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第42回
大長編ドキュメント
「近視矯正手術」を受けたっ!!  −その2−


当日は、朝9時にクリニックへ。1週間の間に目に変化がないかどうかの視力検査を終えて異常なし。 しばらく待って、受付の方に連れられて出術室……かと思いきや、ロッカールームへ。 「クリーンルーム」という、ホコリなどが一切無い部屋で手術をするので、頭から足の先までカバーをかけられます。
 そして、メガネを取って、ぼやけた視界で手術室へ。

 看護師さんたちが準備をする部屋に案内されると、「いつもだったらここに入ったらすぐに手術用ベッドに寝て頂くんですが、 ちょっと機械の調整中ですので、先に麻酔をしてしまいます」とのことで、検査の時と同じ点眼の麻酔薬を垂らされます。 手術が次から次へと行われているので、前の人のが終わって、機械をリセット中、っていう感じでした。

 そこで、じっとしていられない性格の僕はきょろきょろと辺りを見回して観察していたのですが、なんと、監視カメラを見つけました。

 「あ、もしかして、手術の様子のビデオとか、記念にもらえませんか?」と、突拍子もないことを聞いてみました。 すると、3人ほどいらっしゃった看護師さんがみんながおかしそうに「たぶん大丈夫だと思いますから、伝えておきます」とのこと。 うっしっしっし、一生に一度のこの手術、自分がどんなふうにされていたのか、後でじっくり見てやろう、とわくわくしてしまいました。

 その後、まだ時間があったので「僕、けっこうまばたきが多い方なんですが、まぶたを押えられている間に我慢しきれなくなったらどうしたらいいんですか?」 と聞いてみました。すると、「涙のかわりの点眼を常にしますし、麻酔のせいでまばたきをしたくなる感覚が少なくなりますし、 実際にまぶたを固定している時間は2分ほどですので、ほとんどの方はなんともないですよ」と安心させてもらいました。

 そして、そんなに待たされないうちに先生が入ってきました。なんと、よくパンフレットとかに載っている院長先生でした。 機械の説明、手術の段取りなど、全てあらためて紹介してくださってから「では、横になってください」。

 緊張の瞬間です。


生まれて初めてのことをされている、という恐怖 イラスト

 ドーナツ枕のような頭を固定するための枕の上に頭を乗せてベッドの上に横になると、真上に機械がやってきました。

 「目の位置を合わせますので、首が楽になるような位置に体を動かしてください」とのこと。 僕は首が曲がっているので、逆に身体を曲げて首をまっすぐにしました。

 「まず、右目からです。左目に布をかぶせます」
 目だけを出してある布の上から、あらためて左目の上に布をかぶせられました。

 「では、緑色の光が見えますからじっと見つめていてください」
 見つめました。

 「それでは、あらためて麻酔をします」と先生がおっしゃって、点眼。

 「それでは、まぶたが閉じないように固定します」とおっしゃって、上のまぶたを軽くくいっと持ち上げられる感覚。痛くはありません。次に、下のまぶた。
うぃーーっ!

 なんか、この時点で、急に恐くなってきました。というのも、別に、手術が恐いとかではなくて、前もって看護師さんに相談したとおり、 まばたきって、自分の意志とは関係なくするものじゃないですか。もちろん、まぶたを閉じるな、と言われれば2分や5分、我慢できる自信はあります。 でも、強制的に固定される、という経験は初めてじゃないですか。そういう意味で、生まれて初めてのことをされている、という恐怖を感じたのでした。 だから、正確に言えば恐怖ではなくて、びびってた、ってことなんですかね。

 で、「それでは、きれいな水で目を洗います」とおっしゃって、びしゃびしゃーっと冷たい水をかけられました。正確には、生理食塩水だったようです。

 続いて、「では、大切なところです。じっと緑色の光を見ていてください」と言われた直後に、何かが迫ってきました。 そして、その直後に、その何かの向こうに何かが近づいてきました。でも、ずっと緑色の光は見えているので、 何かが近づいてくることについては特に恐怖はありませんし、痛くもありません。

 ですが、明らかに眼球が押されているのがわかります。
 この感覚は、別に恐怖でも何でもなくて、みなさんも目を閉じて、まぶたの上から目を押してみていただければ感じることができる通常の感触です。  そんなことをしながらも、先生は語りかけてきてくれます。
 「はーい、すごくきれいにいっていますよー。さぁ、次は赤い光が見えてきますが、緑色の光から視線を離さないでくださいね。 もう、すぐ終わります」と言われました。と、突然視界がぼやけました。そもそも至近距離で何かをされているので全てがぼけているわけですが、 より一層ぼやけた、という感じ。

 が、視界は思いっきり明るくて、赤い光が丸く視界の外側の方に花火のようにチラチラしてて、その真ん中に緑色の光が北極星のように光っています。 なんだか、緑色の光が僕の希望の星、という感じ。ここがとてつもなく長く感じたのですが、実は数秒。 具体的に何をされているのかわからない、というよりも、痛みや圧迫感、というよりも、なによりも、未知のヴィジュアルが目の前に広がっている事への恐怖で、 僕はうなりながら手を握りしめ、歯を食いしばっていました。

