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第11回 誰もがやっていないことに挑戦するのが楽しい


ハーフタイムシアター。聞いたことがない言葉だと思います。

それはそうで、これは僕ら「演劇集団キャラメルボックス」が、10年以上前に考えた企画の名前だからです。

もともと、「劇場が1週間空いちゃったから使ってくれない?」と劇場から頼まれて、新人公演でもやろうかな、と押えておいた期間でなんとか本公演ができないか、という逆の発想から始まった企画です。

つまり、期間が短くてお客さんを収容しきれない分、普段なら1日に1ステージしかやらないところを2回やればいいんじゃない?ならば上演時間を半分にしちゃえばどうだ?という乱暴な思いつきだったわけです。

が、「上演時間半分」というアイディアが出たとたん、次々と企画は具体化していきました。「せっかく時間が半分なら、料金も半分にできないか?」「じゃあ、パンフレットのサイズも半分にしちゃおう」などなど、楽しい発想が次々と湧いてきて、しまいには「堅実」を絵に描いたようなウチの演出家・成井豊でさえ「小説に短編があるんだから演劇にあってもおかしくないじゃないか」と言いだし、演劇界初の短編演劇公演に向けて、僕らは走り出しました。

もっとも、成井は短編がやりたかった、というより、当時のキャラメルボックスは新作公演を立て続けにやっていたので「2時間ものを書くよりは楽だろう、ラッキー」と内心ホッとしていたのかもしれません。

しかし。

これが、僕らを大阪の巨大水族館「海遊館」のマグロの群のような決して止まることのできない観客動員増加スパイラルに引きずり込もうとは、当時は全く想像もしていなかったのです。


今まで演劇に興味がなかった人が続々と来場

そしてまた、演劇界の人たちからは「上演時間を区切ることに何の意味があるのか」「“企画”でキャクを呼ぼうとするなんて言語道断」、などなど、やっぱりけちょんけちょんに無視されました。

イラスト でも、僕らはへこたれたりしません。なぜなら、なんだかわかりませんが、誰もやっていないことに挑戦しようとしているということと、「45分」という時間が、たとえばサッカーのハーフタイム、たとえば高校の授業時間、たとえばテレビドラマのCMを抜いた時間、などなど、いろんなものと符合していくことがわかっていくにつれて、いまだ体験したことがない領域に足を踏み入れた興奮でいっぱいだったからなのかもしれません。

最初のハーフタイムシアターは、1989年2月、『銀河旋律』。公演期間は6日間で、平日2回(18:00/20:00)、土日は4回(13:00/15:00/18:00/20:00)、つまり6日で16ステージ。 そしてチケット代は1000円。

時間は短いけど、映画よりも安くて感動できるものを、と制作に取りかかりました。

そして、この公演は驚くべき結末を迎えます。

なにしろ、200人ぐらいしか入れない小劇場でしたので、普段の公演だと軽装の若い小劇場ファンが詰めかけてくる、って感じだったのですが、この公演ではなんとネクタイやスーツ姿の方々が当日券でいらっしゃってくださるようになったのです。

これもやってみてわかったことなのですけど、6時開演だと7時に終わって、それから食事に行ったりできます。8時開演でも9時終演ですから、まだ普通の舞台の終わる時間と一緒です。つまり、6時の回には今まで演劇に興味がなかった人たちが「45分なら、ためしに行ってやるか」と足を運んでくださり、なおかつ8時の回には今までのファンの方々がいらっしゃる、という「棲み分け」ができて、超満員というわけではありませんでしたが、こんな新企画にも関わらず当時としてはびっくりの2700人動員。かなりのお客様に喜んでいただくことができたのです。

で、これが、それ以降の公演を大変なことにしてしまったのです。

ハーフタイムシアターで初めてキャラメルボックスに足を運んでくださった方々が、続々と2時間の本公演の方にも来てくださるようになってしまったのです。それで、その年の夏からは、やってもやっても大入り満員。その年の冬の公演では普通の2時間もののお芝居だというのに平日1回・金曜と土曜が2回・そしてなんと日曜は13:00/16:00/19:30の3回公演、という「殺す気か?!」と役者に言われたスケジュールを組んで対応。その後も劇場を増やしたり拡げたり(←無茶言うな)、いろんなことをしながらあたふたしているうちに、翌年冬、一気に観客動員は3倍超の1万人を突破しました。

その後、動員が3万人を越えたのは1996年ですから、ハーフタイムシアターをやってからの1年半の成長のスピードがどんなに早かったか、というのがおわかりいただけると思います。


全国の高校生がキャラメルボックス作品を上演

そしてまた。このハーフタイムシアターという企画の予想外な展開がありました。

それは、高校演劇。

彼らが上演する作品は、60分まで、と決まっているのだそうです。でも、たいていの普通の戯曲は2時間以上を想定されて書かれていて、自分たちが上演するときには必ずカットしてからやっていたのだそうです。

しかし、そこにハーフタイムシアターの登場。

カットせずに上演できて、なおかつやっていて楽しいSFタイムトラベル作品。

なんと、この10数年間に、1000校近い学校で上演され続けてきたのです。

全国に「柿本光介」や「春山はるか」を演じた経験のある人たちが1000人近くもいらっしゃるわけで、そのうえにまた、それぞれの学校が上演したのを見た人たちの間にウワサが広がり、またまたいろんなところでいろんなキャラメルボックスの作品が上演されるようになっていき、現在でも年間に3〜500校でキャラメルボックス作品は上演されているのだそうです。

そういう、「自分で演じた組」の人たちが、大人になってまたまたキャラメルボックスに足を運んでくださるようになる、という連鎖が、これまたこの劇団を長く続けさせてくれてきた要因にもなっているのかもしれません。

そんな「ハーフタイムシアター」。しかも、『銀河旋律』。

これを、今年、こっそりと上演します。こっそり、とは言っても14000人規模なのですが、いかんせんこの17年間で「キャラメルボックス・サポーターズ・クラブ」のメンバーは19,521人(2002.5.8.現在)。このキャパシティでも足りないくらいだとは思ったのですが、「サポーターズ・クラブ結成10周年記念公演」として僕らが選んだのが、このハーフタイムシアター『銀河旋律』だったのです。

いつでも初心に還れるしなやかさをもって、僕らは「次」の領域に向かって走り続けていきます。

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