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第56回  トゥーマッチ・サービス増加中


 いつの頃からですかね、コンビニやファーストフードでお釣りを渡すときに下に手を添えるようになったの。最初にやられたときは、びっくりして手を引っ込めてしまい、お釣り銭を落してしまったくらいです。
 添えられるだけならいいのですが、思いっきり触ってくる人もいます。

 ぶっちゃけた話、僕は、アレはやりすぎだと思うのです。
 もちろん、お釣りを渡そうとして落しちゃった人がいて、それをフォローするためにどこかのお店の店長さんか何かが「いいこと思いついたっ!」とか言って店員さんにそのしぐさを指導したのかもしれません。

 しかしね、普通にお釣り線を乗せるお皿があるわけじゃないですか。そこに乗せた方が、ちゃんと確認できるわけですから、それでいいじゃないですか。なんで、しっかりと手の平に握らせる必要があるんですか? 物騒な世の中だから、お釣りを渡しているときに、横から手を出して持って行ってしまう人がいるかもしれないからですか?! それともお客さんとのスキンシップとか考えてる……?!
 ……そうかぁ……?!

 僕がよく行くところで最もそれをやるのは、某ファーストフードのドライブスルーです。ここはもう、「絶対に落すまい」とばかりにぎゅっと握りしめてきます。あまりにもしつこい場合は、わざと手を引きます。だって、全然知らない人に手を握られて、それが男だろうと女だろうと、カッコよかろうと綺麗だろうと、そーゆー問題じゃなくて、自分の物理的テリトリーを思いきり踏みにじられた感覚、というのでしょうか、丁寧、というよりもおぞましく感じるのですよ。

 そこでは一度、「その、手を添えるの、マニュアルにあるんですか?」と尋ねたことがあります。そうしたら、「いえ、そういうわけでは」という返答でした。

 そうです、これは、「勘違いの丁寧」だったのです。
 言葉遣いで言うところの、「こちらでよろしかったでしょうか?」というヤツ。そんな日本語ねぇよ、と思うのに、言っている本人は丁寧なつもり、という。

 そんな、「丁寧の勘違い」は、他にも横行しています。

 たとえば、新大阪駅の地下にある、人気の豚まんを売っているお店。

 先日の大阪公演の帰りにみんなにおみやげ、と思ってここに支店があるのを確認して買いに行ったのです。そうしたら、超人気店であるせいか、10人くらい並んでいました。10人くらいの列、と言っても、2人組とか3人組がいましたので、実質5番目ぐらい。いくら段取りが悪くても、販売している商品は豚まんだけですから、5組をさばくのに、いくらなんでも5分から最悪でも10分あれば可能だろう、と判断したわけです。

 ……それが、地獄の始まりでした……。結局、僕の番になったのは20分後。
それだけ待った僕もエライですが、なんでそこまで待ったのか、というお話です。

 なにしろ、並び始めてから、ちっとも列が進まないことに、携帯のメールチェックをしたあとに気づきました。新幹線の切符を買った後の出来事ですので、発車時間は30分後に迫っています。

 あ、余談ですが、僕は新幹線に乗るとき、必ず700系のぞみの車両の一番前の席を指定して乗ります。コンセント(←余談の余談……「英語で言うと『アウトレット』なんだよー」って、こどもに教えてもらいました。へぇー!)があるからです。パソコンで仕事をしたりDVDを見たりできるように。なので、700系のぞみの時間まで、空いてしまうことがあるのですね。

 で、その豚まん屋さん。なんで列がここまで進まないのか、というのを、ずーーーーーっと観察していたのです。だって、ここまで段取りが悪い、というのも、最近そうそうお目にかかれないからです。

 ところがっ!! だんだん自分の順番が近づいてきて店員さんの声が聞こえるようになってきてわかったのは……!!

(1)順番が来ると、「いらっしゃいませ」と言ったまま、客が何かを言うのを待っている。
(2)当然、客は、メニューを見たり、ウィンドウを見たりして迷う。
(3)ウィンドウには、(たしか)「2個入り」と「5個入り」の箱がある、という表示がある。
(4)客は、店員さんからなにも聞かれないので「んーーと、ウチは4人家族だからぁ、2個入りを2つとぉ、あとぉ、会社に持っていくのが8人分だからぁ、どうすればいいの、4個入りをあと2つぅ?」とか、わりと大きめなひとりごとを言っている。
(5)この時点で初めて、店員さんが「箱はこういうふうになっていますが、何個入りでもできますよ」と口を開く。
(6)その時点で客は、「じゃぁ、え、結局、え? 4個入りと8個入りでいいわけ?」と聞くと「はい、そうですね」と店員さん。
(7)「じゃぁ、それでお願いします」と客が言うと、そこでやっと初めて動き出す。
(8)どこかから出してきた凍った豚まんを、丁寧に箱に詰めていき、2つの箱を重ねて大きな袋に入れたところで、「袋は、もう一つ入れておきますか?」 と聞く店員さん。
(9)「は?」と聞き返す客。
(10)「いえ、おみやげ用の袋はおいりようですか?」と伝え直す店員さん。
(11)「あぁ、どうしようかなぁ、うん、いります」と答える客。
(12)「わかりました」と、奥から、大きい方の箱を入れるための大きな袋を出してくる店員さん。……さっき、ひとりごとで、小さい方は家族用、大きい方が会社のおみやげ、って言ってたんだから、まずそもそもおみやげ用の袋はいらないはずだし、しかも、入れるんだったらすでに大きい箱に合わせた大きい袋に二箱入れてあるんだから、小さい方の袋じゃないのっ?!
(13)それから、「少々お待ちください」と、ようやくレジで計算!! ゆっくりと丁寧に、間違いがないようにキーを打って、「お待たせ致しました、○○円になります」と、丁寧なコンビニ用語。
(14)言われてから、やっとお財布を取り出す客。お金を出して、お釣りをもらい、終了。

