第56回 佐渡島 外国記者たちを魅了
佐渡鉱山の操業時代は13万人あった人口も平成元年の閉山を期に6万3千人まで減少し、公共事業の土木工事の場も少なくなった佐渡島は新しく持続的環境と平安時代からの史跡を守る文化と観光の島として町おこしに力を注いでいる。
トキの放鳥、佐渡鉱山のユネスコ世界産業遺産登録、日本古来の酒と魚の味覚……。このほど佐渡島を訪れたプレス・クラブ会員の内外の記者たちは、佐渡島の人情と懐の深さに魅了されたようだ。
トキの島
第三回のトキの放鳥は11月1日から始まった。2008年マスコミを招いて賑々しく行われた第一回目の放鳥からトキを驚かせないソフトな放鳥に変更された今回は、野生復帰ステーションの順化ケージを朝に開き、夕方には閉じてトキたちが自分のペースで大空に向かうのを待つシステムとなった。クラブの記者たちが訪問した1日目には6羽、2日目には5羽、と順調に進み、合計13羽が飛翔した。現在、国内で飼育されているトキは158羽で、野生に戻ったものは佐渡で15羽、本州で2羽が確認されている。
NPO法人トキどき応援団は野生に戻ったトキの餌場を確保すべく標高1500mの清水平の棚田をビオト—プとして再生している。
「最後まで残ったキンはマスコミ取材のヘリコプターに驚いて飛び去ってしまい、田圃は長く放置されたままになっていた」
応援団、長計良武彦さんの言葉に取材陣一同恐縮した。
その後、新潟大学や三井物産の支援も受け、ボランティアの高齢者と学生が棚田の整備にあたり、いまでは沢ガニ、糸トンボなどが繁殖し、野生に戻ったトキの再来を待っている。
佐渡鉱山
徳川時代に41トン、明治・大正に15トン、昭和に22トン平成元年の休山まで388年に渡って78トンの金、2,330トンの銀を採掘した佐渡鉱山は現在ユネスコの世界産業遺産登録を申請中。
徳川幕府300年と文明開化の財政を支え、日本産業近代化のパイオニアとなった佐渡鉱山は、現在も三菱マテリアルが(株)ゴールデン佐渡を通じて坑道の維持、地下からの排水設備の保全などの整備にあたっている。
ゴールデン佐渡相談役、末松武彦さんによれば、坑山の維持は坑道と排水処理整備費だけで年間2000万円、その他固定資産税など年間300万円。廃山にすると一地方自治体である佐渡市では整備の予算がでないので、明治時代に政府から鉱山を落札した三菱合資会社以来の縁で未だに休山状態で管理しているという。
幾組もの人形による江戸時代の坑夫の作業風景の再現、坑道の照明、舗装など都会の博物館の展示以上の水準で地下700mにいることを忘れさせる。坑外では平成元年まで現役として活躍した大立坑櫓が残してある。ヨーロッパから参加したカメラマンは「プレスクラブの家主はこんなにリッチなのか?」と感嘆していた。(但しこちらの家主は同じ三菱でも三菱マテリアルではなく三菱地所である)
従来の鉱石に加えて、希土類、稀金属などモンゴル、カザフスタン等の新興国での採掘は今まさに始まったばかりだが、日本の佐渡鉱山での経験は役立つのだろうか。それとも空港建設のように最初から途上国は最新の設備と人事管理でテイク・オフするのだろうか?
いずれにせよ佐渡鉱山には日本の誇る近代産業の史跡がコンパクトに詰まっている。
魚市場と地酒
佐渡の両津魚市場は朝8時からセリが始まる。ブリ、イカ、甘エビ、アワビなど地元の旅館のグルメはここから始まる。前日は大風、大雨、雹まで揃った三点セットの荒天で海上は6mの高浪。休漁が心配されたが、晴天の早朝から出港した数隻の船は海鮮美味を満載して帰ってきた。因みに秋の佐渡島は一日に春、夏、冬の三シーズンを経験するそうだ。
勧められてまだ動いている子持ち甘エビを食べてみたが、トロリとして美味しいこと。同行のカメラマンたちも手掴みで頬張っていた。
肴が揃うと次は酒。佐渡は湧水に恵まれ酒米の山田錦を厳しく精米した地酒を醸造している。
「真野鶴」の醸造元、尾畑酒造では、牡蠣殻を田圃に播いて佐渡スーパーコシヒカリを栽培する佐渡相田ライスファーミングより米を仕入れ、今なお冬期間無休の蔵人泊まり込みによる仕込みを行っている。
「老舗ベンチャー企業」として目指すターゲットは、東京など国内の大都会を飛び越えて海外市場で現在6カ国に輸出中。2007年世界最大ワイン品評会(IWC ロンドン)でゴールド・メダルを受賞し、現在エール・フランスの機内ワインとしてサーブされている。
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特派員たちの間で取材中、「今後、佐渡島を国際的にどう生かすか」が話題となった。
「トキの島として世界の希少鳥類研究のハブ(軸)となる」
「内外のユース・キャンプとして若者のハイキング、カヌー、釣りなど野外活動を促進」
「芸能活動の基地とする」(既に鼓童太鼓グループが合宿所を設けている)
「中国・ロシア・韓国など環日本海の頭脳を集めてコロラドにあるアスペン研究所のようなシンク・タンクを」
最後の提案は、「大風が吹けばジェット・フォイルが欠航して時間通り本州に戻れなくなる」とダメを出されたが、「佐渡島に閉じ込められれば、仲間としての連帯感が強まって名案が絞り出される」「箱物公共工事で空港だけは作ったが飛行機は飛んでない。シンク・タンクが機能すればプライベートやビジネス・ジェットで来島するVIPが出てくる」と盛り上がってきた。
古き良き日本の風景と人情を残す佐渡島は、国籍民族に関係なく訪れる人々の魂を捉えるようだ。筆者も帰京以来テレビの天気予報の時間には佐渡島をチェックするようになった。
「佐渡へ佐渡へと草木も靡く、佐渡は居よいか住みよいか….」
2010.12.3 掲載
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