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第39回 ハンス・ブリンクマンさん「昭和Japan」出版記念講演会

平成も21年となると、昭和時代が懐かしくなるものらしい。このところ昭和を郷愁をもって振り返る企画がはやっている。90年代のバブルの崩壊、現在の「100年に一度」と称される金融危機のなかで改めて敗戦の灰埃の中から日本が右肩上がりに発展し、しかも戦前からの日本的マナーと倫理が人々のなかに生きていた時代が恋しくなるのだろう。

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Showa Japanの著者 ハンス・ブリックマンさん

日本人だけではない。オランダ人小泉八雲(ラフカディォ・ハーン)が日本人以上に日本の伝説や民話を大切にしたように、同じくオランダ人で在日四半世紀のキャリアを持つ元銀行家のハンス・ブリンクマンさんは著書の"Showa Japan: The Post-War Golden Age and its Troubled Legacy"(Tuttle Publishing October, 2008) (昭和日本:戦後の黄金の時代と困った遺産)でこの時代を穏やかにしかも個人的な思いでを添えて振り返っている。

著書は敗戦後のサラリーマン気質の台頭、宗教の変化、バブル消費、サブ・カルチャーの普及、更にバブル崩壊後の日本人のアイデンティティーの混乱について綿密に考証し、最後に日本の教育界の課題について将来を展望するなど、日本学研究者のための読み易い文化・経済・社会の入門書となっている。

「日本研究といえばカレル・ウオルフレンさんの"The Enigma of Japanese Power"(「日本権力構造の謎」早川文庫)など一つの現象にフォーカスしたものが多いが、自分は自説を述べるというより中立的な立場で120人にインタビューし著書を仕上げた」という。

この出版記念講演にはウオルフレンさん始め、知日家のジャーナリストや学者の出席が多く、講演者と会場からは活発な意見の交換があった。

ドイツ人記者:現在の首相は仕事をキチンとしているか?
ブリンクマン:再来日以来、首相が3〜4人交代。交代が年間行事では仕事は出来ない。
米国人教授:来日1956年。日本伝統文化が薄まるので外国労働者の輸入は反対だ。
ブリンクマン:輸入の賛否ではなく、少子高齢化人口減少で輸入は必然。伝統文化も華道がプラスチックの花を使うなど内部から変化している。
英国人教師:こどもがロンドンに戻ると本屋で英語版の漫画を見て自分たちはもう日本で読んでいる、と自慢する。漫画とアニメに触れていない理由は?
ブリンクマン:40歳以下の人々、若者についてはあまり触れていない。(従来の日本人と比べて)自分のステイタスや立場について無関心のようだ。

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在日ベテラン特派員たちから厳しい質問をうける
ハンス・ブリックマンさん(右は主宰の筆者)

講演会の出席は55名。著書17冊分を完売して講演会は定時に終了したが、日本文化論のディベートはその後会場をメインバーに移して盛り上がっていた。

日本人の出席者たちが感銘した点はブリックマンさんの「やる気とエネルギー」。1932年ハーグで生まれ、17歳でオランダの銀行の極東研修プログラムに採用されるや、その後56年間に渡る銀行員生活から無事卒業・・・となると日本人ならもう穏やかな引退生活に入るのが普通。それが物書きという新しいキャリアに挑戦している。

「農耕民族と狩猟民族の違いだろうか?」
  「日本軍はこんなにタフで知的な人種を相手に東南アジアで大東亜戦争(第二次世界大戦)を闘ってきたのだろうか?」
  著者の逞しい人間力がその後プレスクラブで話題となった。


2009.2.16 掲載



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