ロゼッタストーン コミュニケーションをテーマにした総合出版社 サイトマップ ロゼッタストーンとは
ロゼッタストーンWEB連載
出版物の案内
会社案内

第3回 アイデア次第で、不可能は可能になる!


前回は、中劇場に進出するのが決定したところまででした。

それまでやったことがある最大の劇場が300人キャパで、常打ちの劇場は180人キャパだったキャラメルボックスは、 1990年の12月、初めての関西公演が630人収容の神戸の商業演劇系中劇場、そして東京公演は700人のミュージカル系中劇場に初進出することになりました。

この時、僕らは初めての「買い取り公演」というものを経験しました。つまり、この関西初公演はその劇場のプロデューサーの方に 気に入っていただき、1ステージ100万円×3ステージで、劇場に買い取られたのです。当時の僕らのポリシーは「買い取り公演はしない」というものでした。

「買い取り公演」についてご説明しておきましょう。

今でも演劇界ではあたりまえに存在しているこのシステムは、舞台作品を劇場などがまるごと買い取り、劇団側は公演をやるだけでいい、 という願ったり叶ったりであるかのようなものです。

 が、僕は、どうも解せないんです。

そもそも、それまで誰の力も借りないで(と言ったら言い過ぎですが)、「観たい」とおっしゃってくださって一枚一枚のチケットを買ってくださるお客さんのため に、足を棒にしてがんばってきたわけです。で、そういう「一枚のチケットをわざわざ自分で買う(または売る)」というところから、 演劇っていうのは始まってると思 うんです。なので、もちろんリスクは承知で僕らは「買い取り公演」を拒んできていたのです。

が、この公演ではあえて了承しました。それは、そのプロデューサーの方が「初め ての関西公演でもし万が一にも失敗して欲しくない。いつも通りにやってもらっていいから、保険だと思って、受け取ってくれよ」とおっしゃってくださったのです。

そこで、僕らは今まで通りのやり方で初の関西公演に立ち向かうことになりまし た。


劇場の中で、味方はプロデューサーひとりだった

まず、東京のお客さんに「関西のお友達を紹介してください」というお手紙をお送りして、関西のまだ観ぬお客さんたちの名簿を作りました。 そして、一通一通の封筒に「○○さんからのご紹介でこのご案内をお送りさせていただきました」 と表書きして、劇団と関西公演のご案内を東京とは別に作ってお送りしました。

そこで、ここでまず一つ目の問題点が。

この劇場では、「チラシに劇場の統一イメージをつけるため、劇場名をチラシの表面の一番下のセンターにコレコレのサイズで載せる」という不文律があったのです。

ところが、僕たちの方には「劇団の統一イメージを守りたい」という思いがあり、チラシのデザインは全てデザイナーの方のイラストに合わせて作っていて、 劇場名はそんなに目立たないデザインになっていたのです。

劇場の宣伝担当の方は「これでは使えない」とおっしゃる。でも、僕らはこれでいきたい。が、なにしろ初めて関西でやる若手劇団ですから、 僕らの言う事なんてまるで聞いていただけないわけです。劇場の中で、味方はプロデューサーの方のみ。他の方々はみんな「若造のくせに」 という雰囲気がありありでした。そりゃそうなんですけどね。

が、決して譲らないのが僕の悪いところ。結局、関西用のチラシを別に作る、ということにしてしまいました。とんでもない出費です。 そのうえ、イラストレーターの方にはもう一枚イラストを描いていただくことになってしまったのです……。で、そのイラストレーターとは、 この連載のカットを描いてくださっている加藤タカさんだったのでしたっ!!

そして、宣伝に行く前にまず関西演劇界の状況を知るために大阪に行きました。そして、関西の劇団や劇場や情報誌の人たちにご挨拶をしにまわったのです。 すると、なんとっ!!話を総合すると「あの劇場で三回?1800キャパでしょ?むりむり。普通、東京の劇団が初めて関西で公演するときはがんばって800、 神戸だったら600かな」ということだったのです。 ……なんでぇぇぇぇぇっ?!


神戸ではポスター貼りは難しいと言われたけれど…

そこで、がっかり……するかと思うと逆なのが僕の悪いところ。

東京で今までやってきたように、関西の学生街をリストアップし、盛り場をリストアップし、「喫茶店まわり」をやることにしました。 神戸の劇場の人に聞くと、「神戸はあんまりポスターを貼ってくれる店はない」ということ。 でも、やるしかない、と、「ポスター貼りチーム」を、たしか十数人、神戸に送り込んだのです。

僕らの「喫茶店まわり」のやり方は、ポスターとチラシを持ってまわって、ポスターを貼ってくださったお店にはお礼に招待券を一枚置いてくる、という方法です。

今回は「買い取り公演」なので、神戸公演のチケットは全て劇場から劇団が買い取らなければいけませんので、招待券を一枚出すごとに僕らの負担になっていくのです。 が、やむをえません、これが僕らのやり方です。

そして、みんなが「喫茶店まわり」から帰ってくると、なんと数百枚あったポスターがなくなっていたのです。 つまり、それだけ貼ってくださるお店があった、ということ。……なぜ?!

ポスター貼りが終わって劇場に行って「数百枚貼れました」と報告すると、劇場の宣伝スタッフはびっくり。「どうやったの?」と聞かれたので、 これこれしかじか、と説明するとまたまたびっくり。劇場では、ポスターを貼ってもらうときに、「ポスターを貼ってください、チケットも買ってください」 という方法を採っていた、というのです。

……そりゃ無理でしょう……。

こうだと思いこんでいたことも、そのことをなぜやるのか、なんのためにやるのか、をもう一度考え直すと新しいアイディアが生まれてくるのですね。

この話は、もっともっと続きます。

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る▲
Copyright(c) ROSETTASTONE.All Rights Reserved.