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第137回 ハーグ条約
子どもの利益が最重要 国内法の整備が必要

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ハーグ条約(国際的な子の奪取問題)と日本での現状についての記者会見

12月20日「子どもを拉致された。日本ではハーグ条約を発効していながら実施がなされていない」と訴えるイタリア人とフランスの父親が、日本人の弁護士と臨床心理学者と共に記者会見を開いた。

ハーグ条約とは「国境を越えて不法に連れ去られ、または留置された子の返還」と「国境を越えた親子の面会と交流の権利」を確保するもので、不法に連れ去り留置された子は原則として元の居住国へ返還する。子が心身に害悪を受ける重大な危険がある場合は例外とする。日本では2014年に発効して18年2月までに23件の返還命令を出している。しかし、日本では返還命令を出したのに親の妨害なので強制執行は失敗している。

トマソ・ペリーナ氏(ヴェロナ出身40歳)は5歳の息子と3歳の娘にこの2年間で面会したのは6時間以下、フランス人のヴァンサン・フィショ氏(プライバシー保護のため詳細を明らかにせず)の事例は、在日フランス大使館が処理しているという。ペリーナ氏が映写した動画は寒々とした事務所風の空間での親子の面談で、子どもが父親の愛情を確認できる場でないことを取材記者たちに印象づけた。

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トマソ・ペリナ氏(イタリア人/左)、ヴィンセント・フィショ氏(フランス人/右)

ピオ・デミリオ氏(イタリア人記者)は日本ではどうして共同親権にできないのかと尋ねたが、同席した上野晃氏(弁護士)は法的でなく文化的に日本では子どもは「家の所有物」と考えられている。離婚で部外者となればお母さんの家の所有物に、お父さんは「施し」として月に1回程度会ってもよい、この感覚は日本人に無意識レヴェルで浸み込んでいると説明した。

小田切紀子氏(臨床心理学者)は、子どもの両親へのアクセス権の尊重と海外で家庭内暴力を受けて日本に帰ってくる母親と子供の心理状態へのケアを力説した。筆者はプレスクラブで記者会見をする外国人はほとんど父親で、母親の視点がないことを指摘した。

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上野晃氏(日本橋さくら法律事務所代表弁護士/左)
小田切紀子氏(東京国際大学教授 臨床心理学者/右)

米国国務省は5月「国際的な子どもの拉致」年次報告書で日本、中国、インド、ブラジル、アルゼンチン、バハマ、ドミニカ、エクアドル、ぺルー、ヨルダン、モロッコ、アラブ首長国の12か国を「ハーグ条約違反の常習国」と認定している。

国際結婚が増えるにつれて離婚などによる母親による子どもの海外からの連れ去りが増加している(日本では両親による連れ去りを北朝鮮の場合と同じ「拉致」という言葉は使っていない)。国際的非難を受けて主管庁である外務省も前向きに動き出している。

2018年12月1日付外務省領事局ハーグ条約室の報告によれば、日本に所在する子に関する27か国からの返還援助申請99件の内、86件に援助決定(却下等13件)。13か国からの面会交流援助申請101件の内、83件に援助決定(審査中2, 却下等16)となっている。しかし「共同親権」の理念が一般社会に浸透するには、離婚時の子どもに関する民法766条の更なる改正が必要であろう。

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2018.12.25 掲載


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