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第61回 満員電車解消プラン
なんでみんな、「満員電車」について何の疑問も持たずに毎日乗ってしまっているのでしょうか。
おそらく、「そういうものだから」「しょうがないから」「じゃぁどうしろっていうの?」って感じなのではないかと思うのです。
僕らは、劇場という空間を使って芝居を創っています。
この劇場という建造物は、とてつもなく重い照明機材や舞台セットなどを吊すための「バトン」を天井から吊ってあるため、物凄く頑丈に作られていて、たとえば三宮から北に徒歩10分のところにある新神戸オリエンタル劇場という劇場では、あの阪神淡路大震災の時も全く被害がなかった、というほどです。
また、「舞台」そのものや、舞台セットが木材でできているため、逆に劇場という建物は火災に対する備えは何重にも行われていて、舞台上などはスプリンクラーがものすごい数、設置されています。
それなのに、「消防法」とそれに準ずる条例などは、「劇場」に関しては異常なほどに過敏にいろんなことが決められていて、たとえば数年前までは出口のところにある緑色の「非常灯」や「禁煙灯」は、どんなに真っ暗なシーンをやりたくても、一瞬たりとも消してはいけなかったりした地域もあったほどなのです。
また、ちょっとお立ち見の人が出た、というだけで消防署の査察が入って営業停止寸前にまで追い込まれた劇場もあったと聞きます。
で、それらの規制の基本は、「人が集まるところだから、万が一のことに備えておかなければならない」ということ。
それはもう、当然なことで、ビル火災によって何度か大変な被害が起きてきていますから、たくさん人が集まるところでそういうことをきちんと守って人の命を大切に扱うべきであると思います。
さて、そういう「もし万が一も許されない」という前提で、皆さんが毎日乗っている「満員電車」を考えてみてください。
「無事故」をうたい文句にして、幾重もの安全対策が施されていると思われている鉄道。しかし、ここ数年、疑われるようになってきていますよね。原因は人災だったり、天災だったりするわけですが、「絶対」ではないことが明らかになってきたのではないでしょうか?
身動きが取れないすし詰め状態の電車が、時速100キロ近くのスピードを出して、住宅の間を走り抜けているのです。ここで「もし万が一」を考えない、というのは、やっぱり「思考停止」なのではないかと思うのです
なんらかの事情で脱線しても、絶対に人の命が守られる方法。
なんらかの事情で脱線しても、周囲の住宅に迷惑をかけない方法。
なんらかの事情で人がホームから転落しても、絶対に命を奪わない方法、もしくは絶対にホームから転落させない方法。
そういうことを、なぜ誰も考えないのでしょうか。いや、考える人がいても、採算が取れないからやっていないだけなのではないでしょうか。だとしたら、そんな「採算」は、間違っているのではないでしょうか。
今から11年前、オウム真理教の地下鉄サリン事件で、地下鉄の車内でサリンがまかれ、たくさんの人が亡くなりました。そういった事件への対策としてとられたのは、駅の警備を厳しくする、駅のホームにゴミ箱を置かない、など。
しかし、その車両に誰が乗っているのかは全く把握できない、という部分は解消されていないわけですよね。
つまり。
痴漢やスリをする人はほんの一部だから、見つかったときに捕まえればいい、という発想。人殺しをした人や誘拐をした人などはほぼ100%捕まえているのに、痴漢やスリは車のスピード違反並みの検挙率、というわけです。しかも、痴漢に関しては証拠も証人も、あるようで無いのが満員電車。ぬれぎぬでを着せられて裁判で争ってようやく無罪を勝ち取った、なんていう方のニュースも出ていましたし。
犯罪を未然に防ぐ方法が、駅貼りポスターで「痴漢は犯罪です」って呼びかけるだけ。まさか、あの超満員電車の中で私服警官が全体が見渡せるところからこっそり見張ってる、なんてことはありえないでしょうし。
そして飛行機と違って満員電車は、今でも、自分が乗っているすぐ横に、爆発物や毒物を持った人が乗っていない、とは、保証されていないわけです。
そういったものを持っていないまでも、あの身動きが取れない電車の中で、誰かが突然ライターで中吊り広告に火を付けてしまったらいったいどうなるのですか。
