第85回 「六星印の良品」——スバルは米国で着実に市場拡大
Subaru of Indiana Automotive
(スバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ/米国)
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労働祝日が8月に前倒しになったせいもあって、今年9月米国内での乗用車の売り上げは昨年に比べて−5.6%と低下し、なかでも大型乗用車を主体とするジェネラル・モーターズでは−11%。ホンダ−9.9%、フォルクスワーゲン−7.4%、日産−5.5%、トヨタ−4.3%。日本国内で名の知れた自動車メーカーで売り上げ前年を上回ったのはフォード5.7%、クライスラー0.7%という厳しさ。
ところが大メーカーと比べて販売力は強くないものの端正なスタイルに粋な六星マークを付けた富士重工業のスバル車は、米国市場シェアでは2.8%の低さだが、売上高は14.7%の増加を示している。
プレスクラブには自動車業界専門の特派員も数多く、ここ数年存在感を表してきたスバル自動車の工場見学の希望が寄せられていた。因みにかって東京通信工業がその製品SONYの名で知られたように、海外では富士重工ではなくスバルの名称で知られている。
SIAを立ち上げた富士重工常務 スバル製造本部長 笠井雅博氏
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群馬スバル工場
群馬県太田市にあるスバル製造本部群馬製作所では、本社工場と矢島工場でLegacy(レガシィ) 、Impreza(インプレッサ)、Forester(フォレスター)、Subaru XV(スバル エックスブイ)など6車種、年間587,000台と、受託契約によりトヨタ86(ハチロク)を100,000台製造している。大泉工場ではエンジン920,000基、トランスミッション890,000基を生産。臨時雇用者を入れると社員は総勢11,270人で、太田市はスバルの町と言える(2013年8月現在)。
特派員たちが最初に関心を示したのは「Eye Sight (アイサイトver.2)」。運転席前方の窓に備えられた2個のレンズで前方の障害物を確認すると、自動的に車をストップさせる先進運転支援システムだった。
雨天の中、順番待ちでスバルに乗り込み、20キロのスピードで前方に向かって突進して障害物の30cm手前で見事に静止すると、“ワオ!”と大ニコニコ。「Eye Sight」はレーザー・システムより安全技術として独自性がある、と評価されているが、車好きの特派員たちは試運転ができて大喜びだった。
Eye Sight(アイサイト)搭載を取材する外国特派員たち
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3名、4名に分かれ、カートに乗ってプレス工程、ボデイ溶接組み立て、ペイント、トリム、完成検査を巡り、さらに大泉工場ではエンジン・トランスミッションの組み立てを見学。記者たちが強い関心を示したのが水平対向エンジンだった。組立ラインの写真撮影は制限されていたので、ドイツ・ハンデルスブラット紙の特派員は「ポルシェ、BMWなど先進国の車はこのシステムに進んでいる」とホールに特別展示されたエンジンをあらゆる角度から撮影していた。
許可を得て製作ラインの取材 |
組立ラインで働くスタッフ |
この取材中に驚いたのは見学の小学生の数の多さ。大型バスから次々と降りて来て、女性ガイドの引率でスバルの展示車に感嘆する。ガイドは元スバル社員や社員の家族で、見学者に対する態度の温かさが印象に残った。スバルは地域貢献活動として工場見学にも積極的に取り組み、大人、こども、企業、団体などの見学者総数は年間13万人に上るという。
群馬工場の後、筆者は米国のSubaru of Indiana Automotive(SIA)を訪ねた。
SIA(スバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ)
“Team up for Tomorrow(明日のためにチームを組もう)”
スバルの米国生産拠点SIAは全米13地点を慎重に検討した結果、最終的にインディアナ州、ラフィエットを選び、1987年設立となった。
月に人類として最初に足跡を刻んだニール・アームストロング船長の母校として、また根岸英一教授、鈴木章教授の2010年のノーベル化学賞受賞で日本でも知られるようになったPurdue(パーデュー)大学から車で10分の距離、野鳥が飛び交う公園のように美しい環境の中にある。また、Purdue大学とは産学共同で正規の授業の一環として工学部の学生を受け入れている。
SIAでは鋼鉄生産量全米2位を誇るインディアナ州ゲリーから直接原料を購入し、鋼鉄の切断、型貫、溶接、ペイント、水平エンジンの取り付け、インテリアの装備まで一貫して作業する。2013年現在、年間生産27万台。内訳は自社のTribeca(トライベッカ)、 Legacyが17万台、トヨタの受託生産Camry(カムリ)が10万台となっている。
Legacy Outback(レガシィ アウトバック)を組立中の男性アソシエイト
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2016年にはImpreza生産ラインを400億円かけて設置し、Associates(アソシエイト/雇用者)900人を新たに迎え入れることを発表している。更に販売が好調な米国での生産能力を確保するため、トヨタ自動車の受託生産を取りやめる協議にも入る予定だ。
米国自動車産業の牙城を誇ったデトロイトはUAW(全米自動車労連)の攻勢を避けたトヨタ、フォルクス・ワーゲンなど海外のメーカーが南部に移動するにつれて地盤が沈下し、昔の面影はない。
労組組織率の低下に苛だったUAWはこの10月ミシシッピー州カントンの日産工場に労組員勧誘攻勢をかけ、日産CEOカルロス・ゴーン氏の故郷である2016年オリンピックの開催地、ブラジルへもデモをかけている。
ラフィエットは、北部デトロイトや南部カントンとは異なり、住みやすさの調査では全米トップクラスの中西部中流市民層の町だ。SIAは社員を“Employee”(エンプロイー/従業員)でなく“Associate”(仕事上の仲間)と呼ぶ。会社のモットーと福祉政策は言行一致して社員家族のクリニック、運動施設、保育園等も完備し、人事関係は友好的なようだ。
カートに乗って製造ラインを見学している途中に終業の合図が鳴った。週末金曜日の終業ベルに拘わらず仕事のキリをつけようとするAssociateの姿に、群馬工場と同じTeam Spiritを見たようだった。
SIA経営陣トップ・チーム、Purdue大学よりの見学者と筆者
(右から2番目がSIA大河原正喜CEO社長)
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2013.11.2 掲載
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