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第44回 おもしろいもの発見アンテナ


6月にレーシック手術を受けてから、この連載でも書きましたが、僕の日記ページでも「すごいすごい」って話を書いてきました。 あと、僕が手術を受けた「神奈川クリニック」の広報部の方からインタビューを受けて、 なんとその模様が神奈川クリニック眼科のホームページでけっこうでかでかと載っております。
 そんななか、「なんか、神奈川クリニックの広告塔みたいになってますが、いくらぐらいもらってるんですか?」という直球な質問をいただきました。

 最初はクリニックのホームページのインタビューの時にもらった謝礼の商品券のことかな、と軽く思っていたのですが、 ウチのプロデューサーの仲村和生から「あれだけデカデカと載ってて、いいことばっかり書いてたら、 絶対かなりなカネをもらってると思われてもしょうがないですよ」と指摘されました。

 そうかぁ。冷静になってみれば、僕があまりにも突然近視矯正手術を受けて、その後やたらとそれをネタにいろんなところに文章を書いているので、 勘ぐる人が出てきてもしょうがないでしょうね。

 神奈川クリニックにもらった「金銭関係」は商品券だけですよ。でも、クリニックの方々がいっぱいキャラメルボックスの芝居を観に来てくださるようになって、 みんな喜んでくださっていますから、僕としても宣伝効果があったかもしれませんっ!

 ……だいたい、いつもそうなんです。僕はこんな人なので、「おいしいっ!!」と思ったらそのまんま書きますし、 「おもしろいっ!!」と思ったらまたまたそのまんま書きます。それと同じ感覚で「すごいっ!!」と書いていたら、勘ぐる人が出てくる、というわけです。

 確かに、このレーシック手術は単価が高いですし、ネガティヴ・キャンペーンも激しく行われているものですから、 僕があまりにもレーシックを受けて良かったことばかり書くのが疑われるのかもしれません。  

 世の中の新聞というかマスコミの世界でも、いろんな立場があるようです。たとえば、僕が購読している新聞Aは、 「記者の主観を極力排除して、できる限り直接取材して、客観的事実のみを書く」ことを徹底しているそうです。 が、とある有名新聞社Bでは「一つの良いことや悪いことがあったら、同じ量だけその反対意見も集めて書く」ことを徹底されるそうです。

 このB新聞のようなやり方をするとなると、レーシックに関しての僕の体験談は載せられないことになります。 つまり、手術によって得たプラスに対して、マイナスなことは手術には保険が効かないのでパッと目には高いとか、40歳を過ぎてから手術すると、 した途端に老眼になってる可能性が高いとか、夜になるとちょっと視力が落ちた気がするとか、そのくらいなもので、 メガネやコンタクトから解放された喜びに比べればなんてことはないものばかり。なので、圧倒的に「良いこと」ばかりになってしまうからです。

 でも、レーシックなんかに普及されてしまっては困る業界もあります。レーシックをやりたくてもそんな手術設備を用意できない眼科もあります。 だから、当然悪いところを強調したい人もいるでしょう。

 が、実際に、何のしがらみもなく、自分の意志で手術を受けて、こんなに喜んでいる人がここにいる、ということだけを僕は伝えたいわけですから、 逆に言えばこの手術のせいで突然目に何かが起きたらそれはそれでちゃんと伝えていくことでしょう。


僕の唯一の取り柄は「究極のミーハー」

 レーシックに限ったことではなく、僕がやっているキャラメルボックスという劇団そのものに対してもそうです。

 自分がやっているんだから、おもしろいおもしろいと言ってあたりまえ、と思われてしまっては元も子もありません。 それは逆で、キャラメルボックスの芝居は「僕がおもしろいと思えるように稽古段階で修正していき、それを発表している」のです。

 僕は、キャラメルボックスのお客さんに対して絶対的に「最低でも自分がおもしろいと言い切れる芝居」を提供する責任があるのです。

 僕という人は、楽器ができてもアマチュアレベルですし、Macができてもデザインもムービーも写真の加工もデザインも音楽編集もすべてアマチュアレベルですし、 文章を大量に短期間に書くのは得意でも資料をきちんと調べて整然とした文章を書いたり文学的な文章を書いたりすることは不可能ですし、もう、 ほとんどのことが広く浅くちょっかいを出している、というレベルのものばかりなのです。

 そんな僕の唯一の取り柄は、「究極のニュートラル」。言い換えれば「究極のミーハー」。

 限られた時間で仕入れられるだけの自分に興味がある情報を入手して、いろいろちょっかいを出していき、その中で特に気になるモノや事があったら、 どんどん手を出していって試してみる。そして、いいものはどんどん劇団の活動に活かしていくし、お客さんに紹介していく。 そんなのが、僕の仕事だと思っているのです。

