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第67回  相手の気持ちになってみる


 今月、偶然なんですが札幌と福岡で「演劇製作講座」をやることになりました。
 僕がよくしゃべる、ということもあってか、今までにもいろんなところで製作講座をやってきまして、中でも池袋の「東武カルチャースクール」というところでは1年間毎月ずっと講座をやり続けた、ということもありました。
 最近は、本業が忙しすぎてなかなか長期の講座をやるということはできずにおりますが、基本的に頼まれれば断ることはありません。

 僕は、自分たちがやってきたことのノウハウに関しては聞かれればなんでも答えちゃう、というスタンスでいるので、受講者の方からは「そこまで言っちゃっていいの?!」という反応が返ってくることが多いようです。
 このコラムを読んでくださっていたり、僕の単行本『拍手という花束のために』を読んでくださった方は、よーくご存じかとは思いますが……。

 僕が製作講座をやるときには、たいてい「開講前アンケート」というのをやります。前もって受講される方々の聞きたいことをリサーチしておいてポイントを絞ってしゃべっていく、という理由もあるわけですが、それだけではないのがこの「開講前アンケート」です。
 実は、設問の中に「下記のうちであなたがご存じだったことに丸をつけてください」という○×式のを入れておくのですが、そこに「加藤昌史は実は3人の子持ちだ」とか、「キャラメルボックスは今年で結成21周年だ」とか、そういう設問をたくさん用意しておくのです。つまり、講座が始まる前に自己紹介を終わらせてしまう、というわけ。これも、実際にお会いしてお話ができる時間を有効に使おう、ということから思いついたものなのですけど。
 
 でも本当は、僕の本『いいこと思いついたっ!』と『拍手という花束のために』を両方読んでおいていただければもっと話は早いのですけど、そういう押し売りのようなこともどうか、と思って遠慮してしまうわけですが。
 ただ、『拍手という花束のために』はロゼッタストーンから出していただいているので全国の書店で注文していただければ買えますが、『いいこと思いついたっ!』の方は、演劇製作の基本というかエッセンスが詰まっているにもかかわらず、1999年初版という古い本なので、出版元の「株式会社日経ラジオ社」(旧日本短波放送)では、もう絶版扱い。それでもいまだにお客さまから問い合わせがあるため、キャラメルボックスの公演と通信販売で用意しておくためだけに「特注」で買い取りをして自社で在庫している、という状況なのです。

 なんとか、またいつかもっとわかりやすくて役に立つ「演劇製作講座」の本を書かなければ、とは思っているのですが、いかんせん市場が狭い話ですし自分の時間も限られているので、うううう、という感じです。
 
 さて、そんなわけで、僕が製作講座をやれていない地域の皆さんにも、簡単に僕の講座の中身をヘッドラインだけご紹介してしまいます。



  • 劇団は、「上意下達」「演出家独裁」じゃダメ。


  • 「ローカル」は損じゃない。かえって、チャンス!!


  • 約束を守れる作家、演出家とでなければ、劇団をやってはならない。


  • 年間、最低3本は公演をやり、そのうち半分以上を新作で。再演は、新作を10本やってからっ!!


  • 「やる気」は結果で見せる。いくらネットやDMで強がってもダメ。


  • 前売り券より当日券の料金が高いのはなぜ?


  • 自由席と指定席、どっちが売れる?


  • 「入場整理券」システムについて


  • ポスター貼りと招待券


  • 心の準備がチャンスをつかむ。


  • 大変なことは、小分けにする。


  • 夢は必ずかなう、じゃない。かなえるために今何をするべきかを考える。


  • 「いい芝居をやっていればキャクは来る」は大間違い。お客さんのことを「キャク」と呼んでしまった時点でお客さんは来てくれない!!


  • 「今日のキャクはノリが悪い」という言い訳をしたとたんに、お客さんは来てくれなくなる!!


  • 「お金がない」と口に出すな。口に出したとたんに、どんどんお金は逃げていく!!


  • 「それでも予算がない」。答えは簡単。自分がまず人よりたくさん働こう。


  • 「どうすれば観客動員数が増えるのか」。答えは簡単。自分がまず友達を増やそう。自分が100人くらい軽く呼べないで、お客さんが何千人もついてきてくれるわけがない。


  • 「マスコミが扱ってくれない」。答えは簡単。扱わせてくれ、と言わせるようなことをしよう。


  • 「助成金のもらい方を知りたい」。自分で調べてください。ネットでも、役所でも、いろんなところに資料があります。それ以前に、なんでもすぐに簡単に人に聞くクセを、まず改めましょう。自分で調べるという作業そのものに、発見があったりするのですっ!!


  • 「役者が言うことを聞いてくれない」。答えは簡単。こっちがどうこう言う前に、役者の言うことを今の三倍聞こう。


  • 「演出家が自分のことを制作者として認めてくれない」。答えは簡単。演出家が知らないことやわからないことを重点的に勉強しよう。


 ……『拍手という花束のために』とかぶる内容ももちろんしゃべるわけですが、基本的には「開講前アンケート」を読んでみてから当日その場で喋る内容を考えます。福岡の講座まであと数日なのですけど、まだまだ届いていないのが多いので、これからですな。

