WEB連載

出版物の案内

会社案内

いわき病院の精神医療の問題点 (要旨)


平成19年11月13日
矢野啓司・矢野千恵

要旨(精神障害者と病院の法的責任と社会的義務)

私どもの息子の矢野真木人(享年28才)は平成17年12月6日に高松市香川町のショッピングセンターの駐車場に停めてあった自分の車に乗ろうとした直前に右胸を刺されて通り魔殺人されました。犯人は近隣の精神科病医院(社団以和貴会いわき病院)に入院している重度統合失調症の精神障害者でした。犯人野津純一は、いわき病院の社会復帰訓練(SST)の一環として行われていた許可による外出中に、ショッピングセンターの100円ショップで万能包丁を購入して、駐車場を約100m歩いて被害者を物色した後の犯行でした。

私たちは「精神障害者の犯行でも、明確な意思が認められるので、犯罪の責任は問われなければならない」また「病院は外出許可を与えていたので、管理責任が問われなければならない」と考えて、犯人の処罰と、病院が責任を認めて私たちに謝罪して賠償することを期待しました。ところが、法律専門家や精神医療の専門家はだれも、「犯人の野津純一を処罰することはできない、治療していたいわき病院の責任を問うことはできない」として取り合ってくれませんでした。

私たちを取材した報道機関も、精神障害者犯罪で守秘義務と報道基準があるとして、遺族の私たちにさえ撮影した犯人の写真を見せてくれませんし、肝心な事実関係について知っていても情報を提供してくれません。放送されたいわき病院長渡邊朋之医師の映像は顔が隠されていました。何と、渡邊医師は顔を出さないことを取材の条件として、それを報道各社が呑んでいました。私たちを取材したテレビも、犯人の野津純一といわき病院の固有名詞を発言しないようにと予め条件をつけました。

私たちは何とか事実を世の中に知ってもらいたいと、苦しみもだえました。そんな中でロゼッタストーン社が「凶刃」を出版して、インターネットのホームページを作成して、情報を公開してくれました。情報の公開は少しづつ社会を動かし始めました。地方検察庁の検事正が私たちと面会して、「犯人野津純一を起訴する」と言ってくれました。そして野津純一には、たった一人を殺した精神障害の殺人犯としては異例の「懲役25年」が高松地方裁判所で判決されて、確定しました。

私たちが「重度の精神障害者に懲役25年の判決が確定した」と、犯罪被害者の救済に理解があるはずの弁護士に話すと「バカを言ってはいけない。裁判官は犯人が精神障害者ではないから懲役25年と判決したのですよ。あなたの思い込みで、事実を歪めてはいけません」とたしなめられました。その後、野津純一が精神障害者であることが判明すると「異例中の異例の事例」として、あたかも判決が間違いであったかのような認識でした。

私たちがいわき病院を相手にした民事裁判提訴を準備していると、いわき病院長渡邊朋之医師の「逆恨みである」というコメントが届けられました。私たちは過去に一切の接触を渡邊朋之氏としたことはなく、矢野真木人がいわき病院の入院患者に殺人されて初めて渡邊朋之医師の存在を知りました。そこで「逆恨み、素人が医師の責任を問うことはそもそも間違い」という情報が伝えられて、呆れてしまいました。そして根拠のないこの思い上がりこそが、精神障害者の犯罪責任を問えないことにして、精神科医療機関および専門家が自らの責任回避を意図する社会的不正義の根源であると確信しました。

刑法39条は心神喪失者と心神耗弱者に関する規定であるのに、いつの間にか、精神障害者を治療する病院と専門家の免責規定として認識されて、運営されている実態ができあがっていました。そしてこの基本的な認識の間違いに日本の報道機関は気がついていないか、黙認している実態ができあがっています。事は、殺人事件や放火事件など重大犯罪です。それが、法律の規定や根拠もなく、責任は問えないと安易に処理されている実態が日本にあります。他の医療事件では病院と担当医師の名前を報道するのに、精神障害者が関係すれば、全ての情報が隠されます。このタブーは、事実に基づいて、事実を報道すべき、日本の報道機関の実態です。日本の報道機関は事実を黙殺しています。

現在、いわき病院と渡邊朋之医師は診療を続け、SST(精神障害者の社会生活技能訓練)や精神医療部門の研修会の企画や主催や司会をして、シンポジウムでリーダーを気取るなどの活動をしています。野津純一はいわき病院の精神医学的治療とSST(社会生活技能訓練)の関連で殺人事件を犯したけれど、「そんなことはまるで問題ではない」と言うような態度をとって、専門分野の学会活動を主導しているように観察されます。

いわき病院はあたかも精神障害者の治療専門家達に向かって「素人の戯言で迷惑してますが、大した問題ではありません。私たちの仕事は神聖であり、批判はゆるされません」とでも言っているようです。渡邊朋之医師といわき病院の医療スタッフの皆さん、本当にそうでしょうか。私たちが主張していることはあなた達は無視できるのですか。また日本の精神医療専門家の皆さん、本当に私たちは無視して良い存在なのですか。

私たちが社団以和貴会いわき病院を提訴してほぼ1年半になります。最初、私たちは事実関係が良くわからず、証拠もなく、断片を継ぎ合わせた推察で「いわき病院と病院長渡邊朋之医師の責任はここにある」と指摘しました。現在では、病院カルテなど沢山の証拠文書を入手して詳細に内容を検討しています。またいわき病院の弁明も全て詳細に根拠と事実関係を照合しています。そして、当初の私たちの主張に間違いはなく、いわき病院の主張は錯誤と過失と不作為と意図的な矛盾に満ちていると確信します。

社団以和貴会いわき病院長渡邊朋之氏医師および病院スタッフの皆さん、また、日本の精神医療の専門家の皆さん、あなた方は、私たちを無視することはできません。なぜなら、私たちは事実と社会的に確立した根拠や原則に基づいて、裁判でこの問題を議論しています。またその論点をロゼッタストーン社のHPを通じて社会に公開しています。既にこの問題は「刺殺損害賠償訴訟-学生のための政策立案コンテスト」で応募論文の課題として取り上げられるなど、社会的広がりを見せ始めています。あなた方の、狭い専門家の世界で無視し続けても意味がありません。専門家のたこつぼ内の独善の論理は通用しません。

日本の精神医療専門家の皆さん、あなた達がいわき病院の主張に正統性があると考えるのでしたら、今こそ、乗り出していわき病院の弁護をすべき時です。放っておくと、いわき病院とあなた達の専門分野は、裁判であなた達の観点から見れば大きなダメージを受けるでしょう。私たちは素人ですが、論議の質と内容と深度は専門家のあなた達に負けません。そう言わせて良いのですか。「それは一いわき病院の問題で、私たちは関係ない」と言えますか。裁判と同時進行で、提訴された殺人事件に関連した分野で、いわき病院が中心となった学会の研修会やシンポジウムに参加したり行事を認めていて、「専門家の私たちは不可侵で関係ない」として安閑としていて良いのですか。私たちは誰が裁判の場に躍り出て、いわき病院の弁護を買って出るか楽しみにしています。法廷でお待ちします。



上に戻る