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第54回 山田洋次監督
「卒業制作ではなく、小さくても劇場に掛ける映画をつくる」

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山田洋次監督

「幸福の黄色いハンカチ」で日本アカデミー監督賞、「おとうと」でベルリン映画祭特別功労賞、「男はつらいよ」寅さんシリーズでは世界映画史最長の連作を果たすなど映画界の名匠・山田洋次監督は、客員教授を務める立命館大学映像学部学生22名と共に「京都太秦物語」をつくった。東京と大阪での公開を期に、共同監督を務めた阿部勉氏と共にこのほどプレスクラブで試写会と記者会見を開いた。

山田監督が3年前に立命館映像学部の客員教授引き受けた時の一番懸念は、「映画を授業で教えることができるか」という一点だったという。音楽なら演奏、絵画なら描く。映画も作りながらでないと教えられない。日本の物作りの現場では「盗む」のが特徴だが、これは今や過去のものとなったと観念。阿部氏はまだ撮影所で「先輩から盗んで覚える」時代に映画作りを学んだが、もはや学校で人材育成する以外にないと感じていた。

しかし、映画製作には音楽や絵画と異なり、俳優、撮影、録音、大道具、小道具、衣装、メークなどにお金がかかる。そこで映画評論家の故小森和子氏が生前、映画人育成のため松竹に寄付された3000万円を基本予算とし、「劇場にかけられる作品」を作ったという。


もっともリラックスする映画

「京都太秦物語」は映像学科の学生が、かつて「雨月物語」や「羅生門」など日本映画の世界的名作を製作した大映撮影所のあった太秦大映通り商店街を取材し、クリーニング店主や豆腐屋さんにも実際にインタビューに応えてもらい、更にそれぞれ恋人たちの父親役として出演してもらうなど、ドキュメンタリーも加味した90分の小品。

立命館大学図書館で司書として働くクリーニング店の娘(海老瀬はな)と、アルバイトをしながらお笑い芸人を目指す豆腐屋の息子(USA EXILE)の恋に、中国古代文字学を研究する学者(田中荘太郎)が絡む。レトロな人間関係のバックには、これまたレトロな嵐電がノンビリ走る。映画作りの文法をしっかり押さえた上、英語のスーパーも素直に入っている。

「本年の日本映画でもっともリラックシングな佳作」「日本紹介映画として海外に出したい」との声が会場で聞かれた。

シンガポール聯合早報記者・フー・チュウエイさんは、日本留学時代から「寅さん」の映画を全部見ていると前置きし、「80年代と比べると日本の学生はコミュニケーションが取れなくなっている。テレビのお笑いで終わっているのでは?」と鋭い指摘をしたが、山田監督は「東京の若者と京都の若者は違う。彼らは(映画製作の)3ヶ月間で大きく成長した。私が大きなプロダクションの社長なら全員雇いたい」とにこやかに答えていた。

「京都太秦物語」は9月18日—10月1日東劇で2週間限定ロードショーされる。

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カレン・セバーンズ(司会)、山田洋次監督、阿部勉監督、通訳)右より

2010.9.29 掲載



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