第142回 マハティール マレーシア首相記者会見
アジアの未来について討議する第25回国際交流会議(日本経済新聞社主催)は、マハティール首相(マレーシア)、フン・セン首相(カンボジア)、ハシナ首相(バングラデシュ)、ヘン・スイキャット副首相(シンガポール)、ファム・ビン・ミン副首相(ベトナム)などを招き5月30日~31日都内で開催したが、プレスクラブ・クラブでは30日午後、基調講演者のマハティール首相を招き記者会見を行った。
マハティール首相(撮影:A.シーゲル) |
マハティール・ビン・モハマド マレーシア首相は1981年から2003年まで約22年間首相を務め、戦後急速に経済的発展を遂げた日本をモデルとする経済政策「ルック・イースト(東方政策)」を提唱し、自国の産業の近代化を進めた。2016年汚職疑惑がおこったナジブ前首相を非難し当時与党だった統一マレー国民組織(UMNO)を離党してマレーシア統一プリブミ党(PPBM)を結成し、2018年5月総選挙では新たに統合した野党4連合のリーダーとなり、1957年のマレーシアの英国からの独立以来初めての政権交代を成し遂げ、92歳で首相に返り咲いた。現在93歳。
プレスクラブ会長ピーター・ランガンは「昔の60(歳)は今の40、昔の90は今の70。政治家として働き盛り」とマハティール首相を紹介。「ドクター・マハティール(Dr.M)」の理系医師出身らしい国際社会の常識を超えた有言実行の性格と業績には評価する記者が多く、会見は穏やかな対話の中で行われた。
マハティール首相はまず新興国では暴力なしでの政権交代は少ないがマレーシアでは成功、経済面では前ナジブ政権の債務をあと3年でGDPの8割から54%まで減らし、当時、契約金が高すぎて汚職が広がり一時中断していた前政権の中国主導のマレーシア東海岸鉄道への事業費も600億から300億まで減額させて再開したと財政面での貢献を強調。
米中貿易戦争についてはアジア諸国を代表しての懸念を表明した。「中国は貧しくて怖い、豊かになっても怖いとみられているが、ポルトガルはマレーシアをかつて征服したが中国は征服していない。また、中国は北米より大きく国内取引だけでも成立する。米国は航空機、エンジンなど革新的な製品を作ることにたけているが、台所用品など消費者用品はアジアの企業が得意。米中二頭の巨象が戦えば踏みつけられるのは足下の草だ」
マレーシア航空機のミサイル撃破事件には慎重に言葉を選んだ。「発見したのはマレーシアだが、機体はオランダに運ばれロシア型のミサイルであることは分かったが、発射したのは誰か? ウクライナか? ウクライナの反体制派か? マレーシアはなぜ排除されてBlack Boxの中身をチェックできなかったのかわからない」国際航空業界の政治的判断に淡々とコメントした。
「地域紛争は国際司法裁判所などで合法的に解決すべきだ。東南アジアでマレーシアはシンガポール、フィリピン、インドネシアなどと対立がある。海の一部をタイと争ったが、海産物を二分することで解決した。中東を見ると殺戮行為がある。民度の進んだ国として中立的な第三者などに介入してもらい、ご近所さんとの問題は話し合いで解決すべきだ」
Look Eastで賞賛された日本が高齢社会となり現状に満足している今日の状況には「62年か61年に来日した時に見聞した日本人の勤勉で国の再建に意欲的に一生懸命なのに感銘した。今も恥の倫理観を持って最高品質を作り出している」。
米国のイスラエル贔屓でイランに対する敵愾心には「イスラエルも核保有国。イランは戦争を望んではいない。気に入らなければ殴る、戦艦を送りこむという幼稚な態度でなく成熟した大人としてキチンと言葉で交渉する。国連はそのために設立されたが、今や国連を無視しているのは作った国だ。スンニ派シーア派の違いはあっても、マレーシアには7万人のイラン人が来ていてお互いに理解しあっている」。
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時間となり司会のピーター・ランガンが終了しようとした時、マハティール首相は筆者を指さして「あの女性はずっと挙手している」と彼に忠告。お蔭で筆者は準備していた3番目の質問をすることが出来た。
「ドクター・マハティール。私は30年以上Dr. M.ウォッチャーとして個人的にプレスとしても個人的にも観察しています。質問を3個用意していましたが2個は既にほかの記者に質問されたので3番目を質問します。日本は北朝鮮、韓国との関係が難しいですが、仲介役をされるお気持ちは?」
「この件では日本にLook Westと答えます。欧米の二大国フランスとドイツは南オルレアン、アルザス、ローザンヌを挟んで対立し、友好的であったためしがなかった。70年以上前の過去については、謝罪は繰り返されたと思う。英国の歴史を見てもよい。明日に目を向け日中韓はよい関係を作り、東アジアの繁栄から世界に向けての影響力を行使すればよい」。
質問する筆者(撮影:A.シーゲル) |
今回の取材はテレビ16台、スティルカメラ6台。プレスクラブ正会員、準会員、大使館職員合計120人であった。
2019.6.18 掲載
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