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第103回 山口組分裂と暴力団の行方

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海外主要メディアが集まった記者会見

10月20日、プレスクラブでは、企業の倒産や債務問題でヤクザがらみの案件を扱ってきた弁護士の久保利英明氏と、ノンフィクション・ライターとして暴力団問題を長年取材してきた溝口敦氏を招いて記者会見を行った。

「フォーチュン」誌の推計によれば、日本の暴力団の非合法ビジネスによる収入は世界犯罪組織の中で最大で、2014年約9兆4000億円。 これは2位のロシア・マフィアの10倍、イタリア・マフィアの最大組織の20倍。タイの国家予算にも匹敵するもので、海外メディアから強い関心が寄せられていた。

山口組分裂問題とは、日本の指定暴力団構成員の約43%を占める山口組が9月に分裂し、六代目山口組組長・司忍(本名:篠田建市)から若頭補佐四代目である山健組・井上邦雄が神戸山口組として独立し、両者の武力抗争にそなえて神戸県警は厳重警戒態勢に入っていたのである。

久保利氏は「日本経済の発展によって急成長した企業が株主総会を荒らさないため暴力団を総会屋として使ったが、1982年商法が改正され銀行や大企業の総会屋への支払いが違法となり、また1992年の暴力団対策法により暴力団は地下に潜るようになった。更に、2009年には地方自治体も条例で暴力団に対応した。45年間弁護士として暴力団を見てきたが、日本の経済は暴力団を使う必要がなくなった」と明言。

溝口敦氏は、分裂の原因は人事と経済問題と説明。直系暴力団120組中、59団体約7000人で六代目山口組は形成されているが、六代目組長は引退にさいしては自分の出身団体である弘道会から選んだ若頭(組長に次ぐNo.2)を次期組長に選ぼうとした。数代にわたって弘道会が権力を握ることに反発した山健組組長は、13団体約3000人で神戸山口組を結成したという。

【記者会見/演者の写真】



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経済面では山口組では直系傘下の組長は会費115万円と積立金10万円を会長司忍に支払い、その他に飲料水など50万円近くを本部から購入。更に中元として5000万円、お歳暮として1億円、会長の誕生日には誕生祝として1億円を献上する。これらは任意団体の会費として、今まで司組長や山口組は課税されていない。

一方、新しく創立された神戸山口組の会費は直系組長30万円、中堅組長20万円、平組長20万円と負担が十分の一となる。いずれも任意団体の会費として今まで課税されていない。この分裂を神戸山口組は「百姓一揆」と呼んでいるという。

今までの暴力団の抗争は組織を出た方が負けているが、今回は神戸山口組が勝つと予想する。日本の暴力団グループはどちらに行こうかと迷っているが、「どちらにせよこの分裂が暴力団としての勢いを弱め、これが山口組の最後になるのではないか」と溝口氏は述べた。


質疑応答から

ロンドン・タイムズ:数週間前に山口組が分裂した時、これはギャング戦争になると言われたが、これは過大評価か?
溝口:抗争すると上層部が刑法と暴対法で刑事責任を問われるのでやりたがらない。暴力団の抗争は経済的に利益を得るもの。米国でアル・カポネが脱税法で逮捕されたが、世界中で組織暴力団を押さえるのに税法が適用されていた。
久保利:福岡市は暴対条例を作った。これは暴力団を押さえるのに役立つ。

フランス・テレビ:企業の社長や政治家でヤクザと関係している人間は?
久保利:上場企業ではない。政治家は公共事業において関係するかもしれないが証明されていない。
溝口:土地が動き、地上げが横行していた時代と異なっている。

AP通信:神戸山口組に移った幹部から(脱税の)決定的証拠となるものはないか?
溝口:司会長のもとに帳簿がなくても、何時、何時、だれにいくらカネを渡したということが解れば警察、国税局、検察がメモを調べ、脱税の証拠となる。

テレビ朝日:六代目司組長はアメリカ。中国など海外のヤクザと関係があるのか?
溝口:組長の在米資産が押さえられただけだろう。司は米国に入ったこともないし(入りたくても)入国は出来ないだろう。暴力団は「言葉の商売」。言葉がわからなければ恐喝もできない。(会場笑い)香港マフィアも自動車泥棒、カードのスキミングなど言葉のいらないシノギのみ。中国、韓国は分からない。

司会を担当した記者、ナタリー京子スタッキーも日本のヤクザは衰退の道をたどると予想。しかしその前に日本の雑誌社の依頼で山口組組長たちをインタビューすることになったと筆者に嬉しそうに話した。

楚々としたスイス系フリーランスの美形の女性記者と、イタリア・ファッションに身を固めた六代目組長・司忍やユニクロ・スタイルの神戸山口組・井上邦夫組長ら強面との対決が日本のメディアで如何に報道されるのか、プレスクラブのバーで話題となっている。


2015.11.15 掲載


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