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第65回 加藤家の子守唄
加藤家の三人目、長女の美羽(みう)が生まれて、6月26日で三ヶ月になりました。
そもそも、いわゆる「平均」以上の三人目のこどもを授かる、ということと、44歳にもなっておとうさん、ということと、上のこどもたちも4年生と1年生という活発盛りな時であるということと、こんなに多忙な日々で子育てなんて可能なのだろうか、ということと、まぁ、いろんなトピックがある中での妻の妊娠から出産、そして怒濤の三ヶ月でした。
何が「怒濤」かというと、赤ちゃんが家にいたことがない方は実感が湧かないと思いますが、生まれたばかりの赤ちゃんというのは、昼夜分かたず、2〜 3時間に一度はミルクを飲むのです。そして、驚異的な音量で腹式呼吸で泣くのです。
赤ちゃんが寝ている時間が、親の寝る時間。だから、睡眠時間の合計はなんとか6時間に達していたとしても、ブツ切れの睡眠なのと、いつ泣き出すかわからないから深い眠りには入れないというか、いつ泣き出してもその瞬間に飛び起きておしめを替えてミルクを作って授乳してあげ、そのまままた寝てくれればいいんですけど、寝なければずっと相手をしていてあげなければならない、 ということが
続くわけです。
僕が住んでいる家は、親が建てたのに建てた直後に転勤になって、結局、1年に何日も両親はいないままに僕たち一家だけが住んでいるという、「両親赴任」の一軒家なのでまだいいのですけど、あの泣き声をあげられたら、マンションやアパートに住んでいる人たちは、近所の人に対して神経を使ってしまって、もっともっと大変だろうなぁ、と本気で思います。
そんな恵まれた環境にありはするものの、実は、長男と次男が産まれた時には、僕は赤ちゃんとヨメとは別室で寝ていました。
さすがに小学生二人の食事や面倒を見ながらの赤ちゃんの世話、というのはヨメ一人では荷が重すぎるだろう、と考えて、ついに今回は僕も赤ちゃんとヨメといっしょに寝ることにしたのです。
結論から言いますと、「怒濤」でしたが、いっしょに寝て本当に良かったです。
僕がヨメより先に目を覚まして赤ちゃんを 抱っこして居間に連れていってミルクをあげて寝かしつけ、ヨメを起こさずに 済ますことができて「完全にヨメの役に立った!!」と思えたのは、ほんの二割、というていたらくでしたが、少なくとも、長男や二男の時よりは役に立てたんじゃないかな、と思うのです。
全く何もしないよりは、ちょっとはした方が、母親だって助かるに決まってます。
あのヒステリックな「ミルクちょーだーーーーーーいっ!!」という乳児の泣き声は、ただでさえ精神的にも肉体的にも疲れ果てている若いお母さんにとっては、強烈なストレスになるはずです。早く泣きやんで欲しい。でも、笑顔も見たい。でも、眠い。だっこのしすぎで腰も痛い。
そんな厳しい状況の、ほんの二割だけでも軽減してあげることができたのだとしたら、これはきっと、大きな進歩なんじゃないかなと自分では思っているのですが、ヨメがどう言うかは……。
そんなわけで、上の二人の赤ちゃん時代の「怒濤」に立ち会わなかったことを本当に後悔しました。
なぜならば、ヨメに可哀想なことをした、というのもこれはもう、本当に後悔しているのですけど、それだけじゃなくて。
深夜に目をさました赤ちゃんを抱っこしてミルクをあげて、あやして、ということをしていると、「赤ちゃんの笑顔」に出会う確率が格段に上がるからなのです!!