 そして、そんな僕のアンテナにひっかかったおもしろいものやいいものを、やっぱりおもしろい、いい、 と思ってくださる方が、世の中には何万人かはいらっしゃる、と信じているのです。キッス、バウワウ、S.スピルバーグ、J.キャメロン、小田和正さん、 ……そんな、王道のようでちょっとメインストリートからはずれていそうな(当時の話ですよ)、 でも「メジャー感覚」が満載な人たちが創り出すモノが僕を惹き付け、そしてだんだん広まっていく。そんな不思議な感覚を、ずっと味わってきていたからです。

 この感覚は、10代後半の頃から薄々感じていました。なぜなら、世間の評価は低いのに僕がいいと思っていたミュージシャンや劇団が、 その後どんどん売れていったり、ということが頻発したからです。が、その頃は「漠然とした自信」でした。

 しかし、そんな漠然とした自信を実践に移してしまったのが大学2年の春。 成井豊の芝居を観て「なんでこんなにおもしろいのに400人しかお客さんが見ていないんだっ?!」と愕然として、 「よぉーーし、オレがこの芝居を100万人に見せてやる!!」と勝手に思いこみ、そのままその劇団に入ってしまったのです。

 そしてそれから20年が過ぎました。


ウンチクやライバル商品との比較など関係ない

 2001年頃でしたか、はたと思い付きました。「キャラメルボックス旗揚げから数えて、そろそろ延べの観客動員数が100万人を超えそうだから、 100万人目の人に、くす玉を割ったりして、何かプレゼントしちゃおうよ」という話題が出ました。 なんと、それまで、そういう大記録は遠い未来のことだと思っていたので、動員数の一覧表はあっても足し算をしたことがなかったのでした。

 すると……なんと、前年の2000年の公演『クローズ・ユア・アイズ』で、とっくに100万人を超えてしまっていたのです……。 で、この原稿を今書きながら、「おっと、150万人の時ははずさないようにしなきゃ」と、マイクロソフトエクセルを開いて動員数の表を流し込んでみました。

 すると……なんと、今春の『我が名は虹』で、またまた超えていました……。

 なんか、これが僕らの生き方の原点のような気がします。

 普通だったら、「100万人動員!!」を大目標にしてみんなががんばる、というのがありがちじゃないですか。 なのに、ウチの場合は日々を懸命に生きていく中で、気が付いたら目標値を過ぎていた、というおまぬけなことが起きていくわけです。

 そんなわけで、大学2年の時に決めた目標はとっくにクリアしてしまっていますので、僕の「おもしろいもの発見アンテナ」の効力は19年がかりで証明された、 と言えるのではないでしょうか?!

 自分がいいと思うものを「いい」と堂々と言ってしまい、その世界に詳しい人達に嫌われる、という日々が、もう20年以上続いています。 でも、いいんです。ウンチクやライバル商品との比較など、僕には関係ないんです。 どんなに「お受験」が大変だって世の中で言っていても、自分ちのこどもは小学校低学年までは遊び9に対して勉強は1。 どんなに熱中症に気を付けろ、とニュースで言っていても、こどもは外で遊ぶべし。 新潟にいっぱいへぎそばのお店があって、地元の人が薦めるお店がいくつあっても、僕は長岡小嶋屋。 どれほど「あんなの邪道だ」と言われようとも、僕のナンバーワンのラーメン屋さんは天下一品。 どんなにWindowsパソコンが10万円を切った値段で買えた上に処理速度が速くても、僕はAppleのMacintosh。 ポータブルオーディオのAppleのiPodとSONYのNETWORK WALKMANだったら、僕はiPod。 でも、その他のオーディオ&ヴィジュアルはどんなにビクターやパナソニックがいいのを出しても、僕はSONY。 そして、メガネよりもコンタクトよりも、レーシック。

   数字なんかよりもなによりも、僕がオススメしたモノや事にちょっかいを出してみて、やっぱりよかった、とお客さんが喜んでくださるのが、 なによりも一番うれしく、楽しいことです。

 だから、僕はキャラメルボックスの公演のカーテンコールで、いつも舞台に近い入り口扉の前で客席と舞台を見つめています。 お客さんには楽しい芝居を提供し、役者達には最高のマナーのナイスなお客さんを提供する。 そして、その両者がみんなニコニコして手を振り合っているカーテンコール。そんな、何百という笑顔に埋め尽くされた空間に毎日立ち会うのが、 僕の命の源なのです。

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