 でも、やるたびに思うのですが、非常にシンプルな質問が多いのですね。
 上のヘッドラインにも含まれていますが、たとえば「どうすれば観客動員数が増えるのか」とか。
 コレ、実は、これから劇団を創ろうとしている人と、すでに作って活動を始めてしまっている人と、かなりの年数をやってきてしまっている人と、やっている芝居の内容と、とにかく、劇団の数だけお客さんを増やす方法はあるわけでして、それを「キャラメルボックスはこうやってきた」という経験談を基本にお話しするわけです。
 が、結局、とっかかりが大切で、まずは自分が100人友達を呼ぶところから始めれば「友達作り」を覚えることができるわけで、そこから演劇製作に繋がっていく、という作用があるわけです。

 これって、実はいろんなことに応用できるのです。

 たとえば、「泣いている赤ちゃんを寝かせる方法」なんて「観客動員数を増やす方法」と同じなんです。
 友達を増やす努力をする、ということに対応するのが、「赤ちゃんのことをじっと見つめていろんな可能性を探ってみる」ということになるわけです。
 赤ちゃんは、成長段階によってその泣き声には違った意味があると思われます。3ヶ月ぐらいまではほとんど動物と一緒ですから感情ではなく、反射で泣いているように思います。つまり、眠いかおなかがへったかおむつか、そのどれか。だから、わりとシンプルに対応ができます。
 3ヶ月を過ぎて感情が伴ってくると、泣く原因は複合的になってきます。眠いけど寝たくない、とか、おなかがへったけど、ミルクを飲む気分じゃない、とか、けっこうワガママです(←あたりまえぢゃ)。

 ところがウチのヨメがすごいなぁ、と思うところは、ウチの赤ちゃん、通称・みうたんが泣いていたり笑っていたりすると、みうたんの言葉を代弁し始めるのです。「ひとりぼっちはいやいやもんねー」とか「おとーらーん!かちゃかちゃばっかりしてないであたちをだっこしたりたかいたかいしたりしてー」とか、もう、むちゃくちゃですけど、なんか実際にそう言ってるんじゃないか、ってくらい的確に、みうたんの心を読んで代弁し続けるのです。
 つまり、大人同士だとなかなかしない、「相手の立場に立って相手の気持ちを考える」ということを、赤ちゃん相手だと自然にやってしまう、ということなのです。

 ところが大切なのはここなんです。
 いつもいつも、相手が自分に何を求めているのか、また、この劇団に何を求めているのか、そういうことを考え続けてお客さんと同じ土俵で楽しいことを考えて、お客さんが言いたそうなことを代弁してみたりして、お客さんたちの間で流行っていることに自分でも手を出したりしてみたりしているうちに、面倒なマーケティングリサーチなんかしなくたってみんなが喜んでくれることを思いつくことができるのです。
 たいていの相談者は、「見る側の立場」のことを忘れてすっかり「劇団の中の自分」になってしまっているのです。
 育児で言えば、赤ちゃんの立場のことを忘れて、「なんで泣くのー?もーかんべんしてよー。あんたがそんなに泣いてたらあたしが寝られなくなっちゃうじゃないのー」とお母さんが自分の立場ばかりを赤ちゃんに主張して辛く当たるようなものです。

 ちなみに僕が赤ちゃんの相手をするときは、たいてい、何か歌います。しかも、その場で思いついた勝手なオリジナル曲です。「たのしーのー たのしーのー なーにがそんなに たのしーのー」とか、みうたんの顔を見ながら歌い続けるわけですが、そうするとみうたんも喜んでくれたり、逆にいやがったりしますね。そうしたら「いやでちゅねー いやでちゅねー へんてこりんな歌ばっかー」とか、また歌います。それでも納得してくれない場合は、「みーうたんのすきーなのー なーんでーすかー」と、直接聞くモード(←聞いても教えてくれませんが)に入ったりします。と、このように、あの手この手でコミュニケーションを試み続けるわけです。

 それは、普段のキャラメルボックスの製作でもいっしょのことで、僕らがやっていることでお客さんに伝わっていなさそうなことがあれば、どこがどう伝わっていないのかを堂々と正面から尋ねて、原因がわかればそれを正々堂々と包み隠さず答えてしまい、その答え方が間違っていたらすぐに謝って違う方法を実行に移していってしまう、ということを続けてきています。
 そうやって、複合的な原因というものは、こんがらがった電源コードのように(←普通の場合、こういう時のたとえは「糸」ですけど)、一本一本丁寧にたどっていって、ひとつひとつ順番に解決していくしかないのですね。
 で、これを面倒だと思っていたら人生は楽しくないんですね。
 この、「一本一本たどっていく」作業をやっていく中に、意外なアイディアや「気づき」があったりして、それがまたもっと別なアイディアに繋がって発展していったりするわけです。

 僕で言えば、あくまでもテキトーに歌っていた「みうたん専用オリジナルソング」をMacの「GarageBand」というソフトで「楽曲」にしちゃってみたりしちゃおうかなー、使い方はよくわかんないけど、なんて思いつき、初めていじった機能をいっぱい覚えてしまい、なおかつそれでできあがった曲をCDにして、みうたんに聞かせてあげたらより一層大喜びしてくれた、ということが起きました。

 なんだか、回りくどい話をしてきましたが、要するに言いたいことは一つ。
 仕事や人間関係で「悩む」「困る」「苦しむ」ことの原因は、たいてい自分の都合ばかり考えている時に起きることが多いのです。もちろん、最終的には相手が悪い、ということもあるでしょう。でも、まず最初に「徹底的に」相手の気持ちになってみませんか?
 そうすると、自分の人生だと思っていた人生が、意外なことにいろんな人に生かされていて、いろんな人を生かしている、ということにも気づいてしまったりして、何倍も自分の人生が楽しくなってしまうと思うのです。
 是非、お試しくださいっ!!

2006.9.29 掲載

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