第57回 菅 伸子氏(菅直人首相夫人)
和服姿の自然体にプレスが好感
「“強い男の背後にはもっと強い女性がいる”といわれているが、菅伸子夫人は菅直人氏の従姉妹であり、妻であり、アドバイザーであり、更に総理の秘密兵器といわれている」
主宰のルーシー・バーミンガムさんの軽妙な紹介に和服姿の伸子夫人は「私は専門の勉強をしたわけでなく、ただの主婦。最初で最後の本を出したがこれを読んでもらうと私のすべてがわかり、講演に呼んでもらう必要もなかったかもしれない」と謙虚に話し出した。
やはり中年女性が人前に出る時の勝負服は着物に限るようだ。
「女闘士を予想していたのに、とても淑やかな方ではないか!」
プレス席に陣取った外国メディアは冒頭から既に好感を寄せ始めた。
伸子夫人は1945年10月、岡山県の小さな町で生まれ、津田塾大学に進学するまでそこで過ごした。大学進学で菅家に下宿。その後直人氏と結婚した。
直人氏は父親が故郷の岡山の広大な土地を売って東京に転勤して来てもまともな土地を買えなかったことに疑問を感じ、農地の宅地並み課税を唱えて市民運動を始めたという。
「農地のままで課税されずに(放置して)子どもの結婚などに際して売却する現状で、土地政策がない」という主張。
その後、直人氏は最年長で参議院議員に立候補した女性参政権運動家・市川房枝さんを若者たちと勝手連をつくって応援。市川さんが当選すると秘書として仕え、その後1976年の衆院選に立候補、三度落選したものの四度目の1980年当選した。伸子夫人は度重なる落選中も連れ合いを支え続けた。
我が家は“共稼ぎ”
伸子氏は「八百屋なら野菜を売る。政治家・菅直人ならその妻として選挙区の戸別訪問をする」。地元の本音を聞いて回った。専業主婦の多い地域なので最初は退いた対応だったが、続けるうちに話し合えるようになったという。
消費税反対運動の時は地元の税理士に問題点を指摘され、「これ以上反対するなら応援できない」といわれて改めて考え直したこともあった。
昨年6月から公邸に入り、地元を回れなくなったが、「4月の地方選では直接戸別訪問をしたい」と意欲をみせた。
ちなみに公邸にはお手伝いさんはいなく近所にスーパーもないので、食材は地元の生協から毎週宅配してもらっているそうだ。菅政権以前は夫人がお手伝いさんを連れて入ったらしい、というのが伸子氏の観察。
主な質疑応答
シンガポール記者:菅首相はいじめられているが、どう思うか?
伸子夫人:今までいじめていた立場だったので。我が夫婦は攻めには強いが受けには弱い。トレーニングしなければ、、、。(満場笑い)
ドイツ記者:メディアに攻撃されているが、市民層からの初めての首相として評価。(支持率)1%でもやるといっているが本音は?
伸子夫人:支持率にマイナスはないでしょ。といっている。
米国記者:「玉砕してもよい」と菅氏はいっているが、何のためなら玉砕するか?いつまで公邸にいるのか?
伸子夫人:明治維新、敗戦、少子高齢化の時代と日本は大きな三大変化があった。次の時代のために一歩でも踏みだすことだと解釈している。6月には一重の着物だけを持って公邸に入ったが、いまや袷を着ている。政治では一寸先は闇。
一連の質問が終わった頃、「若者と政治のかかわりについて」筆者が質問した。
(プレスクラブでは役員は控室で講師と対話が出来るため、質疑応答の順番は譲る不文律がある)
渡辺:菅さんは勝手連をつくり市川さんを当選させた。日本の若者の政治離れだが、次の4月の地方選に対して若者にどう関心を持たすのか。戦略はあるのか?
伸子夫人:13回の菅直人の選挙にはある程度の若者がボランティアとして集まった。60年、70年全学連問題、浅間山荘事件などで学生も両親も政治に関わるのは危険だということで政治離れが起こった。息子がNPOでスウェーデンの選挙を調べたが、20歳代の有権者の80%が投票している。菅直人は「あきらめないで参加民主主義を目指す会」から最初の出馬をしているが、政治をどうするかは教育の問題と思う。
日教組と文部省で国歌問題などで争わず、まず学校で近代史をしっかり教え、自分たちの生活を守るため政治をどうすべきかを教えるべきではないか。
講演を終えた伸子夫人は、プレスクラブのスタッフが仲通りで捕まえたタクシーに自前で雇った秘書と二人で乗り込み、公邸に向かった。
「もし首相夫人が拉致されたら・・・」
見送っていた筆者は背筋がゾッとした。SPが同行しないのでスタッフは独断で丸の内署から警官を派遣してもらっていたというが、プレスクラブでの記者会見は公務または準公務。危機管理上SPをつけるのが常識ではないか。
プレスクラブのある有楽町電気ビルの周囲は四六時中青色ナンバーの外交官の車が停車しており、JRに加えて地下鉄線は日比谷線、丸ノ内線、千代田線他誘拐犯(?)の退路はお望み次第。
その後、首相夫人の安全確保について記者たちは手厳しくコメントした。
米国記者:オバマ大統領の家族はしっかりSPに護衛されている
スリランカ記者:先進国でも新興国でもファースト・ファミリーの日常生活には護衛をつける
日本記者:菅首相は党内安全より家内安全をまず確保しては?
フランス記者:日本は危機管理にあまりにも無知だ。身代金は100億円か自衛隊の海外派遣引き上げか?
スイス記者はジョークめかして言った。
「身代金は1円。それが日本女性の地位だ」
2011.1.13 掲載
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