 ……はーーーーい、こうやって、一組をさばくのに、3分から5分かかっていたんですねーーっ!! さぁ、あなたなら、どことどことどこをどうすれば短縮できますかぁぁぁっ?! てゆーか、いまどきこんなすごいお店はそうそう無いですから、貴重ですけどね……。

 ちなみに僕は、自分の番になった瞬間に「5個入りと10個入りを1箱ずつ、おみやげ用の袋は5個入り用の袋を1つ、全部で○○円ですね。これでお釣りは○○円ください。電車の時間があるので急いでください」と言って、お金を置きました。びっくりしたような顔をしたその店員さんは、やっぱりゆっくりと準備をしてゆっくりとお釣りを確認しながら渡してくれました……。

 実は、前回大阪に来たときにこのお店でおみやげを買おう、と思った時は新幹線の時間まで15分。5人ぐらいしか並んでいなかったのですぐ買えると思って並んで、8分待ってあきらめて新幹線に走った、ということがあったのでした。 いやはや、このお店、かなりなビジネスチャンスを逃していると思われますねぇ。

 そして、今度は話変わって、最近できたウチの近くのショッピングビルの駐車場。

 まず、駐車場入り口の前に警備員さんが二人いて、ウインカーを出して入ろうとすると、赤い棒を振った上で身体を張ってその車を止めます。歩行者がいようといまいと、100%止めます。そして、前後左右の安全確認をしてから、二人はやっと道を明けて、入れてくれるのです。

 これのどこがおかしいかというと、通常の駐車場の警備員さんは、常時前後左右の交通や歩行者の状況を四方八方に目を配らせていて、スムーズに車を誘導するために、もちろん歩行者がいれば車を止めますし、全く歩行者がいなければいちいち止めないで「今、急いで入ってください」という合図でノンストップで入れるのが基本です。それがあたりまえで、オーバーに言えば「顧客満足度の高い誘導」だと思うのですね。 ところが、この駐車場の場合は、「絶対的に安全を確保するための、マニュアル通りの行動」なわけです。

 そりゃぁ、事故が起きる確率は少ないでしょう。しかし、普通の誘導に慣れている車は、入れてくれると思ってすーっと進んでしまいますから、いつかあの警備員さんたちが逆に事故に遭いそうな気がしますね。 そして、その厳重な警備員さんを過ぎて地下に下りていくと、最初のゲートがあります。

 この駐車場は最新式で、ゲートを通る前にバーがあって、ゲートの中には4つの入庫口があります。ゲートでボタンを押すと「3番にお入りください」とかの指示が出るのです。

 で、びっくりしたのが、先日そのゲートのところに係の人がいて、ボタンを押そうと思って窓を開けたら、「いらっしゃいませ。当駐車場のご利用は初めてですか?」と聞かれました。僕はヨメの運転で入ってきたことはあったものの自分で運転して入るのは初めてだったので、ボタンを押しながら「そのご質問はどういう意味ですか?」と聞き返しました。すると、「は、いえ、どうぞ」と、僕が「自分で運転して入ってきたのは初めてですが、ヨメの運転で入ってきたことはあるので、使い方はわかっているつもりですが、初めての人にはなんらかの特典があったりするわけですか?」と尋ねようと思ったのに、突然「早く行け」とばかりに手を振るのです。

 そうです、要するに、初めて利用する人が、駐車券を受け取るわけではなくて入庫する場所の番号を聞いてそこに入るだけだ、ということがわからずに立ち往生するのをフォローする係の人、だったのですね。

 ……そんなの、困ってる人がいたら「そのボタンを押してください」と言うなり、「その番号のところへどうぞ」と言うなり、その程度でいいんじゃないですか?!
 そしてっ!! ……そうです、この駐車場は「丁寧の勘違い」の宝庫だったのです!! 車を入庫場所に入れました。

 この駐車場は最新式なので(←ここがポイント)、車をベルトの上に置き、それを横にスライドさせて機械式で入庫させる、という非常に段取りが良く効率的に車を入庫できる、アイディアに充ち満ちたメカニカルなものなのです。

 で、またそこには係の人がいて、「オーライ、オーライ、もうちょい前です、もうちょい前です、ストーーップ」って……、言っている……ようなのです。「ようなのです」というのは、おそらくこれはその方自身の安全のためもあるのでしょうけど、なにしろ車の左後ろで言っているので、窓を開けていてもエンジンの音で聞えないわけです。

