WEB連載

出版物の案内

会社案内

第164回 明治神宮外苑再開発 東京都が認可

photo
東京都知事 小池百合子氏、プレスクラブ会長 ピーター・エルストロム氏(一番左は通訳)

日本外国特派員協会の記者会見は「相反する意見の交差点」と従来から言われているが、2月8日(水)の文化遺産の専門家らが作る日本イコモス委員会とその翌週2月13日(月)小池百合子東京都知事の二つの会見により、外国記者たちは神宮球場や秩父宮ラグビー場を建て替え、高層オフィスビルや商業・文化施設を作ることで賑わいを創出しようとする外苑再開発問題の核心に触れた。


神宮外苑

明治神宮外苑が出来たのは1926年。旧青山練兵場の後に森が作られ、渋沢栄一など民間の運動に全国から樹木や寄付が集められた。当時世界で巻き起こった国際的「都市美運動」の中で近代日本の文化的遺産となり、またスポーツの中心地となった。


制限緩和

その後、都の風致地区条例などで高さ15メートルを超える建築物を禁じてきたが、2013年東京五輪で国立競技場を建て替える時点で高さの制限を緩和、2022年に「高さ」と「用途」の制限を緩和したことから再開発事業が進んできた。


日本イコモス委員会会見(2月8日)

三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠の民間4社が進める再開発は、神宮球場、秩父宮ラグビー場を解体し、場所を入れ替え商業ビル、ホテル、スポーツ関連施設を作り、樹木の伐採と植林で新たな風致地区を創出する計画だ。

周辺の敷地から未使用の容積を描き集めて高層化する「容積移転」という方法を用いると三井不動産ビルは185メートル、伊藤忠ビルは190メートルの巨大建物となる。また、最大の地権者の明治神宮は老朽した神宮球場やラグビー場の新設費を手当てできる。

事業者側が提出した再開発の環境影響評価書(アセスメント)によると、今年は2球場と事務棟の解体が始まり、文化交流施設を備える新インドア・ラグビー場は2028年に、ホテルを併設する新野球場は2032年に完成予定で、2035年に総事業完了を目指している。

photo
阿部知子氏、大方潤一郎氏、石川幹子氏、司会・神保氏(左より)

東京大学名誉教授、日本イコモス国内委員会理事、石川幹子氏は「銀杏並木が存亡の危機に直面している。『憩いと安らぎの庭園』として国民の浄財で作り出された文化的資産が、都民のための公園を整備するとの大義名分で都心に残る最後のオープン・スペースに超高層ビルを建設して利益を上げるという巧妙な制度となっている。また都庁で何度も記者会見しているが、取り上げてくれたのは一紙だけ(注:東京新聞2月7日付)」と、日本のメディアをも厳しく非難した。

東京大学名誉教授、明治大学特任教授、大方潤一郎氏は、都市計画制度の乱用と指摘し、「公園まちづくり制度」本来の趣旨を逸脱した不適切な運用であり、再開発計画の審査がもっぱら非公開の行政内部の密室で行われ、公聴会など市民参加の機会が全くなかったのは不当と述べた。更に明治神宮が最大の地権者となっているが、元々国民の土地で私有するのはおかしいと明言した。

阿部知子衆議院議員(立憲民主党・神奈川12区・当選8回)は、昨年11月に超党派の「神宮外苑の自然と歴史・文化を守る国会議員連盟」に参加して活動していることを報告し「次週に“The Challenges Facing Tokyo in 2023: Achieving a Sustainable City”というテーマで会見する都知事に問うていただきたい」と結んだ。

「ニューヨークのセントラル・パークの真ん中にエンパイア・ステート・ビルを建てるような愚かな計画。誰がストップをかけられるのか? 反対運動の作戦は?」
ほとんど初めてこの開発計画を知った筆者の質問に、阿部氏らは小池知事の決断への期待を述べ、ラグビー協会や環境団体の署名活動を紹介した。

英国タイムズ紙から「明治神宮自身がストップをかけられないのか? 開発で利益を生むのか?」との鋭い質問があり、フランス通信社からは「工事が始まっているのに反対運動者が身体を立木に縛り付けたり、ブルドーザーの前に座り込みをしないのか」と反対運動を教唆するような質問があった。


小池百合子東京都知事会見(2月13日)

翌週、改めて小池知事に質問した。

「東京都の環境影響評価条例91条『事業者が虚偽の報告もしくは資料の提出をした場合、知事は事業者に対し、必要な措置を講ずるよう勧告することができる』とあるが、知事は事業者にアドヴァイスするのか?」

この問題に対する回答は明確であった。

「この件に限らず、アセス問題は個別に検討している。反対派は活発に活動しているが、この事業は東京都でなく4社で、中でも主な事業者は明治神宮。明治神宮が保有している施設のどれを残し、どれを変えてゆくのか」

「有名な絵画館の前の銀杏並木が伐採されるとよく間違って質問されるが、4列の銀杏並木の保全には万全を期す。公園の樹木も1904本から1998本に増え、緑地の割合も25%から30%に増える。改めて全国から献上される樹木やプロジェクション・マッピングなどが加わり、都民に愛される新しい100年に向かう」と講演を結んだ。

神宮外苑再開発総事業の完成予定まで12年。今ある諸問題だけでなく新たな課題が生じるのは必然だ。東京都のタイムリーな情報公開が強く望まれる。


2023.2.26 掲載


著者プロフィールバックナンバー
上に戻る