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第48回 勝間和代 『チェンジ・メーカー』

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勝間和代さん

最年少19歳で公認会計士となり、三女のシングル・マザーであり「ベスト・マザー賞」「エイボン女性大賞」などを受賞し、2005年にはウオール・ストリート・ジャーナル紙から「世界で注目したい50人の女性」に選出されるなど、数々の新記録を創った経済評論家の勝間和代さん。

著書は三年間に30冊で、累計売り上げは300万冊にも上るベスト・セラー作家でもある。そろそろプレスクラブの記者会見に姿を現すのではないかと期待していたところ、『チェンジ・メーカー』の出版(講談社2月9日発売)を機会にプレスクラブに颯爽と登場した。

著書は日本語だが、プレスクラブの公用語が英語ということで、英語でのプレゼンテーションとなった。

質疑時間を多くとりたいという主宰者(筆者)のリクエストに答えて準備してきた45分の話を25分にまとめ、助手を使わずにパワーポイントも自身で操作して講演するコスト・パフォーマンスのよさ。マッケンゼーやJPモルガンなど外資で鍛えられただけのことはある。

米国にアフリカ系大統領バラク・オバマ氏が誕生し、永久政権と思われていた自民党が民主党になりかわられた。「チェンジ」は正に時代を表す言葉である。

今回の著書での勝間さんの主張は、「チェンジ・メーカー」、即ち問題解決型思考によって自分で判断し行動する普通一般の人々が増えてくれば、国や社会は変革するというもの。「問題を認識し、Whyを5回問いかけて重要な原因を特定する」

そのため具体的には「歌舞伎役者でもないのに世襲する政治家に投票しない」「"シルバー・キャピタリズム"とでもいうべき老人支配の企業を変える。若い人々にもっと仕事を」「会社に人生を預けるな。60時間も残業しては過労死予備軍となる。会社以外に居場所がない人間になるな」。

50歳—60歳の会員が大多数の会場に向かって、挑戦的な言葉で熱弁をふるった。「日本の民主主義は輸入されたもの。グラス・ルーツからの民主主義がない!」

傑作は"Japan is happy North Korea!" 良くぞ言ってくれたと筆者はヘッド・テーブルで思わず笑ってしまったが、「日本のネガティヴ・サイドをあげつらわないで、ポジティヴ・サイドを取り上げよ」と元フルブライト奨学生でベテランの日本人特派員を挑発し、彼女への質問というよりは彼からのコメントを誘ったようだ。


質疑応答の主なものを紹介する。

日本週刊誌記者:ビジネス書コーナーはオカルト宗教的だ。世界経済の崩壊を私だけが救えるとか読者を信者扱いしている。"カツマー"はあなたの信者か?
勝間:私の著書以外で私の意見に反対する著書、例えば「香山」本などを3冊読んで欲しいとアドバイスしている。

アメリカ・フリーランサー:東京にはもうグローバル本部を置けない。在日外国人の役割は?
勝間:日本はもっと外国人に向けて開放しなければ。イノベーションは異国人から生まれている。このところ世界百社リスト入りしたのはソフトバンクだけ。

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(左より)モンズル・ハック会長、勝間和代さん、渡辺晴子

ドイツ・研究者:高齢の日本人が企業にしがみつく訳は?
勝間:会長、顧問になると運転手も広い部屋もついてくる。"老人支配"と勝間が批判しても、今までは勝間は"豆"(無視できる小粒の存在)だったが、近頃は勝間バッシングが増えてきたようだ。

日本週刊誌記者:日本人の依存心が強いのは天皇がいるからといわれている。天皇制度をドウ思うか?
勝間:海外にロイヤル・ファミリーがいる以上、外交上の利点はある。要は(皇族を支える)コストの問題。天皇制度についてはまともな論文を検索し、(熟読した上で)結論を出す。

最後に筆者が質問した。

「シルバー・キャピタリズム」といって老人資本家を攻撃しているが、オールド・キャピタリストほど革新的。上場しているが伝統的家族企業であるオムロンや島津などのオーナーたちは、奨学資金を設け、ヴェンチャー企業に投資している。京セラは彼等が投資しなければ存在しなかった。「シルバー」というよりもっと貴重な「プラチナ・キャピタリズム」ではないか?

勝間:オーナー資本家は評価している。しかし、問題は彼らがマイノリティーであること。立石さん(編集部注 立石義雄会長)のようにビジネスマンが振舞うよう、日本にもっと寄付文化を根づかせたい。

京都の「伝統を守るために革新する」地場産業にしてグローバルな企業に対する認知が欠けているように思ったが、勝間和代さんの値打ちは何事にもゼロ・ベースで考え、そして挑戦すること。外国特派員協会で講演するゲストは首相クラスでさえ聴衆におもねるような発言があるが、白髪の聴衆たちに媚びず自説を貫く態度はカッコよかった。

更に、勝間さんは会場を見渡して講演を「日本語に切り替えようか、微妙なところを誤訳されては困る」とご本人が同時通訳のチェックをしやすい方を提案されたが、1945年の創立以来、プレスクラブの公用語は英語である。

モンズル・ハック今期会長の代になって、昨年12月からFCCJのホーム・ページに日本語を加え、2月末からは必要に応じて会員への案内を日米二国語で実行することになった。

しかし近年、欧米特派員がアジアの取材拠点を中国に移し、講演会出席者の8割以上は日本人と日本語を第一外国語とするアジア系記者たちに変化している。プレスクラブからグローバル社会にニュースを発信するためには、公用語をどう「チェンジ」するのか真剣に考えるべき時だろう。

2010.3.5 掲載



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