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第110回 在日コリアン若者の教育問題

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【東京朝鮮学校記者会見】
5人の朝鮮学校関係者らが、朝鮮学校に関わる補助金交付に対しての
通知撤回を求める記者会見を開いた。(右端は司会のフー・チュウウェイ)

文部科学省通知

本年3月29日、馳浩文部科学大臣は記者会見で、朝鮮学校に関わる補助金交付に対して以下のような報告をした。

「本日、29日付で配布していますとおり、朝鮮学校を認可している都道府県の知事宛に、文部科学大臣名で、朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点についての通知を発出いたします。

朝鮮学校に係る補助金交付については、各地方公共団体の判断と責任において実施されているところであります。

一方、これまでも国会等で答弁されているとおり、朝鮮学校は北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総連がその教育を重要視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしているものであり、朝鮮学校への地方公共団体からの補助金の実施については、様々な議論が国でも地方でもなされてきたところです。

このため、今回の通知において、こうした朝鮮学校の持つ特性も考慮の上、朝鮮学校への補助金については、朝鮮学校に通う子供に与える影響にも十分配慮しつつ、1、補助金等の公益性、教育振興上の効果等に関する十分な御検討、2、補助金等の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保、3、補助金等の趣旨、目的に関する住民への情報提供の適切な実施について御留意いただきたい旨、通知を行うものであります」

    ■文部科学省
    朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)

    http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1369252.htm


    ■文部科学省
    馳浩文部科学大臣記者会見録(平成28年3月29日)

    http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1369062.htm

学校教育法1条校と各種学校

東京韓国学校など外国人学校計31校は「学校教育法1条」による正規の学校として認定された日本の高校と同レベルの教育内容と確認されたため、高校無償化制度の対象となり、就学支援金が交付され大学受験資格の問題はない。

一方、北朝鮮系の朝鮮学校は文科省検定教科書を使う必要のない「各種学校」であり、朝鮮大学校が作成し北朝鮮統一戦線部の専門官が修正した上で金正日総書記が直接決済を下したものを教科書として使用し、朝鮮語で金日成、金正日父子への忠誠をテーマとした「主体教育思想」に基づいた授業を行っている。
  北朝鮮は1950年から2010年2月現在迄、朝鮮学校に対して総額約460億円の資金提供を行い、2009年にも約2億円の教育援助金を送金している。


朝鮮学校記者会見

4月11日、プレスクラブで東京朝鮮中高級学校の校長、父母会代表、高校生と在日本朝鮮人人権協会の事務局員が北朝鮮の核実験、ミサイル発射、拉致問題を理由に地方自治体が補助金停止しているのは教育の機会均等を否定する政治的差別だと訴えた。

朝鮮学校教師歴45年、東京朝鮮中高級学校校長歴10年のシン・ギルンさんは、「朝鮮学校の生徒たちは過去の日本の朝鮮(半島)占領による朝鮮民族の子孫で、今後とも日朝の懸け橋となる人材であり、その両親たちは日本の納税者である。国連もこれを差別と考えている。安倍政権と文科省が差別的高校補助金廃止をやめることを望む」と述べた。

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シン・ギルン 東京朝鮮中高級学校校長

朝鮮人権協会事務局員のキム・ウギさんは、地方自治体の朝鮮学校に対する7年間の補助金リストを示した。
  「2009年には東京、埼玉、大阪、宮城、千葉、広島、新潟、山口、神奈川の9自治体が拠出した補助金は段階的に廃止となり、2012年には山口と神奈川のみ。2013年には全9自治体が補助金を廃止したが、2014年と2015年には神奈川県のみが復活させている。
  第二次世界大戦の前にカナダ、米国で日本人学校が閉鎖されたことを思い出して、日本政府は朝鮮学校への差別をなくし、各自治体に補助金再開を勧告すべき」と主張した。

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キム・ウギ 在日本朝鮮人人権協会事務局員

初等部に子どもを通わせている父母会代表のハン・ヨンスクさんは「ヘイト・スピーチの中でも子どもたちが言葉と歴史に誇りをもって生きるよう、敢えて朝鮮学校に入れた」と述べた。

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ハン・ヨンスク 父母会代表

高校生のリ・ヨンギさんは「生まれ育った日本で差別を受けている。日本社会の中でコリアンであることが悪いのかとも考えたが、後に続く者たちのために大人と共に戦う」と言い切った。

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リ・ヨンギ 東京朝鮮高校生

在日4世のヒョン・スヒヤンさんは「朝鮮学校は自分たちのアイデンティティーを確立するために大切。高校無償化制度が進んでいるのに朝鮮学校のみ除外され、日本政府が自治体の補助金にまで介入してきたのは残念」と話した。

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ヒョン・スヒヤン 東京朝鮮高校生

在日コリアン今後のために

在日コリアンの教育事情としては、2010年末566,000人の在日コリアン人口の内、約10%と言われる小・中学生徒が民族学校に通っている。
  2015年5月現在、在日本朝鮮総連合会(総連)系の朝鮮学校は68校、生徒数6,420人。補助金のデータなし。在日本大韓民国国民団(民団)系韓国学校は1校、生徒数1,289人。補助金3億7,194万円。

コリアン学校以外に、大阪では2010年、府内の約180校で民族学級、民族クラブが設置され、市立小・中学校150校で韓国籍、朝鮮籍および朝鮮半島にルーツを持つ児童2,100人が学んでいる。

民族学級では、民族教育として韓国語のカリキュラムはあるが、日本の大学進学に有利で生活上の言語である日本語で学んでいる。

朝鮮学校に学ぶ生徒たちや父母は歓迎されるか否かを問わず、朝鮮民主主義人民共和国(北鮮)に帰国したいのか、それともコリアンのアイデンティティーを持った日本最大のエスニック・グループとして生きていきたいのか?

演壇で毅然と姿勢を正す二人のコリアンの若者が取材に集まった約40人の記者に与えた印象は清々しい。

戦後70年、朝鮮学校に学ぶ生徒たちの学習権は、ヘイト・スピーチや従来の「主体教育思想主義」とのせめぎあいから国際社会に羽ばたく若者の将来問題として毎度のことながら国内外で真剣に検討されるべきであろう。



2016.5.1 掲載


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