来月発売のロゼッタストーン本誌のテーマは「癒し」でした。 いろんなことを考えたのですが、一応内容はなんとかまとめて原稿をお渡ししました。 「癒し」のことを考えていて、僕が最も癒されるのはなんだろう、と問いかけると、数秒で「家族」って言葉が出てきます。 つまり、帰宅してみんな寝ていてもこどもたちやヨメの寝顔を見ると、ふっと力が抜けて元気が出るのです。 というか、それまでものすごいテンションで一日を過ごしていたことが自分でわかる、という感じですか。 まぁ、「癒し」とはちょっと違うのかもしれませんけど。 で、とにかくヨメやこどもたちが僕にとってはとっても大切なわけですけど、ことし一年生の長男は、 最初っからちゃんとひとりで歩いて小学校に通っています。が、その途中にとても危ない交差点があるのです。 昔から危なかったのですけど、大きな交差点から数mのところでクランク状に曲がる一方通行があって、 そのT字路は非常に自転車と人間の交通量が多いのです。で、ちゃんとそこには「自転車とまれ」の表示が路面に書いてあるのですけど、 ほとんどの自転車が止まりません。なので、自転車同士の接触や、人と自転車のひやりとする瞬間が、もう日常茶飯事で起きているのです。 が、そこが、ウチの長男の小学校の通学路になっているのです。 こどもたちは、当然危険を知っているので、交差点を遠回りして曲がる、という防御策をとっているのだそうです。 しかし、遠回りする側には、歩行者用の通行区分帯が無いので、油断すると車が曲がってくる可能性もあったりするのです。 ……と、文字で書かれてもその危険性は伝わらないと思いますが、とにかく、 僕でさえ何度も自転車にぶつかりそうになったことがあるほどの危ないところです。 で、なんで危ないのかというと、単純に、自転車が一時停止しない、ということ。 大人が、ちゃんと交通規則を守ればそれでいいのです。 しかし、90パーセントの人が守っていないのです。 きっと、自分のこどもたちには「ここでは止まりなさい」なんて言ってるはずの、大人がです。 市への直訴で、交差点に歩行者用の鏡がついた! そこで、僕は僕が住んでいる市のホームページに行って、そういう陳情を受け付けるところはないかを調べてみました。 すると、ありました。なんと「市長への手紙」というコーナーだったのです。 が、そもそも自治体なんてあんまり信用していないので半信半疑でそこに事情を書いて送信してみました。 そうしたらっ!!なんと、数日後に僕がいないときに市役所の担当の方から電話があって、 「確かに危険です。路面表示が薄くなっていたので書き直します」と言われたそうです。すぐに現場を見てくださったようです。 で、もうその数日後には表示が塗り直され、その上に「とまれ 左右確認」という黄色いカンバンが立てられていたのです!! なんて素早い対応!! しかし、その対応をしていただいたので感動していたら、そのカンバンの前を大人たちはすいすいと通過していっているのです。 そこで、再び「市長への手紙」に、お礼と共に「結局、誰も止まりません」と書いて送ってみたところ、今度はなんと、その交差点に歩行者用の鏡がついたのですっ!!すごいっ!! つまり、それさえあれば歩行者は前もって危険を察知することができるというわけです。 いやー、僕なんて、市に献金しているわけでもありませんし、たばこ税以外はそれほど税金払ってませんし、ほんとに申し訳ないです。 が、「政治」がちゃんと市民ひとりひとりのことを考えてくれている、ということを実感した瞬間でした。 ウチの市が特別サービスがいい市であるのかもしれませんが。 しかし、鏡がついても、自転車は止まりません。 これは、携帯電話のマナーにも似ていますね。 最近最も腹が立つのは、中年のビジネスマンが堂々と電車の中で仕事の電話をしている姿です。 ちなみに僕は、移動中に済ませなければいけない電話の用事があるときは、最後の一駅分とかをタクシーに乗ります。 もともと、携帯電話なんてものは、そういうものでした。高速移動しながら携帯を使うなら、車に乗れ、と思うのです。 車に乗れる甲斐性がないのなら、携帯なんか持つな、とワタシは言いたい。 しかし、そういうビジネスマンだって、家に帰ればこどもたちに「電車の中で化粧してる女子高生がいやがった。 