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高松地方裁判所判決の項目別問題点


平成25年5月14日
矢野啓司・矢野千恵


4. 抗精神病薬(プロピタン)中断と維持量の問題と再発の兆候を捉える義務


(1)、野津純一氏は統合失調症患者

野津純一氏は、「統合失調症の罹病期間が20年にも及び再燃・再発を何度も繰り返した「精神障害者手帳一級」「国民年金障害者年金一級」を有する精神障害者である。


(2)、頓服では有効な血中濃度を維持できない

判決(P.107)は「平成17年11月23日から実施した処方変更で抗精神病薬を中断しても、頓服としてコントミンを処方し対処しているから不合理ではない」とした。しかし、統合失調症治療で抗幻覚・抗妄想作用を持続するためには、抗精神病薬は有効量の継続投与を維持することが原則である。「頓服では有効な血中濃度維持は無理」は精神科医ならば常識で、判決はいわき病院の「詭弁の弁明」にいいなりである。抗精神病薬は統合失調症の症状を抑える対症療法の薬であって、根本治療薬ではない。このため、患者に対して抗精神病薬の投与を中止すれば「精神症状悪化は時間の問題」である。


(3)、抗精神病薬は継続投与が原則

被告野津純一は20年余の統合失調症歴があり再発も繰り返していた。被告野津純一は放火歴があり、複数の病院内や街頭で他人に殴りかかった行動歴がある。治療中断(抗精神病薬投与の中止)をすれば、暴力行為発現の予見可能性があった。このような暴力既往歴を有する患者には統合失調症ガイドラインで「抗精神病薬は継続投与することが原則」であり、万一医師の裁量で抗精神病薬を中断する場合は患者と患者家族に説明と同意が必要で、突然の中断ではなく精神症状悪化に注意しながら漸減し最終的に中止に至る手順が鉄則である。

抗精神病薬中断理由はアカシジア軽減であった。アカシジア軽減効果がないと判断すれば直ちに抗精神病薬再投与をするのが主治医の勤めであり、精神症状悪化以前に行うべき責任がある。渡邊朋之医師が責任放棄した結果が事件発生である。


(4)、抗精神病薬の中止後管理

抗精神病薬を中断した場合、医師は看護師に抗精神病薬中止をした事実と病状悪化可能性を説明し、悪化の兆候があればすぐ報告するよう指示するのはチーム医療の基本で必須事項である。患者や看護師から何らかの異変の申し出があれば精神症状悪化の可能性があるので必ず医師は診察希望に応じなければならない。抗精神病薬を中止した後は患者の病状管理を適宜適切に行う必要があったが、渡邉医師が中止後管理を怠ったことが問題である。

A意見書I(P.18)は「プロピタン中止後2週間では薬効が残存していた可能性がある(精神症状の悪化は無い)」としたが、中止後の精神症状に関して、C鑑定人は「早ければ1週間で精神症状の悪化が見られる」、デイビース医師団は「プロピタン錠剤の半減期は30時間、5日で血中のプロピタン残量は消滅する、中止後2週間目が最も危ない時期」と意見を述べた。判決(P.98)は「プロピタンの服用が中止されて2週間が経過した本件犯行時点においても薬効が残存していた可能性は十分あることからして、プロピタンの処方を中止したことに過失は無い」としたが事実認定の錯誤である。

抗精神病薬(プロピタン)を中止した渡邉朋之医師は12月6日朝10時の診察要請に「外来診察の手を止めて、診察をしない判断をした(第4準備書面P.7)」また、「野津に対する診察の必要性・緊急性は極めて低く(第8準備書面P.2)」と主張したが、抗精神病薬(プロピタン)とパキシルを中断した主治医としては通らない弁明である。また、「外来診察終了後病棟に上がり野津の診察をする返事をした」は後知恵(後出しじゃんけん)の弁明である。渡邊朋之医師が「後で診察してあげるから」と伝えていたら「先生に会えんのやけど。もう前から言っとんのやけど」という野津純一氏の嘆き節が看護記録に残るはずがない。




   
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