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第54回 新しい人生を応援したい!!
春に出した僕の本『拍手という花束のために』で、関係者4人と対談をしました。キャラメルボックス女優・小川江利子、製作部・須田和恵、サポーター・こじかさん、そしてアナウンサー・福澤朗さん。
いよいよ『拍手〜』が発売、という時になって、なんと福澤さんが日本テレビからの退職を発表。そう言われてみれば、そういう内容のことを対談でもしゃべっていたなぁ、と思ったものでした。
そして、その直後、小川江利子から退団の意志を報告されました。これまた、そう言われてみれば、そういう内容のことを言っているなぁ、と思います。
残るは、須田とこじかさんだ……とドキドキしていたら、なんと須田は7月に結婚っ!! ……そういう内容のことは聞いてませんでしたが……。
そんなわけで、奇しくも、福澤さんの退職と小川の退団が続きまして、「やめる」ということについて考え続けてきました。
いえいえ、僕がキャラメルボックスをやめるとかそういうことはあり得ないので、そうではなくて。
「集団」というものの存在は、本来、もっともっとワガママでいいものなのだと思うのです。やりたいことがあっても一人ではできそうがないので、その「やりたいこと」の一部が共通している、またはお互いの才能が利用し合える、お互いの人間性同士で高め合える、そういう関係が持てそうな者同士が、契約を結んだり、口約束をしたりして作るものが「集団」であると思います。
なのですが、どうも学生時代までの癖が抜けないオトナもたまにはいらっしゃいます。
「集団」と「友達同士」をいっしょにしたがるのですね。
たとえば、福澤朗さんが日本テレビを辞める、と聞いて、本人があれだけちゃんと記者会見を開いて正直な気持ちを語っていたにも関わらず「会社と何か軋轢があったのでは」とか、「フリーになった方がカネになるからなぁ」とか、憶測で物を言う方々のなんと多いことか。
まぁ、『拍手〜』に収録された僕と福澤さんの対談をお読みになった皆さんは、そういう邪推を聞くと鼻で笑っちゃうんじゃないかと思いますけどね。
それと同様に、小川の退団に関しても、またまた邪推が飛び交っているようです。
いいですか皆さん、8年も劇団にいて、しかもほとんど中心メンバーとしてがんばってきた女優が、退団を決意して、実際に退団した、というその過程で、誰が最も辛いと思いますか?
小川の舞台を見守って下さっていたファンの皆さんも、小川を失った僕たちももちろん辛いですが、なんたって、本人が一番辛いはずです。今まで、何万人というお客さんたちの拍手に支えられてギリギリのところでがんばってきて、幸せな日々を送ってきたけれど、あえて違う人生を生きようと誓った日から、みんなになんと伝えよう、と苦しんできたはずなのです。
キャラメルボックスは、外から見ている分には、とても仲良しでハッピーでほんわかした雰囲気の、サークル的な集団に見えるかもしれません。しかし、皆さんにそう見て感じていただける集団を20年間も維持してきた土台には、とてつもなく厳しい現実があります。
逆に、そのとてつもない厳しさを乗り越えた「同志」が力を合わせて、その結果を出すのが舞台。だから、お客さんの前では最高の笑顔をお見せすることができるのです。日々の鍛錬や、膨大な努力を前提に磨かれていない笑顔は、お客さんの共感を得ることもできないのです。
まぁ、そのあたりについては、8月末から9月に書店等でも発売される予定の、ノンフィクション・ライター神山典士さんの著書『キャラメル・ばらーど』をご参照いただければと思います。
また、同時期に発売される俳優・西川浩幸の著書『僕はいつでもここにいます』でも、彼のストイックな20年間の生きざまが楽しく綴られていますので、是非。
福澤さんにしても小川にしても、自分を必要としてくれている人がたくさんいることを知っていて、しかしその集団から抜ける、ということを決断したわけです。
これはもう、ケンカ別れ以上に辛いことだと思うのです。
実際、『僕のポケットは星でいっぱい』という公演中は、小川は毎晩、劇団員やスタッフ一人一人と飲みに行き、一人一人に話をしていっていたようです。そして、最終日の打ち上げ会場で内部への退団の発表をした小川は、みんなからの「がんばれよっ!!
」という大声援を受け、ボロ泣き。後輩が用意した、全劇団員の一言コメント付 きアルバムを渡されると、崩れ落ちて泣き続けていました。
そんな小川を見て、15年以上前からお世話になってきているお店のマスターが、「なんて幸せな子なんだろうねぇ」とつぶやきました。
まさに、僕もそう思っていたところでした。
劇団員の全員一致でオーディションに合格し、入団3年で主役、その後もどんどん頭角を現して1年中ほとんどの舞台にほぼメインで立ち続けてきて、お客さんからも、劇団員からも、みんなから可愛がられて、さぁこれから、というところでの退団ですから、もったいない、どころの騒ぎではないわけです。
しかし、「劇団」という集団で味わえる楽しみと苦しみのほとんどを味わい、そしてみんなから祝福されて退団していき、ここからまた別の道に進んでいこうというのですから、これはもう、本当に幸せで贅沢な人生だと思うのですね。
福澤さんだってそうです。あれだけの人望と実力と人気がある方ですから、あのまま日本テレビにいれば、ちゃんと出世して、間違いなくアナウンス部長とかの管理職になって、下手したら社長にだってなれていたかもしれません。普通に考えたら、これ以上ない人生が待っていたはずなのです。
しかし、それを全て捨てて、フリーになってしまう。これまた物凄い幸せで贅沢な選択だと思うのですね。
ただ。
その幸せや贅沢な人生というのは、あくまでも端から見て、の話で。
30歳を目前にして、ある一つのジャンルで頂点に近いところまで登ったのに、いきなり飛び降りてゼロから別な人生をスタートする、しかもそれを自分の意志で、なんて、普通できますか?!
僕自身は、自分でこの劇団と会社を作り、育ててきています。
だから、これはもう僕の人生そのもの。
何かの集団に所属して、誰かの命令を受け続けながら生きていくことを、最初から拒否した人生です。
これは、やはりとてつもなく辛いですが、それを何百倍も上回る楽しさと充実感があります。
だから、うちの社員はみんなちゃんと育ててプロデューサーにして、ゆくゆくは一人一人の個性を活かした会社を作ってあげたい。劇団員は、みんなに主役をやらせて、ゆくゆくはそれぞれの劇団を作ってあげたい。
そんな「素敵で幸せな辞め方」を、みんなに味わわせてあげたい、と思うようになった今日この頃でした。
2005.8.20 掲載
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