 しかしその声が聞こえなくても、運転者の前方にはちゃんと電光掲示板で表示が出ていて、「もう少し前へ」「止まれ」と、どでかく書いてあるわけです。
 そのうえ、その表示通りに止めて、機械式なので、と思ってドアミラーをたたんで、ギギッと音を立ててハンドブレーキを引いてエンジンを切ったら、「ドアミラーを格納してください」と言うのです。一瞬、まだ出ているのかと思って確認したら、たたんであります。で、この人、何を言っているんだろう、と思ったら、こっちを見ないで格納の準備にかかっているんですね。
 そして、荷物を持って車の外に出たら、「ハンドブレーキをお引きください」と言うのです。……それ、出てから言ってもしょうがないし、そもそも、引いた音、思いっきりしてたでしょ?!
 その後の極めつけは、「ドアをロックしてください」。
 こらこらこらぁぁぁぁぁぁっ!!今、目の前でしただろーーーーっ!! てゆーか、駐車場に車を止めるときにロックを忘れる人の確率は、全運転者の何割なんだぁぁぁっ?! 

 そして、待機場所に出ると「駐車券を発券致しますので少々お待ちください」……って、わかってるわーーーーっ!! なにも受け取らずにお買い物に行っちゃううっかりさんは、全利用者の何割なんだぁぁぁぁっ?! 

 そのうえ、駐車券を渡すとき。「ご利用は初めてですか?」とまたもやぁぁぁっ!! で、「それはどういう意味のご質問ですか?」と、今度はいじわるで聞くと、「あの、その、お買い物はあちらでございます」と、大きく「エレベーター」と書いてある方を指さします。……あんなにわかりやすく表示がしてあるのに「エレベーターはどっち?」と思う人は、全利用者の何%なんだぁぁぁぁっ?!

 ……もう、このあたりで、僕の息は切れかかっていました……。はぁはぁはぁはぁ……。

 あっ、でも、この駐車場、帰りも凄かったんです!! 戻ってきたら、そこらじゅうの係員さんが「駐車券は精算機をお通しください」と言うのです。つまり、精算した後じゃないと、車は出せませんよ、という意味です。……お金を払わないで出られるとは思っていないんですが……。

 そして、この駐車場は最新式なので(←わかったから)、精算後に、各番号の駐車スペースにあらためてその駐車券を持って行かなければならないのです。 がっ!! 各番号の係の人がみんなやる気満々で、みなさんが駐車券の提示を求めてくるのです。そのたびに「3番ですので、あちらでございます」と教えてくれるのです!!……見ればわかるんですけどぉぉぉぉぉっ!! 自分で入れたしぃぃぃぃぃぃっ!! 

 で、ようやく自分の番号のブースに行って駐車券を渡すと、「車の番号をお呼びするまで少々お待ちください」と、わざわざ離れたところにある待合所を指さすのです!! ……近くにもベンチが空いてるんだからそこで待っててもいーじゃねーかーっ!! 

 そしてようやく最新式のメカから車が出てきて、「どうぞ」と駐車場への扉を開けられると、開放された気分になるわけですが、そこでまたとどめの一発!! 「ドアミラーをお開けください」……!! 閉めっぱなしでいっちゃううっかりさんは、全運転手の何%なんですかぁぁぁぁぁっ?! しかもそれはあんたには関係ないぃぃぃぃっ!! 

 そして乗り込んで、さぁシートベルトをして出発、というところで、「出口までの途中に合流地点がありますので運転にはご注意ください」……そんなん、当然、普通に気をつけるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 

 そんなわけで、数々の「トゥーマッチ・サービス」について書いてまいりました。  つまり、「トゥーマッチ」、「やりすぎ」ですね。

 お客さんに任せる部分を任せる、そして、困りそうになっている瞬間を発見したら、それを助ける部分を助ける、というのが高品位サービスの基本だと思うのですが、なんでもかんでも、なにもかも初めての人向け、万が一の時のため、苦情が来ないようにするためのマニュアルが、世の中にまかり通ってきているように思います。

 それは、なんらかの事情で高品位なサービスを受けたことが無い人が無理矢理そのサービスをさせられているか、もしくは事故や苦情を恐れるがあまり上の人がいろんなマニュアルを作りすぎて現場が混乱しているか、どちらかなのではないかな、と思うのです。

 売り手がお客さんのことを考えて行うサービスではなく、売り手が自分の都合や事情ばかりを優先して、しかしお客さんには「これは皆さんのためなのです」とすり替えようとしている、という大間違いなサービス。それが、トゥーマッチ・サービスに繋がっているのではないか、と思うのです。

 なぜ、「自分がお客さんだったら」という立場に立って物事が考えられないのか。 「自分だったらこうされたい」と考えられないのか。
 いいかげん、ではなくて「いい加減」、テキトー、ではなくて「適当」、イーカンジ、ではなくて「いい感じ」、そんなサービスを、キャラメルボックスでは追求していきたいと思うのです。

2005.10.21 掲載

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