別々に寝ていた時は、自分が起きていて仕事をしていない時間で赤ちゃんが起きている時間、というのはほとんどないので、「赤ちゃんの笑顔」に出会うことがほとんどなかったのですね。
なんで「赤ちゃんの笑顔」とカギカッコを付けるかと申しますと。
生まれたばかりの乳児の場合、まだ「うれしい」とか「楽しい」という感情は無いので、さまざまな反射でさまざまな感情を表す表情に似た顔をするのです。で、その「感情は伴ってないけど明らかに笑顔」は、滅多に見ることができない超貴重な表情なのです。とある育児本には「天使の笑顔」なんて書かれていましたけどね。
ほんとにそんな感じ。
その笑顔を見た瞬間には、あまりのかわいらしさに卒倒するかと思うほどなのです。
きっと、人間の祖先が、親が赤ちゃんの面倒を看るのが一番大変な時期に、ちゃんと親に特別のごほうびをくれるように「天使の笑顔」を作るためのデータをインプットしておいたのではないかと思ったほどです。
ただ、その笑顔を見ることができて飛び上がるほどの喜びを得られるのは、本当に一瞬です。あとは、「早く寝てくれー」と、へとへとになりながら抱っこしてあげたりしているわけですが、それも最初のうちだけ。
だんだん、ただ抱っこしているのにも飽きてきて、いろんな工夫を始めてしまうのです。んーーー、転んでもただでは起きない性格ってゆーんですかね?!
最初のうちはいわゆる伝承の「子守歌」を歌っていたのですけど、あまり反応が無いので、はたといいことを思いつきました。
なんたって僕はキャラメルボックスの選曲担当。数々のレコーディング現場を乗り越えてきた人間ではないですかっ!!やることは一つですっ!!
……美羽専用のオリジナル曲を、その場で思いつきで歌い始めたのです。
といっても、譜面が書けるわけでもなくピアノが弾けるわけでもありませんので、全てがテキトーです。
しかし、ただ歌うだけではなくて、おそらく赤ちゃんには赤ちゃんが反応しやすい音があるはずで、それはどんな音なのかを試し始めたのです。
いろいろ試してみた結果、低い音よりも高い音域の音に反応してくることがわかりました。そして、眠いときには大人の心臓の鼓動のテンポが効果的、ということもわかってきました。つまり、無声音で「つっつくつっつくつっつくつー」とか、「つかちかつーちかつかちくつーちく」とか、ちょうどボイス・パーカッション(通称・ボイパ)のハイハットの感じですね。あれを、心臓のテンポでゆっくり耳元で囁き続けると、激しく泣いていてもだんだんおさまってきてくれたりするようになりました。
逆に、ご機嫌なときには「ちゃかぽこちゃかぽこちくつくたんっ」とかの破裂音を入れた音を出してあげると、「うきゃきゃきゃっ!」と喜んでくれたりするようになりました(あ、これは、二ヶ月過ぎからですけど)。ボイパで言えば、エレキギターにワウワウをかけたような感じか、コンガとカウベルを叩いているような感じ。
あと、三ヶ月が近づいてからの話ですが、歌ではないのですが、口を縦に尖らせて「あ」と「う」と「お」の間の感じの、あまり大きくない有声音を「うーーーーー」と3秒ぐらい出してあげると、向こうも声を出してくれたり笑ってくれたり、なんらかのリアクションをしてくれる、ということを発見しました。
で、こういう「歌いかけ」や「話しかけ」をやり始めてから、僕が抱っこすると、美羽はじーっと僕を見つめて「おとーさん、うたってーー」って言っているような目をするようになりました(←コレは完全に思い込み)。
二ヶ月を過ぎたある晩、深夜の2時過ぎに授乳したら急にゴキゲンになってしまい、ちっとも寝てくれなくてヨメがへとへとになってしまったときがあり ました。そこで、僕が抱っこをバトンタッチ。僕の「寝かせのセオリー」を実践しました。
……しかしっ!!この日に限って、心音テンポの曲をいくら歌っても、じーーーっと僕を見つめたままなのです。まあ、ぱっちり目を見開いていたかと思うと突然寝てしまう、ということもしょっちゅうですので、どうせすぐ寝ちゃうに決まってるさ、オレの手にかかればなっ!!……と、次々と新曲を編み出して (全部、何かの曲のパクリだったり勝手にアレンジしたりしているわけですが )、一瞬も休まずに歌い続けました。
歌い続けてしばらくしてふと時計を見ると、なんと30分が過ぎていました。びっくりしてヨメを見ると、「うんうん」とうなずいて、しかし顔は「がんばれぇぇ」と言っていました。そこで、もうこうなったらお父さんの意地です。
美羽が寝るまで歌ってやるーーーっ!!と心に誓い、一瞬たりとも休まずにどんどん新曲を繰り出していきました。
そして、ついに、ニコニコしたまま、美羽は目を閉じました。……なんと、 70分経過!!
