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第55回 「十億の中国人が一斉にジャンプしたら」
ガーディアン紙環境問題特派員 ジョナサン・ワッツさん

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ジョナサン・ワッツ
ガーディアン紙 アジア環境問題特派員

「神様、お恵みに感謝します。お父さん、お母さん、妹たち、友達の○○君たち、飼い犬のトビーをお守りください。それから10億の中国人が一斉にジャンプしませんように」
  会見の冒頭、ジョナサン・ワッツさんは子どもの頃から心配性で、ベッドに入る度に中国人が地震を起こして世界を滅ぼさないようにとお祈りしていたと告白して満場の笑いを誘った。

「中国人が一斉にジャンプしたら震度3.3くらいで地球全体が振動するかもしれない」という恐れは成長するに従って消えて行ったが、ガーディアン紙の特派員として東京から北京に7年前に転勤した時、改めて地球環境における中国の存在の大きさに愕然としたという。このため政治経済をカバーする一般記者から環境問題に特化した特派員を志願した。

ワッツさんは中国国内10万キロに及ぶ取材旅行中に自分で撮影した写真の数々をパワー・ポイントで見せながら講演した。シャングリラを思わす中国の桃源郷、一転してスモッグで風景の見えない北京。大気汚染がひどく、子どもたちは休み時間中も校内で過ごす。車の排気ガスが充満し、ジョッギング愛好家のワッツさんは走り出しても途中で咳き込んで続けられなくなった。

「産業革命以来の200年の英国の歴史が、いま中国各地毎に様々な形で同時に繰り広げられている。赤い中国を恐れるのは時代遅れだが、(環境に配慮した)緑の中国を期待するのはあまりにも楽観的。北京は“BeijingでなくGrayjin”と呼ばれ、人々は“Polute now, clean up later (有毒廃棄ガスを出すのは今、クリーン・アップは後で)”の方針で大気を汚染している」

中国の水の半分は飲料に適せず、火力発電や化学工場からの廃棄物のため「キャンサー・ビラッジ(癌村)」が400村生まれた。またパワー・ポイントで雲南のヒビ上がった湖に放置されている遊覧船を示しながら「土地ブームでリゾートとして開発されたが、肝心の水が消えたので村人の夢も消えた」

ワッツさんが東京から北京オリンピックの年に中国に転勤して先ず感じたことは、中国人が持続的可能レベルを飛び越して大量消費だったという。「中国の王夫妻は米国のジョーンズ夫妻よりもいまや過剰に消費する」「老人は保守的で節約精神があるが、若者は『これから自分たちがもっと消費する番だ』と気分を高揚させている」

「世界の国々に対して19世紀英国は生産方法の手本となり、20世紀の米国は消費生活の見本となった。21世紀の中国に必要なのは「持続可能な開発」のモデルとなること。
  上海の一酸化炭素の排出量は英国全体より多いが、現在風力発電や太陽光発電など、環境に配慮したクリーン・エネルギー開発が進んでいる。「国家主席・胡錦濤氏は水問題の専門家であり、首相・温家宝氏は地質学者。二人のリーダーシップで中国の環境問題は転機を迎えるのではないか」

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渡辺、ワッツ氏、D.マクニ—ル理事
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古い友人、同僚たちも聴衆に加わった

ワッツさんが日本特派員協会の皇居一周ジョッギング大会のエースであり、副会長まで務めたOBであるため、久しぶりに大勢のヴェテランの記者たちが顔を揃えた。また、ジャーナリズムを目指す学生たちも参加して懸命に質問する様子も可愛かった。

“When a Billion Chinese Jump:How China Will Save Mankind ? Or Destroy It”は、ジョナサン・ワッツさんがシベリアに近い中国奥地の森林、ゴビ砂漠、内陸部の廃坑、沿岸部のエコ・シティーなど開発の地下資源を求めて貪欲に動く中国人たちと、中国と地球を守るため懸命の努力をするこれまた中国人との4年間かけての現地取材とインタビューからなる力作である。テーマは重いが文章は素直で読みやすい。環境問題に関心のある人々や学生たちに是非一読を勧めたい。


2010.11.2 掲載


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