第37回 物語千年紀取材で──日本文化に感激──
在京の特派員たちといえば日本からの発信は産業と金融問題が中心で、時には迷走する永田町と日本人の政治空白に対する民主主義国としては異様な無関心さが取り上げられる。本国からの在京記者に対する文化企画面の取材の指示は極めて稀で、今回も特派員たちが自主的に参加を申し込み、本社側の事後承諾をとったようだ。
源氏物語千年紀式典、国際フォーラム(11月1日−11月2日 於国立京都国際会館)と紫式部にまつわる一連の行事の取材に参加したこれらの欧米アジア10カ国の特派員たちは、東京では接することの出来ない日本文化に触れ、日本人に対する認識を少し改めたようだった。
平安雅楽会による「青海波」舞楽 (撮影 M.ハック) |
舞楽 青海波にカメラが集中
瀬戸内寂聴さんが「源氏物語」の口語訳を10年前完成された時、文化企画委員会ではプレスクラブで「Genji Night」と題する講演と晩餐会を開いたことがある。またドナルド・キーンさんも図書委員会が主宰する出版記念講演会の常連ではあるが、参加者は日本人準会員が大多数で、正会員である特派員の出席は少なかった。しかし今回、光源氏の身の処し方を源氏物語の各帖にあわせて語るお二人の記念講演は「個性的なモテル男性の生き方」を浮き彫りにして外国人にも興味深かったようだ。
「世界初のドン・フアンといえばカザノバと思っていたら、それ以前に光源氏がいたとは!」ギリシャ人、カメラ・ウーマン。源氏物語第七帖「紅葉賀」で光源氏と彼の恋敵、頭の中将が舞ったという「青海波」が始まる、テレビ、ビデオを構えた特派員たちが指定の場所から前進し、天皇皇后両陛下のご臨席もある会場の警備員たちを緊張させた。
国際フォーラムでのチェコや日本人学者の発表は記者たちには専門的過ぎて、残念ながら中座して京都市内取材に向かう記者が多かった。
聞香—映像メディアで伝達できるか?
特派員たちが一番興奮したのは300年の伝統を誇る香老舗松榮堂でのご主人、畑 正高さんによる香木の展示と聞香の実演である。
研修室で沈香、伽羅、白檀などの実物に触ったあとで、座敷で各自が正座してお香を聞く。シルク街道を経てインド大陸から平安の都に伝えられた香木が今もなお日本の「香道」として伝えられているのを目のあたりにしたバングラデッシュの記者は「アジアは一つ」と微笑み、ビデオ・カメラを構えたフランスの記者は映像に出来ない香りをいかに映像で伝えるのかと悩ましげであった。
女性記者たちは「源氏香」の問香競争のチャートに関心を示し、また「名詞交換をエレガントに」と店内に戻って名刺入れサイズのお香を捜し求めていた。
京セラ、オムロンに代表されるハイテク産業と平安時代から千年の文化が共存する京都は、外国特派員たちにとって謎を秘めた魅惑の都であるようだ。
2008.11.26 掲載
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