第47回 好々爺パワーに世界のメディア納得
スズキ自動車CEO鈴木修氏"ほのぼの"記者会見
1月30日“56歳”のお誕生日を 迎えられた鈴木修氏
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プレスクラブの記者会見で嫌われるのは、延々と日本語のスピーチを読み上げそれを逐次通訳させ、質疑応答の時間はほんの付け足し程度でありながら、「特派員協会で海外メディアと記者会見した」というアリバイ作りの講演者だ。
1月21日に久しぶりに3度目の姿を見せたスズキ自動車CEOの鈴木修氏は、これとは正反対で正に記者たちが理想とする記者会見ゲストだった。
主催者側の希望を入れてスピーチはフォルクス・ワーゲン(VW)と12月9日包括提携した最新のスズキの動きについての10分のみ、あとは全部質疑応答の時間にさかれ、出席の記者に加えてクラブの記者以外の準会員、見学のために記者会見に出席したアメリカのジャーナリズム専攻の学生グループまで代表質問させるなど近頃見られない出席者全員が満足する記者会見だった。
謙虚なCEO
「スズキ自動車は中小企業。昨年で提携を解消したGMには、小学生の自動車メーカーの家庭教師として車作りの技術をずっと指導を受け、感謝している。今回資本提携するVWには、高校生の家庭教師として環境技術の開発、世界自動車業界で生き残る道を学ぶ」鈴木氏はあくまでも謙虚だ。
質疑応答は以下の通り。
アジア市場の見通し
ロイター:VWから高校生として何を学ぶのか?インド市場の問題などあちらがスズキから学ぶのではないか?(会場笑い)
鈴木:環境、ハイブリッド、燃費などスズキの1990年に開発した技術は遅れている。VWに学びたい。VWがスズキに求めるものを推察すると、アジアにおける風俗、習慣の違いを知って車を売るやり方。ヨーロッパで売れる車がアジアで売れる保証はない。VWとは部品の共通化ができるのではないか。
内外のメディアだけでなくビジネスマン、留学生も参加
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AP:VWと組んで860万台を売り世界一になるのではないか?
鈴木:その見方は誤り。大手メーカーの車は一台500万円から800万円もする。スズキは50万円から100万円。比較するにはスズキは車を今の5倍は売らなくてはならない。従業員が「世界一の会社になった」と考えると将来を間違える。ミニ・カー製作のスズキが大企業のVWという大企業と提携したと考えるべき。VWはスズキ株19.9%、約2,200億円の株を、スズキはVW株1,000億円くらい持つことでバランスが取れる。日本商法ではVWが20%以上持つと連結会計としなければならない(のでそれは避ける)。12月にトップ同士が提携に踏み切ったが、ドイツのクリスマス休暇と日本の正月休みが続いたので詳細はこれから詰める。
ダウ・ジョーンズ:これから中国市場は縮小するが、インドは拡大する。10年後の見通しは?
鈴木:自動車業界は今日明日の見通しは付けるが、10年先の予想はしない。中小企業として背伸びもしなければヒガミもしない。どれだけ努力するか、どれだけ運がよいか。インド、パキスタン、ブラジル、アフリカなど八方に目を光らせている。
オートモーティブ・ニュース:北米では生産をやめたが?
鈴木:GMと提携してリッター・カーを作ったがアメリカ人はお金持ちが多い。「大きいことはいいことだ」と思っているのでエネルギー・ショックが終わりガソリン代が下がるとスモール・カーは不人気となる。(会場笑い)
ブルーンバーグ:日産のカルロス・ゴーンのスタイルから学ぶ点は?
鈴木:他社のことはわからないので誠意を持ってコメントできない。(会場笑い)
朴訥な語り口で聴衆を魅了 (右より 鈴木氏、通訳高松氏、筆者)
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JAL問題
テレビ朝日:JALの問題点は?政府の責任で地方空港を作り続けたが、(スズキの地元)静岡空港は利益をだせるのか?
鈴木:JALの西松社長とは浜松の自宅同士が近く、彼は気の毒な立場だと思う。JALは今日の破産を知りながら空港をつくり続けた。静岡空港、松本空港にJALを飛ばさないのはよいことだ。高い授業料を払ったが、プライヴェート・セクターになれば成功間違いない。静岡は新幹線で東京にも大阪にも近い。ニーズのないところに空港をつくった。(ただし)VWの社長はスズキを訪問したとき、自家用機で静岡空港におりた。(満場爆笑)
最後に筆者が質問した。
筆者:1月30日で満80歳になられるが、心身のフィトネスを保つ方法は?
鈴木:極めて簡単。「仕事をする!」織田信長の時代は人生わずか80年で70歳は古来稀な人(古希)。今や7掛けで私は56歳の働き盛り。アルツハイマーになるのは引退した人。政府が後期高齢者など余分なことをいうのが悪い。(会場大爆笑)
退場する鈴木氏をロイター、中国、NHKのテレビが追いかけ、ぶら下り取材する熱気ぶり。通常、プレスクラブの講演者は地下2階駐車場に車を置くが、鈴木修氏は青い外交官ナンバーのベンツやBMWの間に堂々と路上駐車していたスズキSX-4 モデルに乗って、ニコヤカニ特派員協会を後にされた。
鈴木氏がこれだけメディアの人気を集めたのは、巨大なグローバル企業トヨタとは異なる文化を誇るスズキ自動車が、不況が続く世界の自動車業界とデフレと「少子高齢化」に悩む日本に、持続可能なビジネスモデルを示す経営者としてその役割が期待されているからだろう。
2010.2.2 掲載
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