態になり、外出許可で外出直後に包丁を購入して、たまたま出会った矢野真木人を刺殺した。

純一氏が統合失調症病状の再発と急激な激越などの状況の極端な悪化を導いた原因は主治医渡邊医師の複数の向精神薬の急激な中止であり、渡邊医師は経過観察と診察を適切に行わないことにより治療的介入して、病状に安定をもたらすことがなかった。治療されず放置された純一氏は殺人という重大な他害行為を行ったのであり、渡邊医師の過失責任は重大である。


〔3,本件殺人事件の発生原因・経過〕


(1)、TD弁護士に対する誹謗中傷に関して(P.4)
  高松地裁刑事裁判の法廷には民事裁判の訴訟関係人の中で「TD弁護士」「矢野啓司及び矢野千恵」及び「NS氏」のみが出席していた。高松地裁原告矢野が依頼したOG弁護士は判決日のみに傍聴「同日民事裁判を提訴するため、高松に来た」した。いわき病院代理人のKM弁護士に関して、刑事裁判中には地裁原告矢野は民事裁判の代理人に任命された事実も承知してないが、KM弁護士を含めて、渡邊医師、OD看護長は刑事裁判の法廷に姿を見せていないと確信する。

ア、

P4、第8行目の「平成18年高松地裁判決では、本件で控訴人らのこの様な主張は全く採用されていないのである。」
  いわき病院代理人が記した「控訴人ら」の意味は「矢野啓司、矢野千恵」と「NS、NY」となるが、「矢野啓司、矢野千恵、NS」に刑事裁判で許された発言は「高松地裁第2回公判における『意見陳述』で「情状」に関する意見陳述が許されたのみであり、殺人事件の原因及び事件に関する発言は一切認められていないし、誰もそのような発言を行っていない。刑事裁判ではTD弁護士は「被告純一代理人」であり、上記の「本件控訴人ら」の代理人ではなく上記の文章は全くの失当である。

TD弁護士は刑事裁判の第1回公判で、純一氏に情状酌量を求めた理由の一つとして「いわき病院がちゃんと治療していたら、この事件は発生しなかった」と述べた事実がある。また、刑事事件判決(P.9)は「被告人(純一氏)は、慢性鑑別不能型統合失調症に罹患しており、本件犯行はその影響の下に行われたものである」、「NZの病状は発症から治療が不十分のまま20年以上経過し人格崩壊に至っており、検察官が主張するように、『それほど重いものではなかった』などと言えるのか相当に疑問」としている。刑事裁判法廷では「いわき病院の医療内容」は純一氏の刑罰の軽重を決定付ける要素とはならなかったが、「いわき病院の医療に問題がある可能性」は認識されていた。「いわき病院に入院、結果悪化」がSG鑑定文中に3回も出てくる。上記刑事裁判判決文中の「治療が不十分のまま経過」の中には当然「いわき病院の治療」が含まれる。


イ、

P4、第9行目の「検察側もこのような公訴事実として構成しておらず・・」
  刑事裁判が開始される前に、控訴人矢野「矢野啓司、矢野千恵」は検察官に呼び出されて事情聴取された。その際に「私たちは、いわき病院の医療の内容に重大な過失があったと考えているので、いわき病院の責任を追及して欲しい」と要請したが、検察官から「(刑事裁判起訴時点で刑事事件としては)証拠不十分」と言われた。これに対して当時の矢野は証拠を持たず、検察官に反論することはできなかった。以上の状況であり、いわき病院の責任問題は刑事裁判では論じられていない。


ウ、

P4、第10行目の「被告人純一自身も判決認定事実を積極的に争わないまま」
  純一代理人TD弁護士は「いわき病院医療の瑕疵」を刑事裁判で主張したが、具体的な証拠を提出できておらず、また、刑事事件法廷で提示できるだけの十分な証拠を持ち合わせていなかったと推察された。いわき病院の医療証拠は、民事裁判が開始されてはじめて、「訴訟人ら=矢野啓司、矢野千恵、NS、NY」が、いわき病院が任意提出した証拠並びに刑事裁判で警察検察が収集した証拠などを確保したものである。そして、収集した各種の証拠は慎重な解析作業を経て始めて、いわき病院と渡邊医師の過失の事実が明らかになった。この意味で、刑事裁判では検察官はいわき病院の医療記録を所持していたが、精神医療分野の解析を十分に行えなかったもの、と理解できるところがある。

なお、控訴人矢野(矢野啓司、矢野千恵)は、TD弁護士が「いわき病院医療の瑕疵」を刑事裁判法廷で発言したことで、民事裁判でいわき病院と渡邊医師の過失責任を問うことができると確信した。また、民事裁判ではNZ夫妻と協力できる可能性があると確信した。TD弁護士の発言がなければ、矢野側とNZ側の協力関係という、民事裁判の原告構成は成立しなかった可能性がある。


エ、

P4、第15行目の「本件では一転して、いわき病院における処方変更によって本件殺人事件が発生した等と主張」
  いわき病院の過失に値する処方変更が事実として確認されたのは、抗精神病薬(プロピタン)中止は平成19年8月22日(民事裁判提訴から1年2ヶ月後)、またパキシル(抗うつ薬)の突然中止は平成22年8月(殺人事件から4年9ヶ月後)の渡邊医師人証時の発言である。従って、それ以後に、控訴人矢野の主張は「抗精神病薬(プロピタン)の中止、及びパキシルの突然の中止」に重点が置かれることになった。そもそも、TD弁護士が刑事裁判中に問題提起できるほどの具体的な事実・証拠を所持していなかった。

