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「刑第39条の」  凶刃のポーランド語版が出版されます

平成18年6月24日
矢野 啓司

皆様のおかげさまで、「凶刃」はポーランド語版が出版される運びになりました。なお、著者としては「凶刃」の書名には深い思い入れがありますが、ポーランド語版では「Ostrze paragrafu:法刃」となります。その趣旨は「刑法第39条の刃」という意味になります。

ポーランド語版の出版社はブランタ社(Branta)で、翻訳は日本語に堪能で、私どものポーランドの息子と言っても良い、マルチン・カチャノヴスキー(日本名:勝野円珍「かつの まるちん」Marthin Kaczanowski)氏が行いました。「凶刃」は日本でも計画から出版まで1ヶ月余りでしたが、ポーランドでも1ヶ月で出版されます。

ポーランド語版の出版は7月4日(火)にコペルニクス大学で行われます。「天動説は間違いである」として、地動説をガリレオ・ガリレイより先に提唱した、コペルニクスを記念したコペルニクス大学です。私どもは、そのことに深い思い入れと、期待を持ちます。

日本では、刑法第39条があるため、精神障害者が殺人などの重大犯罪を犯しても、警察が逮捕しなかったり、逮捕しても検察庁で不起訴になったり、起訴されても裁判で軽微な判決が出るという現実がありました。おかげさまで、「凶刃」を通して、「精神障害者は罪が問われなくて当然」とする、これまでの日本の現実に一石が投じられました。

平成17年12月6日に矢野真木人を通り魔殺人した野津純一には、平成18年6月23日に高松地方裁判所で懲役25年の判決が言い渡されました。これは日本で、「精神障害者がたった一人を殺人した事件」としては前例がない厳罰になります。そのため、野津純一もしくは純一の両親が「刑罰が重すぎる!」という可能性はあります。この高松地方裁判所判決は、「凶刃」の出版と読者の支持があってこそのことでした。それでも、刑法第39条の巨大な壁が、精神障害者の犯罪の前には依然として横たわっています。

日本で刑法第39条の規定が導入されたのは明治30年代でした。約100年前です。一般的に同じ制度が50年も維持されると制度疲労が蓄積すると言われます。既に、その2倍の長きに渡る制度です。法律の運用は前例主義ですので、「心神喪失」の適用が年と共により甘くなった傾向は否めません。私どもは、そこに「刑法第39条」に対して、コペルニクス的発想の転換の必要性を感じるところです。

これまで、日本では刑法第39条の存在意義を問う議論に対しては、「人権無視」という非難の言葉、が安易に投げかけられておりました。しかし、私どもは、「刑法第39条は、精神障害者の人権も、精神障害者による犯罪被害者の人権も等しく阻害している」と主張してきました。これは、ある意味で、日本のこれまでの常識に対する挑戦でした。まさに、法曹界と医学界の旧来の常識に対してコペルニクス的な発想の転換を迫るものでした。

ポーランド語版の「法刃」には、野津純一に対する第二次公判までの経緯が加筆されました。今後ドイツ語版と英語版が出版される予定ですが、そのたびに、裁判の進展状況を加筆してより完全なものに仕上げてゆく所存です。



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