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第49回 新大関 把瑠都、外国特派員と立会い

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「優勝と横綱を目指す」と宣言した大関把瑠都

大阪場所で14勝1敗の好成績を残し、連続3場所通算34勝で大関に昇進した把瑠都関は5月9日初日の大相撲夏場所を前に、尾上親方と共に(社)日本外国特派員協会の昼食記者会見に現れ、外国記者らの質問を軽妙な前さばきでこなした。

エストニア出身の把瑠都 凱斗(ばると かいと)関(本名カイド・フーヴェルソン25歳)は、年齢こそ若いが大変な苦労人。物心ついたときから父親の営む牧場で家畜の世話、16歳で父親を亡くしてからはナイトクラブのボーイとして働き、家族の生計を支えた。しかし、柔道に対する情熱は失わず、19歳でエストニアの柔道チャンピオンになる。その時、鹿児島県から来たアマチュア相撲の指導者に紹介される。

柔道コーチは「日本に行けば、寝たいだけ寝て、食べたいだけ食べ、練習はほんの少し」と相撲レスラーになることを熱心に勧めたという。

外国人力士は一部屋につき一人との相撲協会の規則により、外国人枠が空いている現尾上部屋に2004年に入門。新弟子としてそこで発見したのは「兄弟子分の洗濯と掃除で睡眠時間は少なく、練習は大変厳しい。コーチの言葉で本当だったのは「食べたいだけ食べられる」ことだけだったという。

しかし、2004年5月に初土俵、2005年秋場所では十両優勝。2006年春場所ではこの43年間破られていなかった15対0の完勝記録で十両優勝。何度かの怪我による挫折を乗り越え、先場所ではついに琴欧州関に続いて、ヨーロッパ出身二人目の大関の座を射止めたのである。

「ファンに愛される相撲、ファンの期待に答えられる関取」を目標とする把瑠都関は、会場からの内外記者の質問に愛嬌よく応え、後見役も兼ねて出席した尾上親方も学士相撲出身らしく(元日大相撲部学生大関)、「相撲協会の育成費は若い衆の人数に合わせている。関取4人と若い衆4人の尾上部屋は、4人の食費で8人が食べている」など率直に相撲部屋の問題点を示し、夏場所前に相応しい盛り上がりぶりだった。


質疑応答:

メキシコ人記者:相撲部屋に入って嫌だったこと、よかったことは?
把瑠都関:入ったばかりの時の先輩後輩関係。ヨーロッパではこんな関係はない。ご飯が食べられなかったのも困った。関取になり自分の部屋がもてたのがよかった。
尾上親方:(相撲部屋では)後輩は先輩の洗濯物もするし、先輩が黒いものを白いといえば白い。本人は苦労したと思う。私が感心したのは入門当初、食事で外に出たときナイフとフォークが出されたのに、日本に来たからと箸をつかったこと。また先輩から「納豆」を押し付けられたら、丼一杯をかき込んだ負けん気。

朝日新聞:把瑠都関の相撲はフレンドリーで穏やかだ。止めの一突きをしない理由は?
尾上親方:土俵では勝つ。しかし優しさをなくさずに。土俵を下りたら笑顔を忘れずに。と指導している。
把瑠都関:そういうことです(満場拍手)。自分が怪我をした思いから、相手に怪我をさせたくない。

ドイツ人記者:日本人の横綱が7年間もいないが?
把瑠都関:たまたま今は日本人がいないだけ。(日本人と外国人の違いは)負けても日本人は「いい相撲をとった」と評価するが、「いい相撲でも負けたらダメ」と(外国人力士は)思っている。

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会場は内外の記者らで満席

英国人記者:相撲は変わらなければならない。どう変えるか?
尾上親方:相撲協会には100人の親方がいて色々な考え方があるが、次の時代に相撲を残すという目標では一致している。
把瑠都関:小学校から相撲を教えればもっと人気もでる。

ブラジル人記者:日常のトレーニングは?
把瑠都関:(関取になる)以前は朝の5時半から。今は7時半から11時まで稽古。その後は風呂、食事、昼寝。夜は6時に食事。1日2食のエコ。若い衆は掃除、洗濯するので2度目の稽古をする時間はない。
尾上親方:強くなる子は陰で稽古している。把瑠都も陰でやっていた。
把瑠都関:夜、一人稽古場に降りて筋トレをやっていた。隠れてやっていたつもりが、身体が大きいので目だってしまった。(会場爆笑)

共同通信:目標とする力士は千代の富士か? 角界のデカプリオと呼ばれているが?
把瑠都関:曙関、貴乃花関に体型が似ているといわれている。デカプリオとは似ていない!(会場爆笑)

ドイツ人記者:伝統的なスポーツだが新しいトレーニング法を取り入れているか? 趣味は?
尾上親方:取り入れている。栄養管理ではチャンコ鍋は栄養のバランスがよい。鳥は鳥鍋、豚は豚鍋にして寄せ鍋チャンコにはしない。
把瑠都関:3日ほど暇があれば魚釣りに行く。188キロだったがダイエットして188キロから187キロに1キロやせた!(会場爆笑)

日本人準会員:白鵬に勝つためのテクニックは?
把瑠都関:立会いで持ってゆく。白鵬は大きいが意外と軽い。

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大関把瑠都を紹介する主宰者(渡辺晴子)

恒例の大関と主宰者の腕相撲は、主宰者の勝利に終わった。八百長でなかったことは100人の目撃者が証明する筈だ。

2010.5.12 掲載



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