いやーーー、僕の人生で、最も長時間歌い続けた夜でした。
でも、後に残ったのは疲労よりも爽快感でした。トミーズの雅さんが、自分の娘たちのお弁当を毎日自分で作ってあげていて、それが父親としての快感なんだ、とテレビ番組で言っていたのですけど、そういう感じ。努力している、というよりも、楽しんでる、というか、自分の財産である「音楽」を、こんなふうに活かすことができるなんて最高じゃないですか!!
ただ。
こんなふうに、できる範囲ですけれども、とことんまで子育てに関わることができるのは、三人目だから、とも言えます。特に一人目の時は、どうしても「いわゆる子育てセオリー」を踏襲してしまいがちで、「お父さんはお仕事があるから別な部屋で寝て」なんていうネガティヴなセオリーまで踏襲してしまったわけです。
赤ちゃんが泣いたらミルクを欲しがっているかおむつを交換するかしか、対応策が思いつかなくて、両方満たしてあげた後なのに強烈な音量で泣かれてしまうと、もう、どうしていいのかわからなくてただ抱っこしてオロオロとするしかなかったのですね、一人目の時は。実は「抱っこした上で、そこいらじゅうを歩き回っていろんな景色を見せてぇぇぇ」と、二重の注文が赤ちゃんから出ていたなんて、気づかなかったわけです。
冗談じゃないですよ、お母さんだけにあんな肉体的にも精神的にも大変な(だけど楽しい)ことを「母親の仕事だろう」なんて押しつけておくなんて。
僕の場合は時間がめちゃめちゃな仕事ですから、うまく時間をやりくりすれば昼間に10分や20分こっそり堂々と睡眠を取ることができるので、深夜の寸断睡眠をカヴァーすることができるわけですが、普通のビジネスマンにはとてもじゃないけど厳しいと思うのですね。
でも、やってみて思うのですけど、生まれて三ヶ月経てば、ついに8時間以上寝てくれるようになるのです、赤ちゃんは。そうなってしまえば、自分たちも普通に睡眠が取れるようになるわけです。逆に言えば、それまでがんばれば、「天使の笑顔」も見られるし、自分の赤ちゃん専用の「寝かせのセオリー」をオリジナルで発見することもできるわけです。
現状では、まだまだお父さんが産休(育児休暇)を取る、というシステムはあるところはあっても、その「取ってもいいと思わせる風潮」がこの国にはありませんので、だんだんそれが自然になってくるまでは、お父さんたち、この三ヶ月間はどんなに睡眠不足になってでもいいから体験してみた方がいいですよっ!!というか、するべきですっ!!
てなわけで、政府の少子化対策をやっている皆さんに、提案。
ヨメが三人目の子供を産んだ直後に言ってた一言がとっても気にかかっているのです。その一言とは。
「もうね、出産したらぽーんと100万円ぐらいくれて、服でもなんでも買っていい、とかさぁ、もっと、出産した人を甘やかして頂戴よ、ニッポンっ !!」。
……老人福祉も大切でしょう、この国を支え続けた人たちですから。
しかし、そんなことを言っていられない時代です。もっともっと、子供を産むお母さんたち、そして家族を、必要以上に楽にしてあげましょうっ!!
そしてその対策とはっ!!
●妊娠したお母さんを持つ家庭には、最低生後6年間の一軒家への引っ越しとその家賃差額、またはマンション・アパートの完全防音工事の費用を支給!!
●週に3日でいいから、育児&家事ヘルパーさんを三ヶ月無料で派遣っ!!
●父親の、生後三ヶ月の育児休暇、または生後6年間の育児用就業時間短縮を、法律で義務化!!
ここまでやってくれたら、少しは安心して産もうという気になれるのではないでしょうか。財源ですか? タバコを1000円にしてください。甘んじて、納税いたしますっ!!
2006.7.24 掲載
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