 が、その直後、「はい、一瞬暗くなります。その後、もうおしまいですよ」と言われた直後に暗くなり、すぐに明るくなりました。 そして、目の前がなんだかわかりませんがパタパタして、何かやっているのがわかりましたが、すぐに「はーい、終わりました。 ゆっくり目を閉じてください」と言われました。


ビデオに撮られていることを意識して、自分で実況中継

 正直なところ、この数倍はかかるものだと覚悟して歯を食いしばっていたのに、という拍子抜けな感じでした。

 歯医者さんにたとえると、ものすごく痛い虫歯を治療される時に、「では、口を大きく開けてぇ」と言われて開けて、耳の脇で「ちゅいーーーん」 っていう例の音が聞こえると、自然にものすごい強さで目をつぶり、診察台にしがみついたりするじゃないですか。 で、その「ちゅいーん」が口の中に近づいてきて、歯に接触して削り始めてから削り終わるまで、っていうのが歯医者の恐怖でしょ?

 ところが、このレイシックの手術の場合は「ちゅいーん」が近づいてきて、口の中に入ったな、と思ったら「はい、おしまーい」という感じです。 つまり、歯医者の恐怖のうち、一番苦痛な「削っていることが骨に伝わって、痛くなくても痛いような感じがする」というあの部分が無い、 という不思議な感覚なのです。

 が、右目をやってもらっている間にあまりにも緊張してしまっていた僕はすんごくいいことを思い付いて、「はい、それでは左目に移ります」 とおっしゃった先生に、提案をしました。
 「先生、緊張してるんで、しゃべっててもいいですか?」
 すると、周囲がなごんだのがわかりました。てゆーか、看護師さんたちにウケてました。
 先生は「いいですよ。でも、大事なところでは黙っててくださいね」と、優しく答えてくださいました。

 そこからはもう、独壇場です。けっこう、ビデオに撮られていることを意識して、自分で実況中継です。 「おっと、冷たいですねぇ。あ、何ですかこれは?何かが迫ってきましたぁっ!」と、もう、しゃべり続けていました。 こうなると、緊張もへったくれもありません。思いっきり状況を楽しんでしまったのでした。

 どんな環境に置かれても、その状況を楽しんでポジティヴに生きましょう、という自分の教えに従って、 左目は特に緊張することもなくあっという間に終わってしまいました。  

 そして、すぐに「では、両目をゆっくり開けてください」と先生。
 「えっ?!もうですかっ?!」と思わず聞いてしまいました。
 「はい。ゆっくりですよ」。

 で、ゆっくりと開けてみたら……!! なんと、普通に看護師さんたちの顔が見えるのです。 正確に言えば、普通ではなく、プールの中でゴーグル無しで目を開けている感じ。ぼんやりとした視界ではありますが、 そのぼんやりは近視のぼんやりではなく、ちゃんと昔のように見えるものが見えていて、そのうえで何かフィルターがかかったかのような感覚でした。

 「はい、お疲れ様でした。すごくキレイにつきましたよ」と声をかけられて立ち上がってみたら、いやぁ、見える見える。 ただ、やっぱりぼんやりしているので、想定していた「感動」は特にありませんでした。

 先生と看護師さんたちにお礼を言って手術室を出ると、看護師さんに連れられて、ロッカールームに戻って着替え、 その次にカーテンで暗くしてある部屋に行きました。そこにはリクライニングするソファがいっぱい仕切で区切られて置いてありました。

 そのソファに座ると、「どうでしたか?」と看護師さんに問われました。
 その瞬間に、めちゃめちゃいいことを思い付いてしまいました。

 あの、未知の景色。あれをシミュレーションしたアニメーションを前もって見せられいてたら、きっとあんな恐怖は無かったのではないかと思うのです。 つまり、未知の世界の恐怖、というのは、前もって 「こんな景色が見えて、この時にこんなふうな(まぶたの上から指で押さえたときと似たような)感覚を覚えます」 っていうふうに見せられていればちっとも未知ではないので、「あ、あのアニメといっしょだ」と思えば恐くなかっただろうな、と思うのです。

 よく、レイシックのパンフレットには「どんな手術をするか」という眼球の絵をモデルにした手術シミュレーションが描かれているのですけど、 逆にあれのせいで「絶対イヤっ!! 」と思っている人が多いのではないでしょうか。

 逆に「こんなふうな景色を見ているうちに、あっという間に終わります」と言われたら、 僕もあんなに歯を食いしばったりしゃべりまくったりしなくても済んだかもしれません。

