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第71回 佐藤和孝ジャパンプレス代表会見
ビデオ・ジャーナリスト山本美香さん銃撃事件報告

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ジャパン・プレス代表 佐藤和孝さん

紛争取材を専門とするジャパンプレス代表佐藤和孝さんは、9月6日内外の記者を前に、同僚のビデオ・ジャーナリスト山本美香さんとシリア北部アレッポ取材中に迷彩服を着た武装集団から銃撃を受け山本さんが死亡した事件について報告した。

1985年ユネスコ「女性とメディア問題諮問委員会」で女性ビデオ・ジャーナリストの育成を提唱、その後アジア・アフリカ地域で研修を行ってきた筆者にとって山本さんの死は他人事とは思えなかった。

(社)日本外国特派員協会としては異例だが、会見主宰者である筆者は冒頭で黙祷を提案、参加者全員の同意を得て山本さんに対して一分間の追悼を捧げた。


真相解明の要望

内戦状態に陥っているシリア・アラブ共和国北部の主要都市アレッポに、反政府側「自由シリア軍」と同行ビデオ撮影中の佐藤・山本チームは、戦闘地域ではなく一般市民が普通に生活している住宅街の中で突然現れた迷彩服を着た集団から銃撃を受けた。佐藤さんは紛争地域取材の経験と持ち前の危機に対する感性から自由シリア軍の兵士よりも先にこの集団に注目し、咄嗟に安全地帯に逃れたという。

佐藤さんの後方2〜3メートルでビデオ・カメラを回していた山本さんも当然逃れた、と思っていたにも関わらず、彼が病院で対面したのは変わり果てた姿。山本さんは防弾服をつけた背中から貫通など9発の銃弾を受けて死亡した。

会見に先立って、佐藤和孝さんは在日本シリア大使館に対して要望書を提出。反政府軍が拘束した政府下士官が供述した「政権側の軍、治安当局、情報当局者が会議を開き、ジャーナリストの誘拐狙撃の方針を決定した」件に対して、国際的報道の自由の原則から真相究明を求めた。返答によってまた新たな行動を起こす、と語った。


紛争取材の問題点

国際問題、紛争地帯取材経験者やフリー・ランスの記者の多い会場からの質問は具体的だった。

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(左より)L.バーミンガムさん、船坂通訳、佐藤さん、筆者[笠原克生撮影]

フランス・テレビ記者ジョエル・ルジェンドル・コイズミの「シリア内戦取材とアフガン、イラク、コソボ内紛取材の相違点、自由シリア軍による虐殺問題」について、佐藤さんは「他の内戦では市民が生活する住宅地までミグ戦闘機が低空飛行で爆撃する事はなかった。また自由シリア軍の虐殺問題は知らない。自分の目で見、聞いたことしか信じない」と答え、アメリカのフリー・ランサー、ルーシー・バーミンガムの「どうして政府軍でなく自由シリア軍と同行したか」との質問には「政府軍に同行すると情報操作される」ときっぱり答えた。

戦場取材と収入の関係についてビデオ・ニュース(日本)神保哲生記者は、「(取材ビデオ提供先の)マス・メディアから十分な支払いを受けているか、リスクに見合うギャラをもらっているか」と、独立小規模通信社の切実な台所に鋭く切りこんだが、佐藤さんの答は職人肌の戦争ジャーナリストそのものだった。「10億円か1千万円かなど考えたことはない。自分は紛争取材の専門家だ。取材費と生活費があればよい。いくらだったら十分なのか教えてほしい」。

「一見は百聞に如かず」というが、紛争地域を報道するカメラはパワーがある。パワーがあるからリスクも高い。ジャーナリスト保護規定など、紛争の現場では「絵に描いた餅」以下で、どちらの兵士もカメラ・パーソンを標的として狙う。

2003年度ボーン・上田記念国際記者賞特別賞を佐藤氏と共に受賞した山本さんは戦火の中に生きる女性と子どもたちの姿を地球社会に伝え、若者たちに平和の尊さを教えた。そして仕事盛りの45歳の若さでビデオ・カメラを手にして殉職した。

* * * * *

最後に筆者は「山本さんを含むビデオ取材者3名と事務局1名で構成する独立ニュース・サービス社であるジャパンプレスが新たに女性ビデオ・ジャーナリストを育てるか」と質問した。

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「山本美香は最高のパートナーだった」佐藤和孝さんと主宰の筆者

「15年間取材チームを組んでいた。あれほどのパートナーはいない。ジャパンプレスに女性ジャーナリストを入れることはない」と佐藤さんは明言した。なお、二人は事実婚で公私ともにパートナーだった。

今後の予定として佐藤さんは今年中に山本美香記念基金を立ち上げ美香さんの業績を保存し、その後は再び紛争地域へ取材に出かけるという。

なお、山本美香さんを偲ぶ会は10月19日都内で開催を予定されている。


2012.9.12 掲載


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