いわき病院の処方変更はいわき病院の民事責任の問題であり、純一氏の刑事責任の問題では無い。また刑事事件裁判当時に、本件控訴関係人の中で誰ひとり、複数の向精神薬の処方変更が行われた事実を承知していない。また、平成17年11月のいわき病院診療録の記載にある、NZ夫妻と渡邊医師の父母面談でも「処方変更の具体的事実」及び「プラセボテストの実施」などに関する説明があった事実の記載はない。従って、刑事裁判の時点で、NZ夫妻が「いわき病院における処方変更によって本件殺人事件が発生した」といわき病院と渡邊医師が主張できる理由も根拠もない。いわき病院代理人の指摘は失当である。



(2)、IG意見を覆し得る証拠

ア、

P5、第11行目の「控訴人らとしては、平成18年判決および本件原判決と2回にわたり同様の司法判断がなされた純一の本件犯行動機について、これら2判決を覆えし得る程度の証拠を示すことができなければ、本件控訴理由全体がほぼ成り立ち得ないと言うことになるところ、控訴人らからそのような証拠は全く提示されていない。」

純一氏の殺人行為責任に関する刑事裁判と、いわき病院と渡邊医師の純一氏に対する医療行為の瑕疵と過失責任に関する本件裁判は問題を異にする。控訴人矢野も控訴人NZも平成18年刑事裁判判決を覆すべきと主張をせず、本年3月の高松地裁民事裁判判決を不服として争っているのであり、いわき病院代理人の主張は失当である。

いわき病院が平成17年11月23日以降に実行した複数の向精神薬の処方変更と同時中止しかも突然中止及び渡邊医師の経過観察と診察の怠慢、並びに治療的介入の懈怠、顔面の異常(根性焼きなど)を観察することがない怠慢に満ちた看護、患者の病状の変化に対応しない外出許可の運営などが、いわき病院と渡邊医師の過失を証明する証拠である。


イ、

いわき病院控訴審答弁書(P.5)の「(4)純一の本件犯行に対する評価判断」で「純一の本件犯行をどのように評価し判断するかについては、IG医師が意見書の中で、以下の通り述べており、これは精神医学に関する高度な知見と豊富な臨床経験に基づいた正しい意見と言わなければならない。」

「IG意見書を覆し得る証拠を示す」鑑定意見書は既に日本人精神科医師3人、看護学元教授、及び英国人精神科医師3人の鑑定意見書として提出されている。全員が「パキシルとプロピタンの突然の中止」と「その後の経過観察不在」及び「治療的介入不在」を指摘した。純一氏は辛さを毎日のように訴えたが、主治医の渡邊医師は取り合わなかった上に純一氏の診察希望まで却下し、犯行への背中を押したものである。

控訴審答弁書(P.6、15行)は、IG意見が正しいとして書かれているが、IG意見自体が、「処方変更後に診断をしなくても過失はない」とか、「察知できるものではない」と言っており、患者の権利を無視した発言であり、事実を見ていない意見である。

IG鑑定人の鑑定意見は「精神医学に関する高度な知見と豊富な臨床経験に基づいた正しい意見」とするには、定見を欠いており、精神医学者としての品位にかかわるものである。特に、IG意見書IIIは、法的判断にのめり込んだものであり、精神科医療に関する鑑定意見として適切ではない。


ウ、

いわき病院控訴審答弁書(P.6)の「原判決は、このIG意見を基礎としてまさに正しい評価判断を行っているが、控訴人らが、あくまでも原判決の認定が違っていると主張するのであれば、その基礎となった上記IG意見を覆し得る証拠を示すことができなければならないところ、控訴人らからそのような証拠は全く提示されていない。

IG鑑定意見は「パキシルの中止の危険性」と「パキシル継続投与の危険性」、更に「パキシル突然中止とパキシル中止」を混同したものである。高松地裁判決も、IG鑑定意見を頼りにして事実認定を錯誤したものである。この点に関しては、原告側鑑定人はIG鑑定人の認識間違いを指摘した。また控訴人は厚生労働省医薬食品局監修・医薬品安全対策情報(平成15年8月12日指示分)を控訴審証拠として提出したが、いわき病院代理人は言及していない。「控訴人らからそのような証拠は全く提示されていない」という主張は、事実を違えた謬論である。

IG鑑定人は複数の向精神薬を同時に処方変更した問題に何も答えていない。これは原告側の鑑定人から重要な問題として指摘されていた。渡邊医師は慢性統合失調症の患者純一氏に抗精神病薬維持療法を中止して統合失調症の治療を中止すると同時に、パキシル(抗うつ薬)を突然中止したのである。各々の中止処方には危険性が伴うことは精神科専門医であればよく知られた常識であり、その上に、二薬を同時に中止すれば飛躍的に危険性が高まることを、IG鑑定人は無視したのであり、精神科医師としての常識を疑うべき鑑定意見である。

IG鑑定人は、「一般の病院の一般の医師の医療水準に過失責任は問えない」という免責理由を前面に出したが、「過失責任を問えない医療水準」に関して何も述べていない。この意見は「一般の医療の水準が大学病院では過失性が確認できるほど劣悪であったとしても社会は容認しなかればならない」と主張したものであり、反社会的である。更に、「一般病院の一般医師の医療水準」の問題を、結果予見性と結果回避可能性の視点から法的に論じたが、これは精神科専門医師として期待された鑑定意見から逸脱したものであった。IG鑑定意見書に準拠して判決を行うことは間違いである。



   
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