 ……というようなことを、スゴイ勢いで看護師さんにしゃべったら、「なるほど。そのご意見は是非参考にさせていただきます」とおっしゃり、 「では、ここでしばらくお休みになっていてください」と言われて、横になりました。 なんだかんだ言って、朝から極度の緊張状態にあったということに気づきました。ふーっと緊張が解けていき、何も考え事をする間もなく、熟睡してしまいました。

 何分たったかわからないのですが、「加藤さん」と呼ばれて目を覚ましました。

 それから先生の診察を受けました。「うん、すごくキレイについていますね」と褒めていただき(?)、 薬と防護用のメガネと寝るときに使う目を守る眼帯の豪華なヤツを受け取って、そのまま神奈川クリニックをあとにしました。


「確かに自分の目で景色を見ている」とじわじわ感動

 外に出ると、全ての景色がキラキラしています。
 まぶしーっ!!

 ですが、確かに自分の目で景色を見ているのです。この時点で、じわじわと感動が湧いてきました。 あまりにもうれしかったので、そのままタクシーに乗って会社に行きました。「目、切ってきたよーっ!」とスタッフみんなを驚かせて、タクシーで帰宅しました。

 なによりも目に刺激を与えるのと、ゴミなどが入ったりするのとを避けなければいけませんから、電車は避けた方がいい、とのことだったのです。

 帰宅して、はらはらして待っていたヨメにこれこれしかじか、と手術の様子とその時の緊張のことを話したら、 「それって、あたしが最初、ディズニーランドのホーンテッドマンションに入ったときに、 1回目は最初から最後までずーっと目をつぶってたけど2度目からは楽しくなっちゃったのといっしょよね」と言いました。
 なるほど。

 お化け屋敷って、何が恐いかって、おばけが恐いワケじゃなくて、真っ暗な中で何がどこから出てくるのかがわからない、という恐怖じゃないですか。 もし、どことどこでどんなお化けがどんなふうに驚かせにやってくるのかが前もってわかっていたら、ちっとも恐くないわけで。

 ちなみに、その日、夕方から防御メガネをつけてレコーディングへ。「今日は早く寝てください」と言われていたのもなんのその、 深夜までスタジオにこもっていたのでしたっ!!

 翌日、「翌日検診」でした。またもや「非常にきれいにくっついていますね」と褒められて終了。視力は、両目で1.5、右が1.5の左が1.2でした。

 その検診の後、受付の人に「申し訳ありません、ビデオなんですけど……」と言われて思い出しました、お願いしたことを。 ですが「差し上げる、というお話をしてしまったかと思うのですが、それはできないのです。そして、モニターカメラの映像ではなく、 医師の視線の顕微鏡上のものですが、それでももしよろしければ、カウンセリングルームでお見せいたしますがいかがですか」と言われ、 大喜びで見せていただきました。

 「うちの新人研修でもこういう手術のビデオを見せられるのですが、気分が悪くなる者もいるんですよ」と前置きされたにも関わらず、 僕は「なるほどねー」とか言いながら、手術の全工程を見てしまいました。
 「あー、それであぁいう刺激があったわけかぁ」と思いっきり納得したのですが、その映像を手術前に見せられていたら、きっと逃げ帰っていたことでしょう。

 そんなわけで、まだ今日は手術後2日目。これからどんなふうになっていくのかわかりませんし、 まだまだ30分ごとと3時間ごとに点眼しなければならない薬が何種類もあり、現時点ではコンタクトをしている時よりも目に気を遣いながら1日を過ごしています。 が、少なくとも、安心してうたた寝もできますし、朝起きたときに枕元のメガネを探すことも必要ありません(必要ないのに探してしまう習性は残っていますが)。 幸いなことに近くのものもくっきり見えています。

 これでもしちゃんと順調に裸眼になることができれば、コンタクトレンズ代も、メガネ代も、これから一生かからないで済むわけです。 費用対効果は、果たしてどのくらいなものでしょうか。

 ただ、少なくとも、1週間という行動の制約が取れた後は、こどもたちと存分に遊び、安心して汗をかき、安心してプールに行き、安心して車の運転ができる、 というわけです。
 残り少ない人生の貴重な残り時間を1分でも節約して生きていける、と考えればかなり安い買い物ではないかと思っています。

 特に皆さんにお勧めするかどうかは、人それぞれだと思いますが、こういうお金の使い方もあるんだよ、ということを是非ご紹介しておきたく思いまして、 こんなにくどくどと書いてみました。 将来、この手術をする人が増えてもう少し値段が下がれば、舞台俳優たちも危険を感じずに安心して殺陣をやることができるわけです。 そのために、僕の手術が何かのきっかけになっていってくれることを切に願っています。

 まぁ、骨折した人が病院に行かないで一生松葉杖で過ごしたり、 虫歯になった人が歯医者に行かないで痛いまま歯が崩れ落ちるまで放って置いたまま過ごすことは無いのと同じように、 視力が落ちた人が当然のように眼科に行ってレイシックの手術を受ける、という時代が、いつか来るのかもしれませんね。

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