と、恐い話になってしまいましたが、それ以前に、朝7時から9時ぐらいまでの間は、とにかく超満員ですから、赤ちゃんやこどもを連れて乗ることはできませんよね。つまり、職場がいくら託児所を用意しても、出勤できない、というわけです。子供連れは時差出勤すればいいじゃないか、というのは、これはもう完全に「バリアフリー」の発想からはかけ離れていますしね。
ちなみに僕は、小学校1年生から、1時間かけて国立小学校に通っていました。つまり、1968年から6年間、現在よりもヒドイ満員電車に乗って小学校に行っていたのです。そのせいで、完全にトラウマになっていまして、中学・高校は自転車で通えるところ。浪人時代は始発で予備校へ。でも、大学ではどうしても満員電車に乗れなくて、1時間目の講義に出られなくて留年(←それは言い訳っ!! )。で、自分で
作った会社の始業時間は11時。自分がいやだったこともありますが、自分の会社の社員に、満員電車なんていうあんな無駄なストレスを与えてまで仕事をしてもらいたくない、というのが大きかったのです。
この問題は、もう、日本という国の根幹に関わる問題で、僕がここでどんなに目くじらを立てていてもなんにも変わらない、ということもわかっているつもりです。でも、「少子化対策」とかを、枝葉末節に渡って話し合っている政治家の皆さんは、満員電車に乗らないわけですよ。あんな電車で毎日会社に通っている人たちが支えているこの国。強大なストレスに毎日さらされて、「幸せな結婚」とか「楽しい子育て」とか、想像できるわけ無いじゃないですか。人波に流されて、どんどん自分がちっぽけに感じてきて、気がついたら電車に飛び込んでしまっていた、という飛び込み自殺者が通勤電車の運行時間に多いのもわからないでもない気がします。
「ベビーカーを押して出勤できる通勤環境」を用意することが及ぼす経済効果は、限りなく大きいと思うのは僕だけでしょうか。
そんなわけで、高度経済成長を支えてきてくださった団塊の世代の方々が引退した後、僕らの世代がやるべきことは。
(1)業種別に、始業時間を変える。なんでみんなが9時始業、って決めてしまったのか。日本全国で「コアタイム」を12時から15時に設定し、始業時間は強制的に6時から11時までに振り分けることで、朝と夕方の通勤電車の利用を分散。
(2)午前中の、首都高速道路と主要幹線道路の自家用車利用禁止。そのかわり、天然ガスまたはハイブリッドの高速バス、乗り合いワゴンタクシーを運行。
(3)東京湾湾岸部や都心に通勤用飛行場・ヘリポートを建設。朝霞や厚木や横田などの米軍基地を買い取って、飛行船や大型ヘリによる空路の短距離路線を運行。
(4)多摩川や神田川、荒川、江戸川、隅田川などの川を水路として活用。
……で、問題は財源ですよ。
乗車率200%超、以前は300%があたりまえだった、という超満員通勤電車が各鉄道会社のドル箱なわけですから、これはもう、大間違いなんですよ、そもそも。
劇場で200%の稼働率、って言ったら、サンシャイン劇場で言えば収容人数800人ですから、あと800人入れなきゃいけません。……どこにっ?!もう、絶対不可能です。すべてのお客さんのお膝の上にもう一人ずつ座っていただく、という感じなわけです。
で、そんな非常識なことをしてきて、それで儲かった儲かって、って言ってるわけですから、もう、鉄道会社には「定員」を守っていただきます。
そうすると、当然切符代を値上げせざるを得なくなってしまいます。しかし、値上げするとお客さんは離れます。じゃぁ、どうするのか。……そこは、鉄道会社に考えていただきましょう。今200%の乗車率の時間帯には、車両の編成を倍にする、つまり8両編成なら16両編成にしちゃうとか、すべての車両を2階建てにするとか。今のダイヤで倍の人を運ぶアイディアなら、きっと鉄道会社はいっぱい持っているはずです。やっていないだけで。
さて、いかがでしたでしょうか、満員電車解消プラン。
「通勤電車の乗車率を100パーセント以下にします」という公約を掲げて政党を作ったら、比例区で必ず当選すると思うんですけど、ものすごい圧力がかかるんだろうなぁ、あんなところやあんなところから。
2006.3.25 掲載
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