なんだと思ってるんだろうね」とか言ってるんですよ。きっと。 ところで(話題が変わったように見えますが、最終的には伏線ですので聞いてください)、ウチの次男の通っている幼稚園から届く「おしらせ」には、 素敵なことが書いてあります。「こどもたちの『つぶやき』を、知らせてください」というのです。 「つぶやき」とは、なんでもいいのです、たとえば、うちの子であれば「広角レンズで撮った犬の顔の写真を見て、歌を作りました。 歌詞は『いぬいぬ よりめ よりめ はぁーっ!』です」とか。おもしろいなぁ、かわいいなぁ、と親が思ったことを、 先生宛の連絡帳などに書くのです。 ……実はこれ、親宛の宿題なんです。 先生から出されたこの課題のために、親は一所懸命こどものことを観察し、記録します。それが、この幼稚園のねらいだと思うのです。 「がんばってるんです光線」より「笑顔の光線」を この幼稚園の素敵なところは、他にもいっぱいあります。他にもあるようですが、園内では運動会だろうと参観日だろうと、 ビデオを撮ってはいけないのです。そのかわり、担任の先生たちがポケットカメラを持ち歩いていて、 こどもたちの写真をいっぱい撮っておいてくださるのです。そういう、家では見せないこどもたちの表情を、 先生はいっぱい切り取っておいてくださるのです。 次男をその幼稚園を入れる前に、見学会に行ってみたら、そういう写真が山のように飾ってあったのですが、 写真撮りのはしくれである僕の目から見ても、とてつもなく素敵な写真ばかりでした。 思わず、その場にいらっしゃった先生に「素晴らしい写真ですね!」と声をかけてしまいました。 すると、先生はニコッと笑って「いっつも撮っていると、うまくなっちゃうんですよー」とおっしゃいました。 これは、すごいことです。写真って、対象を愛していないと、絶対素敵に撮れません。『ナツヤスミ語辞典』のセリフじゃないですけど、 写真はある程度真実を映します。ましてや、幼稚園の先生という激務の中で、職務として園長先生に命令されて写真を撮っていたら、 そんなのすぐにわかってしまいます。が、しかし、そんな写真は全くないのです。 そこで気がついたのですが、この幼稚園の先生方は、みんなかわいいのです。 それは、見た目がどうこうではなくて、笑顔が「こぼれている」感じなのです。 何と比較しているのかというと、長男が通っていた幼稚園とです。 そこの先生方は、みんな必死で「がんばってるんです光線」をみんなが出していました。表情がいっぱいいっぱいで、 僕としても「あぁ、噂には聞いてるけど、幼稚園の先生って大変なんだな」と同情さえしていたくらいです。 最終的に年長の時に長男がいじめに遭って、その件について幼稚園に事情の説明を求めたら、園長が全く要領を得ない人で、 教育者どころか社会人としての常識もない人だということがわかって、なんてところに3年間も通わせてしまったんだ、と呆然としたものです。 で、その次男の幼稚園は、園中に笑顔が溢れていました。 時々僕が園まで送っていくことがあるのですが、なんと、先生と児童、先生と親、だけではなく、親と親が笑顔で挨拶しているのです。 これまた、長男の幼稚園との比較で、びっくり。 なんというのでしょう、笑顔の連鎖、とも言えるかもしれません。 ここの園長先生は、きっととてつもなく素敵な人なのだと思います。 しかもこの幼稚園、巨大なラブラドール・レトリバーがいるのです。本人(犬)はおそらく、自分のことを副園長先生ぐらいに思っていて、 登園してくる児童たちをひとりひとりくんくんして、ご挨拶したり、知らない親が来るとくんくんしてチェックしたり、 園児にしっぽをひっぱられたりすると「はいはい、おいたはやめなさい」とでも言いたそうにぺろぺろしたりしているのです。 これまた、びっくり。あまりにも自然な、動物とのふれあい。こんな状況、ちょっと考えられないと思いませんか?だって、 「あんな大きい犬、もし噛付いたらどう責任をとってくださるんですかっ?!」とか、言いそうじゃないですか、親たちが。 でもしかし、園長先生はその犬が児童たちを噛んだりしないように、100パーセントの自信を持って育て、 こどもたちのためにあえて全責任を持って園内に放しているのです。