第17回 地方の公共施設は「文化鎖国」をしている!
10月は忙しかったですねぇ、僕。
11月6日初日のキャラメルボックスの新作『裏切り御免!』。新作は、台本がなかなか出来てこないのでみんなハラハラしながら待っているわけです。
その選曲をしつつ、来春の「ジャパンツアー」の打ち合わせのために札幌と名古屋にそれぞれ日帰りで打ち合わせに行ってきました。
先日、小泉首相が日帰りで北朝鮮に打ち合わせに行ってらっしゃいましたが、あのお歳でそれをやるのは、ほんとに大変なことですよ。僕なんか、同じ国内での日帰りでさえへとへとでした。
5年ぐらい前には、キャラメルボックスはけっこう精力的に地方公演をやっていました。北から言うと、札幌、盛岡、仙台、新潟、名古屋、大阪、神戸、高知、福岡、と、いろんなところで公演をやりました。
普通、劇団の地方公演というと、東京公演で評判が良かった作品を地方の団体に買い取りしてもらって、「乗り打ち」と呼ばれる、朝仕込んで夜本番、深夜移動、ということを繰り返して儲けていくわけです。
ところがキャラメルボックスの場合、どこの地方に行くにしても東京公演と同じ規模で照明や大道具を仕込むため、最低でも仕込み2日、本番は劇場に入って3日目の夜から、というスケジュールになります。なので、最低でも3日間以上劇場を押えなければなりません。
ところが。
地方によっては、僕らが通常上演しているサンシャイン劇場やシアターアプルや新神戸オリエンタル劇場のような民間のホールが無いため、県や市の施設を使わざるを得ないわけです。
そうすると何が困るかというと、そういう市民のための施設は「地元優先」なのです。まず、長期間の貸し出しをしない。そして、外の団体の施設利用予約は地元の人たちの予約が終わってから、ということになります。だから、僕らのような最低3日以上はないと公演ができない、という団体の場合、ほとんど公演できる会場が見つからない、というわけです。
そんな事情から、キャラメルボックスの地方公演はどんどん回数が減って行ってしまったわけですが、今回は久しぶりに「まず、やる」ということを前提にありとあらゆる手段を使って劇場押えに走りました。その結果、巨大なホールばかりのツアーになってしまったのです。
市民の利用を優先するだけでは、地方に文化は育たない
そこで僕が言いたいことは、「東京モンにもやらせてくれよー」ということではありません。
「市民の税金を使って建てたホールだから、市民の利用を優先する」という発想でホールを使わせている限り、逆に地方に文化は育たないのではないか、ということが心配です。
つまり、たとえば僕がなんで教育学部にまで入ったのに先生ではなく演劇の道に進んでしまって今こうして生きているのかというと、中学、高校、大学、という時代に、演劇はもちろん、映画、コンサートなど、山のようにいろんな「文化」に接した結果、成井豊の演劇作品に出会い、「これだ」と心を決めることが出来たわけです。
つまり、テレビとかビデオで「見る」だけではなく、実際にナマのものを身体で感じること、身近でそういうことが行なわれているということ、それが大事だと思うのです。
「地元優先」を続けている限り、確かに地元の文化は成長する可能性はありそうですが、逆に他地域の文化団体の流入は進まず「活性化」からは程遠い状況になってしまうのではないか、と危惧します。
いちばん良い例が、名古屋です。名古屋市内には、いっぱい「市のホール」があります。ちょうど、若手の劇団がやるためにちょうど良さそうな小ホールが、市内のいたるところにあるのです。やる側からしたら、理想的です。
が、実際、この10年で「メジャー」な劇団が名古屋からどれだけ出てきたでしょう。一つもない、と言っても言いすぎではないと思います。
この結果こそが、「文化鎖国」をしている名古屋の誤りを最も表しているような気がします。
恋愛にいたるまでの「過程」が取っ払われてしまった
その地方の「文化」の度合いを見るのに、僕は「情報誌」を重要視します。それぞれの地域に、必ずその地方の情報誌が存在しています。ぴあの全盛期以降にどんどんできてきたものなのですが、不況の世の中、どこも大変苦しんでいるようです。
以前、キャラメルボックスが地方公演をガンガンやっていた頃、東京の人気劇団や
アーティストもどんどん地方公演をやっていました。なので、月に数本は必ず目玉と
なる公演があって、それらの情報が情報誌を彩っていました。
が、今回名古屋と札幌に行ってみて驚いたのが、けっこう有力な情報誌の後ろ半分が、女性用のエステと、「出会いのパーティー」の広告で埋まっていたのです。
実は、5年前に全国を宣伝などで回っていたときに、人口の少ない都市の情報誌ほどそういう広告が多い、ということには気付いていました。しかし、なんと名古屋でそんなことになってしまっていたのには、正直言って驚きました。
つまり、「恋愛」そのものに直接的な興味が行ってしまっている、ということ。
映画や演劇の情報を徹底的に調べて、デートに使って、同じ興味対象を持っている異性といろんなお話をしながら恋愛をしていく、という「過程」が取っ払われてしまっているわけです。
これは、とても恐ろしいことなんじゃないかと思います。
世の中の男の子たちが、女の子にモテるために、ギターを始める、映画を見まくる、という時代がありました。
それは、ある意味邪念だらけのきっかけではあったのでしょうけど、結局文化なんてそんなところから生まれてくるものでいいんじゃないかと思います。なんでギターを弾きたい、と思い立ってしまったのかというと、それだけギターを弾く人たちがカッコよかったから。
今はそれが、ダンスに変わってきているのかもしれません。
日が落ちた駅のコンコースとかで、鏡に向かって無心にダンスの練習をしている人たちをよく見かけます。彼らは、ここで練習をして、クラブや学校で友達に見せたりして遊んでいるのかもしれません。
が、「その先」が見えません。
コンドルズのようなチームがやっと出てきてはいますが、いまだ、ダンスチームはテレビの中の存在。
地方のホールをやっている皆さん、「地元優先」を唱えるならば、もっともっと最先端のものを大量に地元に持ってきて、若い人たちにナマで感じさせてあげる努力をしてください。そして、Jリーグのように日本中に人気劇団ができて、そいつらがみんな年に一度は東京に挑戦する、なんて時代になったら、僕はいくらでもお手伝いしますよーーっ!!
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