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第121回 Lear on the Shore
「海辺のリア」仲代達矢、小林政広監督記者会見

特派員協会では硬派ニュースばかりではなく、文化面でも日本メディアに先駆けてトップ・ニュースを内外に発信するのを目標としている。

6月3日の日本での初公開と記者会見の3日前の5月31日、プレスクラブのフィルム委員会では主演の仲代達矢氏と小林政広監督を迎えて試写会と記者会見を行った。(映画の言語は日本語で英語の字幕付)

[記者会見の様子]

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「春との旅」(2010)、「日本の悲劇」(2012)で仲代達矢氏とチームを組んだ小林監督は「(シェークスピアのように)自分は座付作家で役者に当てて脚本を描いている」と語ったが、84歳の現役俳優で65年間の芸歴を誇る仲代達矢氏の姿は「海辺のリア」の主役、桑畑兆吉の人生と重なる。


ストーリー

桑畑兆吉は半世紀以上も大スターとして舞台、映画で活躍し、俳優養成所も主宰し若手を育てたが、今や認知症の疑いがある。遺言を書かせた長女(原田三枝子)は兆吉を自宅から追放して、デラックス老人ホームに追いやってしまう。

映画冒頭に現れた兆吉はパジャマにコートを羽織り、スーツケースを引きずって海辺を異常に真剣な面持ちで歩いている。偶然出会った女性に「どちら様ですか?」と尋ねるほど認知症が進んでいるが、彼女は実は彼が追放した次女(黒木華)だった。

長女とかつて自分の弟子であったその夫(阿部寛)は兆吉をホームに戻すが、彼は再び海辺へ。海辺の大舞台でシェークスピアの「リア王」の台詞を朗々とうたい上げる狂った兆吉の演技には鬼気迫るものがある。海に浮かぶ兆吉を拾い上げたコーデリアは次女だった。


温泉でのリハーサルで

仲代氏は泳げないのだ。撮影前に監督は温泉で10秒間うつ伏せで浮いたままでいるリハーサルをさせたという。「撮影では早めに引き上げてもらえたのではないか」と感想を漏らす仲代氏に「10秒より前にカメラのフレームに入らないよう黒木さんの手をしっかり握っていた、と平然と話す監督。

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このスーツケースを引きずって海辺を彷徨ったの?

プレスクラブでは特別企画委員会が定例の「沙翁土曜午餐会」でBBC制作のビデオの上映を行っている。これは場面に合わせてロング・ショット、ミディアム・ショット、クローズ・アップとカット割りがスムーズに流れている。ところが小林監督の「海辺のリア」は超ロング・ショットで人物は点景のように扱われている場面が多く、クローズ・アップは狂った兆吉の「リア王」の場面のみ。

「人間は自然の一部だという表現か?」と、その理由を尋ねる筆者に「このカット割りの方が仲代さんの人間に迫れるから」小林監督は穏やかに応えた。

映写後バーのジャーナリストたちの会話では、製作側の企画力を評価する声が多かった。「一にシェークスピアは全世界に普遍的価値があり、二に老人問題は先進国共通の社会的関心事、三には日本演劇界のレジェンド仲代達矢が主演となれば世界の映画祭で賞を総なめするのではないか?」

超タイト・スケジュールの中でプレスクラブの記者会見を優先した値打ちはあったようだ。(終わり)

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会見後にバーに現れた小林監督と筆者(撮影:森晃一)

2017.6.11 掲載


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