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第162回 エリザベス二世女王とウェールズ

日本のサッカー・ファンを興奮に巻き込んだFIFAワールド・カップでイングランドとウェールズの対戦を見て、「同じ国なのにどうして?」と疑問に感じた日本人は少なくない。

多くの日本人は「英国」(イギリス)と「イングランド」を同一視しているが、「英国」は「イングランド」、「スコットランド」、「北アイルランド」、「ウェールズ」四か国の連合王国である。エリザべス二世女王はその連合の長であり、君主として「英国」(イギリス)の融合を象徴している。

エリザべス二世女王の国葬を機に、プレスクラブでは「英国」と「ウェールズ」の関係について日本・ウェールズ協会会長、ウルスラ・バートレット・イマデガワさんを招いて11月10日晩餐講演会を行った。

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渡辺晴子(司会)、ウルスラ・バートレット・イマデガワ氏(講演者)、崎山留未栄氏(通訳)(右より)

ウルスラ・バートレット・イマデガワさん(以後ウルスラさん)はビデオでまずエリザベス女王の棺を示し説明を始めた。棺は王権を象徴するロイヤルスタンダード旗で覆われ、上に載っているのは、王冠、キリスト教世界と英国国教会の長である君主の権威の象徴である球体のオーブ、政治的権力を示す92cmの王笏。添えられた花輪は女王にとって思い出深いスイートピー、ローズマリーなどで「持続可能な」王家の庭から選んで作られた。これには、持続可能な発展と国連気候変動枠組条約第27回締約国会議COP27に関心の深いウェールズ大公の想いが込められている。花輪には、ウェールズ大公(プリンス・オブ・ウェールズ)からチャールズ三世となった国王の手書きのカード「愛と献身的な記憶の中で、チャールズR」(Rはラテン語でRex/王を意味する)が添えられていた。


225kgの棺を運ぶ擲弾兵はイギリス連合王国の四か国から選ばれ、全員身長約180cm、大理石の上を歩くので滑らずまた靴音を立てないようにこの葬儀のためにだけ作られたブーツを履いた。生死を問わず、君主を守るのが擲弾兵の役割であるため、これらの兵士たちは現役から呼び戻されたのであった。

「英国」の歴史を遡ると、プリンス・オブ・ウェールズ(ウェールズ大公)という称号がイギリスの将来の君主に与えられるようになったのは、1282年のウェールズ人による最後の大公の逝去後にエドワード一世国王が「英語もウェールズ語も話せない私の赤子を差しあげます」とウェールズの領主へ告げたことに始まるという。

王位の継承はプリンス・オブ・ウェールズ(チャールズ)がエリザべス女王崩御後国王となったため、彼の長男ウイリアムがプリンス・オブ・ウェールズ、即ち次の王位承継者となり、次の次はウイリアムの長男ジョージの順位となる。エリザベス二世女王の手で男性が王位継承者として優位になることを変更した為、その次の代として年長のシャーロット王女が弟のルイより先に王位継承の順位を持つようになった。

エリザベス二世女王の葬儀は女王ご自身も含めて長年にわたり検討されてきたもので、荘厳、華麗のなかに女王の愛犬、愛馬の見送りもある慈愛と親しみにも満ちた「流石は大英帝国!」と感嘆させるものであった。

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渡辺、バートレット・イマデガワ氏、崎山氏

ウルスラさんはエリザベス二世女王の9回にわたる訪問をビデオで紹介し、英国の政治問題を説明すると同時に、情熱を込めてウェールズの産業、観光、芸術、食文化を紹介した。小国のウェールズは人口約300万人、羊は人口の6倍の1800万頭。公用語は英語とウェールズ語ですべての道路標識は英語とウェールズ語で表記するなど独自の文化を誇っている。参加者たちはウェールズ名物のミント・ソースをつけたラム・チョップ料理、スノードン・プディングなどを堪能し、ウェールズの国歌に見送られて会場をあとにしたのであった。

2022.12.24 掲載


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