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第105回 「放送法」は権力側の「放送取締法」なのか?

安倍政権のテレビ・メディアに対する圧力が目に余るとして、フリー・ジャーナリストとメディア学者ら3人が12月15日、プレスクラブ(日本外国特派員協会)で記者会見を開いた。

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神保哲生、坂本衛、砂川浩慶、綿井健陽、高松通訳(右より敬称略)

冒頭、日本大学放送学科講師でジャーナリストの坂本衛氏は「放送法の誤った解釈を正し、言論、表現の自由を守る」ことを呼びかけるアピールを発表し、約40名の賛同者リストを公表した。

アピールで自民党筆頭副幹事長らによる在京テレビ報道局長への「公平中立」の要請(2014年11月)、総務大臣によるNHK「クローズアップ現代」への厳重注意、自民党情報通信戦略調査会によるNHK経営幹部の事情聴取(2015年4月)、政治家の「マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけを」など一連の発言は、テレビ報道を委縮させ政治報道と日本の言論、報道の自由を著しく損なっていると主張。

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ジャーナリスト、日本大学講師 坂本衛氏

メディア総合研究所所長であり立教大学社会学部准教授である砂川浩慶氏は「一年前の総選挙では選挙前にNHKと民放5社を呼びつけ『公平、公正報道』を求めたが、先進国で与党が個々の番組の放送者を呼びつけることはない。そのせいかどうか選挙報道は少なくなった」と発言。

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立教大学メディア社会学科准教授 砂川浩慶氏

テレビ局にイラクや中東地域の危険地域から映像を提供するなどフリーランスで活躍する映画製作者の綿井健陽氏は「放送法は放送の自由を守るためのもの、与党は放送を監督するものとしている」。政治家が「放送法を守れ」というのに対しては「お前こそ憲法を守れ」と言いたい、と主張。

そして問題点として、昔はテレビ・メディア側に付いていた市民が今や権力側に付いていることだという。したがってテレビでは政治問題を避ける風潮ができ、また、一つの番組に政府側の意見を入れておくなど権力側の意向を忖度して自主規制している。「政治に対して果敢に戦う制作者もいるが、どれだけ続けられるのか。放送法つぶしの動きが政党側に出来ているのではないか。自分たちより大手メディアのジャーナリストがここで話すべきではないのか」と続けた。

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フリーランス映像制作者 綿井健陽氏

「言論と報道の自由」問題は常にプレスクラブの優先議題であり、今回の記者会見にも熱心なジャーナリストたちが出席した。欧米記者の疑問はメディアにたいする日本の人々の支持が少ないことであり、またメディア内で大手メディアとフリーランス・ジャーナリスト間の報道の自由に対する温度差があることであった。

「戦える人はいるが決定できる地位にいない。社内での足の引っ張り合い。政治問題ではなく、(テレビ局内の)政治部が問題」「日本のメディア(パーソン)はジャーナリストではなく会社員だ」という正直な(?)発言にはいささか戸惑ったようだった。

筆者は日本国内メディアの問題ならどうして日本記者クラブで記者会見を行わなかったのか、提案が却下されたのでプレスクラブに持ち込んできたのかと質問した。

坂本氏は国会議員会館で田原総一朗氏、TBSキャスター、岸井成格氏も出席した会合を開いたが田原氏は今回テレビ朝日の番組がつぶされるかもしれないので、とアピールの発起人になるのを断ってきた。プレスクラブに今回来たのは初めてで、逃げ込んだというわけではない、と弁明した。

綿井氏は「もっと局内で労組や記者、ディレクターなどとの話し合いが必要だった。外部で発言すると集中攻撃されるという弱さが日本メディア(パーソン)の特徴」と嘆いた。

プレスクラブにはNHKなどで契約社員として働く会員もいて多国籍記者やフリーランサーの雇用問題に対しては感度が鋭い。しかしながら日本の議会制民主主義がグローバル社会の関心事という大風呂敷を広げるのでなければ、放送法問題はいわゆる「ジュン・ドメ」(純粋に国内問題)であり日本記者クラブに持ち込むか、放送者同士が自主独立の立場から議論した方が効率的だろう。

ただ、渋谷区の「同性婚条例成立」など日本記者クラブでは取り上げない問題も「自由、人権問題」ならプレスクラブが記者会見の舞台を提供するという創立70年来の伝統は守りたいものだ。


2015.12.23 掲載


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