第89回 鳥取プレス・ツアー
端正な知事公舎の応接室に入ってプレス一同ビックリ、「おー」と歎声をあげた。
なんと「食のみやこ鳥取県」と大書した大幟が大相撲の巡業場所よろしくずらりと勢ぞろい。鳥取県知事平井伸治氏のトップ・セールスの気迫は半端じゃない!
4月22日から1泊2日の旅程でアメリカ、アラブ、スイスなど6カ国から9人の特派員たちが鳥取県を駆け抜けたが、日本で「2番目に小さい県」の知事の食と観光にかける情熱とそれを裏づける職員のフォローの綿密さには「強将の下、弱卒なし」との古き良き時代の標語を思い出した。
20世紀からShinkansen(新甘泉)、Natsuhime(なつひめ)へ
鳥取県は日本最大の「20世紀梨」の生産地で、2010年の統計によれば全農家31,953戸のうち3,608戸は果物農家であり、果物を中国、台湾、香港を中心に輸出し、多国籍アグリ・ビジネス会社ドールを経由してシンガポール、マレーシアにも輸出攻勢をかけている。
鳥取県園芸試験所の果実研究室で「20世紀梨」に代わる新品種としてここ20年かけて生みだした「Shinkansen(新甘泉)」と「Natsuhime(なつひめ)」がアジアの富裕層に好評だという。
平井知事によれば鳥取和牛の輸出はマカオのみ。アジアでも中華系に輸出しているためか現在ではイスラム系の「ハラル」やユダヤ系「コーショー」の食材認定は受けていないという。
鳥取和牛オレイン55
江戸時代から和牛の産地として良牛が継承されてきた鳥取県の畜産試験場では種雄牛20頭から週1回精液を採取し、冷凍して全国に提供している。ただし、オリーブ・オイルの主成分でもあるオレイン酸の多いオレイン55の可能性のあるのは3頭だという。
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【鳥取県畜産試験場(鳥取和牛オレイン55)取材の写真】
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鳥取県西部地区で最大の前田道夫牧場では150頭を肥育し、試験場から精液を購入したオレイン55牛を20頭保有。年商7000万、粗利益1400万の牧場をほとんど家族だけで経営している。前田道夫さんは、円安とTPPで低関税になりオーストラリアや米国から牛肉が輸入される一方で肥育牛の米国からの輸入飼料が値上がりすれば、日本の牧場経営は成立しないと懸念する。
前田道夫氏から肥育牛生産を取材。 こちらも防疫服着用が必至 |
興味ありげに取材者を観察する牛たち 〔鳥取県伯耆町(ほうきちょう)前田道夫牧場〕 |
鳥取砂丘と投入堂
日本最大の海岸砂丘のある鳥取県には世界初の砂を素材とした「砂の美術館」がある。話を聞いた時には札幌雪まつりのように屋外での展示場で、雨が降ったらどうするのかとスリリングだったが、現地に到着してみるとドーム状の大会場。今年のテーマである「砂で世界旅行・ロシア編」で氷河に眠るマンモス、エカテリーナ宮殿、など大作品を制作し、ナポレオン軍の敗退場面まで生き生きと描かれている。
通路はボード・ウオ—クになっているため、車椅子でも観賞しやすい。
因みに今回のプレス・ツアーには脚の不自由な参加者がいたため、鳥取県側が車椅子と砂丘を移動するためのサンド・バギーを用意されたのを特筆して改めて感謝したい。
三朝温泉近くの山岳仏教の霊場、三徳山(みとくさん)にある三仏寺の投入堂(なげいれどう/国宝)は706年に役行者(えんのぎょうじゃ)によって開かれた標高900メートルの垂直に切り立った絶壁の窪みに建てられた修験場。元々修業のため籠る御堂であったが現在は立ち入れない。世界的にユニークな建築物としてユネスコの文化遺産登録を目指しているという。麓の寺の住職が投入堂の由緒を外国記者に滔滔(とうとう)と語るのが面白かった。
国宝三徳山三仏寺投入堂(撮影:エヴェレット・ブラウン)
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終わりよければ・・・・
カメラもペンも胃袋も大満足の鳥取プレス・ツアーを終えて全日空機で羽田に戻ったのは4月23日18:30分。19:30分到着予定のオバマ大統領の「エアー・フォース1」の到着待ちで、駐機場まで辿りつけずタクシー場で50分待ちとなった。
「早朝から忙しかったのでちょうど良い休憩時間になった」。
ある特派員の言葉がプレス・ツアー参加者たちの気持ちを代弁していたようだった。
2014.5.12 掲載
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