これはもう、すごいという言葉しか出てきません。 と、このように、笑顔の連鎖から生まれる環境によって、親たちもつい乗せられて「つぶやき」を書いてしまうというわけなのですが、 これこそが、僕がキャラメルボックスにおいて「携帯電話チェックタイム」や「おしずかにイエローグッズ」 でやろうとしていることと共通の道筋なのです。 つまり、「携帯電話を切ってください」「上演中の私語はやめてください」と、淡々と注意されても、 その言葉は右の耳から左の耳へと通り過ぎていきます。しかし、わざわざ「携帯電話チェックタイムのテーマ」というオリジナル曲まで作ってきて、 社長自らが踊りながら「はーい、みなさん、チェックタイムです。 必ずポケットから取り出して、携帯の電源が切れてるかどうかを確認してくださーい」とやられると、もう、 「こいつアホや」と思いながらもつい切ってしまうのです。 そしてまた、客席の人たち全員に「おしずかにイエロークリアファイル」なんてものが配られて、まっ黄色なそのファイルの表に「おしずかに!」 と巨大な字で書いてあり、裏にちょこちょこと注意事項が書いてあったりすると、「こんなもんにカネ使うなっ!!」とアホらしく思いつつ、 つい静かにしてしまうのです。 この、「アホらしく思いつつ」と「つい」がとっても大事だと思うのです。 「やれ」と言われてもできなくても、「つい」なら、人間って、動くのです。 で、話は元に戻ります。 なんと、「渋滞表示」が渋滞の原因だった! 自転車の件ですが。 土日に高速道路が渋滞する原因って知ってますか?(←また話がそれそうだ) 渋滞の先頭というのは、トンネル、坂の頂上、急カーブ。つまり、その道に慣れていない運転者が、ついブレーキを踏んでしまうことで、 それが後ろへ後ろへとつながっていって、最後は止まっちゃう、というのが渋滞の原因なのです。まぁ、事故とか工事とかは言わずもがなですが。 で、上記の3つの原因以外に、ものすごく意外な渋滞の原因が見つかったのだそうです。 それはなんとっ!!「渋滞表示」。 「この先5キロ渋滞」とか、「10キロ先事故 運転注意」なんていう、慣れてない運転者にとって興味がある表示が出ると、 じっくり読むためにブレーキを踏んで減速する人が続出して、なんと渋滞になってしまうのだそうです!! で、それを逆手にとるのです。 「あぶない」っていうカンバンは見慣れていますので、逆に「ここで止まらないと82パーセントの確率でこどもとぶつかります」とか、 「ちょっと待ってください。このカンバンは魔法のカンバンです。魔法の魔という字をじーっと見つめてみてください」とか、 つい止まってしまうようなカンバンをいっぱい作って、月代わりとかで市内のいろんな交差点・曲がり角をローテーションさせるのです。 危ない交差点に、笑えるカンバンを多数設置する。これは、かなりいけるのではないかと思うのですが、いかがでしょうかっ?! ……ちなみに、キャラメルボックスの公演では、サンシャイン劇場や新神戸オリエンタル劇場の、2階席・3階席まで上っていただく階段の壁には、 「2(3)階への階段シアター」という、しょーもない掲示が貼られています。これは、「この階段、長いなぁ」と僕自身が思ったので、 逆に長い階段を上まで上るのを楽しみにしていただく方法として思いついたものです。 最初は、普通に「これは2階への階段です」「天国につながっているかもしれません」とか、文字だけの掲示だったのですが、 その後役者リーダーの西川浩幸が「僕にやらせて」と申し出てきたので譲ったところ、 製作スタッフと協力して毎公演とんでもないアイディアに富んだとてつもなくバカバカしい掲示の数々を作り上げています。 これに気づく人は、たまたま2階席のチケットを取ってしまった人たちだけなのですが、その人たちが次にご来場になったときは、 持っているチケットが1階席でもとりあえず2階まで上ってみなければ気が済まないようになってしまうようです。 このように、笑顔の連鎖の法則を使えば、きっと世の中はもっともっと良くなっていくのではないかと思うのです。 そのためには、まず自分がいつも笑顔でいること。周りの人たちの笑顔を大切にすること。 その笑顔を守っていくために、全力を尽くすこと。それがまず第一なのですけどね。