第59回 「sengoku 38」元海上保安官 一色正春氏記者会見
尖閣諸島沖で中国漁船が日本海上保安庁の巡視船に衝突する映像をYou Tubeにアップロードした元海上保安官一色正春氏が、2月14日プレスクラブで会見した。
「こういう席に立つのは結婚式以来」と和やかに切り出し、通訳が訳しやすいように自分の履歴からこの事件の問題点までを言葉を手短にまとめながら外国メディアにアピールした。
メディアへの注文
「外国メディアは日本と外国との間で問題があれば、片方だけでなく日本の言い分も聞いてほしい。日本人には自分のことを語らないという美徳がある。また、日本のニュースでも海外メディアで学ぶ人がいるのは、(メディアに対する)信頼の問題。(ビデオ公開支持のため)各地で起こったデモも、国民は(日本メディアが)なぜ報道しなかったかと気付き始めた」
「これは海外メディアにとって大きなビジネス・チャンス。(出席者一同苦笑)いずれにせよ、日本国民は正確な情報を求めている。なぜビデオが秘密なのか? なぜ公開されなかったのか? 誰が公開しないと決めたのか? 以上を(日本の)メディアが国民に知らせれば、国民の信頼を得る。(冬は季節風が強く航海休止状態だが)春になって尖閣諸島(沖)で行われる活動をメディアは正確に全世界に報道して頂きたい」
Decent Person (慎ましくまともな人柄)
一会員として出席した石原慎太郎東京都知事は「国民の声なき声を貴方が守った。愛国者が退職するのは残念。もし、国会議員が超党派で尖閣諸島に行くとしたら、海上保安庁はどこまで協力するか?」と問いかけた。一色氏は知事の大げさな褒め言葉に少し上気しながらも、「保安庁にも霞が関、地方、船上がある。船に乗っているものは賛成するが、保安庁がだめでも海上自衛隊、水産庁、それに都庁にも船がある。行こうと思えば行ける」と、知事が自力でも行けることを指摘して会場の笑いを誘った。
繰り返し内外の記者から質問されたWikiLeaksや2.26事件の若手将校によるクーデターとの類似性はキッパリと否認。
「WikiLeaksとは趣旨が違う。あちらは全ての秘密を公開するというが、私は政府で働いていたので秘密にする必要のあるものはある(と考える)。また2.26事件とは異なり、一滴の血も流していない。これは(クーデターとは)対極の事件」
女性ラジオ・コメンテーターの「お若いのに立派。一色さんはヒーローです。職を賭して家族を犠牲にして仕事したことを特派員の方々は世界に発信してほしい」には「英雄とかヒーローとか言われたくない。命は惜しいし、むしろ(この行動が)当たり前と受け止められる日本になればよい。昔は日本人はそんな考え方をしていた」と答えた。
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一色正春氏の講演が急遽決まり、筆者は先約をキャンセルして出席したが、同じ思いのジャーナリストは多かったらしく、会場はベテラン、若手の内外の記者たちで立ち見席まで満杯であった。
この講演のために一色氏は30分以上も前に控室に到着。「お著書をこの機会にPRしたら」という筆者のアドバイスも「講演のために招かれたのですから」「家内に最初に見せるといったから」と最初は拒否。公私ともに律儀な姿勢に、保安庁内外の人々からの支持が厚かった理由を垣間見た気がした。
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M・コーリング氏、一色正春氏、筆者、 小川恵司氏(前列)、米山司郎氏(後列)
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会場はベテラン、若手の内外の記者たちで 立ち見席まで満杯
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何らかの勢力にも組みしない、頼ることのない一個人としての行動は、一色氏が京都生まれの京都育ちながら京都を飛び出して船員としてイラン・イラク戦争などの戦火を傍観し、30歳にして初めて海上保安官を志したというユニークな経歴によるものかもしれない。日本の次の世代のために今なら自分が出来ることを公務員としての保身のためやらないで済ますことは、彼の歴史観と国際感覚が許さなかったのだろう。
因みにアプロードした時のハンドル・ネーム「Sengoku 38」は当時首相代行でこの事件の最高統括責任者だった仙石官房長官を京都弁で「(ワルイのは)仙石さんや」と指摘したものではないかという筆者の問いには「検事にも、弁護士にも、家内にもその理由は話していません。一つくらい秘密があってもいいでしょう」と微笑んだ。
※編集部注:『何かのために sengoku 38の告白』 元海上保安官・一色正春著(朝日新聞出版)は2月18日より発売中。
2011.2.25 掲載
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