WEB連載

出版物の案内

会社案内

第86回 伊勢プレスツアー「神宮式年遷宮」

photo
早朝の荘厳な伊勢神宮(内宮)

伊勢神宮には「遷宮」という神事があり、20年毎に社殿と神宝、装束品を一新し、ご神体である天照大御神と豊受大御神を新正殿に遷御(お引越し)頂く。1300年以上に渡って行われた行事で、本年は第62回目の「神宮式年遷宮」で外宮、内宮の両宮において行われた。

伊勢は折からの参拝ブームで、参拝・観光客は既に一千三十万人を超え、伊勢市観光協会では今年中に一千三百三十万人の内外からの訪問客があると予測している。

伊勢神宮(正式には神宮といえば伊勢神宮のみを指す)は天皇家と農作の守り神であり、日本の神社の頂点に位する。この機会に日本文化の神髄を見学しようとプレスクラブから米国、台湾、ドイツ、バングラデッシュ、ロシア、日本合計六か国のメディアが11月の週末に伊勢市を訪れた。

photo
伊勢ツアー参加の記者たち

神宮の森の中を観光バスガイドの掲げる旗を先頭に整然と社殿に向かう参拝者の列。黒服、白ネクタイの礼装者が多いのは、いかにも日本神道の原点を感じさせる風景である。

しかしながら例によって特派員たちの質問は“How much?”と“Why?”と具体的に答えを求める。伊勢市観光協会によれば社殿建築、新備品に要した経費は約550億円で神宮司廰が中心となって調達し、「天皇家の守り神であるといっても税金による補助はない」ということであった。


外宮の参拝

記者たちは玉砂利を踏んで、香りが爽やかな外宮の中に入ったところで小休止。外宮の御神体「豊受大御神」の食事時間に入ったからだ。30分ほど待って次に進むと今度は玉砂利に替わって赤ん坊の頭ほどの石がゴロゴロ敷き詰められた内庭になる。神官はオランダの木靴のような履物(和紙を重ねた上に漆で固めたもの)で軽々と歩くが、低くてもヒールで敬意を表している女性記者には難行だ。(ちなみに宮司に咎められて白いスニーカーから黒い12cmのヒールに履き替えた記者は翌日も脚がひきつったということであった。)

photo
外宮に向かう参拝者たち

正殿の正面には一筋の白い砂利の道があり、その脇に黒い砂利が広がっている。
  「代表者一人だけ白い道に上がり、後の人は黒い道で代表者に合わせて参拝してください」
  神官の指示に従い、筆者は白い道に踏み出し慎重に、出来るだけゆっくりと「二礼二拝」を執り行った。
  礼拝中に神殿の中を窺うが、当然何も見えないし何も聞こえない。ただ何とはなく感じるものが伝わってくる。

「代表撮影ぐらい許可してほしい」「秘密主義だ」「バチカン取材ではもっとオープンだった」「伊勢市側から神社に申し入れてもらったが、待たされたままでNGだった」。
  特派員仲間から愚痴がこぼれたが、筆者としては神宮側の意向は尊重したい。

photo
人出が多くなると「撮影は石段下で」の立札を無視する不心得者が多くなる
(写真は伊勢神宮・内宮の正宮前)

まず、キリスト教、イスラム教、仏教などと違い、神道は「頭で理解する」のではなく、「心で感じる」宗教であるらしい。素人考えによれば「空気が読めなければ、神は感じられない」ことになる。曖昧模糊としたところを受け入れているのが日本人の宗教観であり、急速な経済発展を可能にした所以ではなかろうか?


内宮とおはらい町

外宮が個人の願いを受け付けないのに対して天照大御神を祭る内宮の方は気さくだ。早朝こそ森閑としているが、お昼近くになると七五三参りや商売繁盛の祈願者で賑う。更に内宮に連なるおはらい町では参拝客の本音である娯楽や買い物が楽しめる。

おはらい町は伊勢の町衆が中心となって電柱を地下に埋め、街並みを昭和以前の姿に戻したものだが、車の行き来がないので落ち着いて品物を選べる。値段も庶民的で例えば茶葉は東京の茶店の半額以下。但し干しが甘いので茶葉は一煎で全開。最も近頃は台湾人も二煎、三煎とは飲まないのでこれで十分とのことであった。女性特派員たちはどっさり土産品を買い込んでいた。

【伊勢神宮(内宮)参道沿い「おはらい町」での写真】



▲ボタンをクリックすると写真が切り替わります。

アジアからの特派員たちが気楽に報道したのは二見浦(ふたみがうら)の夫婦岩、虎のガードマンを持つ金剛證寺などの観光拠点。今年は台湾からの観光客が昨年より倍増。4月の観光サミットで伊勢ツアーのPRが強力だったので、来年は台湾からの客が100万人を超えるのではないかという。

photo
二見浦の夫婦岩は
アジアからの特派員に大人気
photo
伊勢神宮の背後を守る金剛證寺には
狛犬でなく虎の門番が睨みを利かす

後ほどツアーに参加したプレスとクラブのメイン・バーで話しあうと、アジアにはまだ「大東亜戦争」(第二次世界大戦)の後遺症があり、神道についての記事は本社編集部に若干のこだわりがあるという。また、もう一つの問題点は11月28日インターネットで伝えられた赤福の前会長による外国人を歓迎しないという発言で、「現在は会長でなくっても観光協会の重鎮による問題発言。問題提起する意味で報道しよう」との意見が出された。

特派員たち全員のお気に入りの取材対象は、ジョークではなく、なんと伊勢川崎商人館付近で見つけた街猫同士の交流だった。そういえばジャーナリストは人間に忠実な「犬派」よりマイ・ペースで動く「猫派」が圧倒的に多く、プレスクラブのソフトボール・チーム名は“Alley Cats"(街猫)という。

シャッター・チャンスが来るまで現場を動かない、人ごみの中で実況中継を続ける。一騎当千の「街猫」たちに伊勢市を案内した伊勢市と観光協会の皆さんの寛容さと「おもてなし」には「和をもって貴しとする」日本人の心が示されていたようだった。多謝。(撮影協力 Albert Siegel)

photo
特派員たちは「猫派」。街猫を熱心に取材

2013.12.2 掲載


著者プロフィールバックナンバー
上に戻る