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安倍晋三新内閣発足の翌日9月27日、(社)日本外国特派員協会では月刊現代 9月号に「改憲政権安倍晋三への宣戦布告」を書いた評論家の立花隆氏を招いた。報道委員会の意図は、外国通信社による「田中角栄総理ロッキード疑惑」報道のきっかけとなった立花氏から、日本のマスメディアが報道しない安倍政権の情報を更に引き出そうというものであった。 しかし、この会見は世界のプレスが日本現代史の語り部立花氏の原点と、ジャパン・ウォッチャーとしてのプレスクラブ長老特派員たちの日本政治に対する知識を再確認するものとなった。 「私はライター」
「記事のタイトルは編集部がつけた。雑誌を見て驚いたが時既に遅し。私は皆さんと同じく物事を分析して書くライターで、決してファイターではありません」 立花氏の分析によれば、安倍晋三氏自身は日本を戦前の価値観に戻そうとしているとは思わないが、戦前の宰相近衛秀麿のように周囲には多くの右翼的な人々がいる。彼はまた、戦後初めての本格的な保守派、ナショナリストとして北朝鮮との交渉で日本人の人気を集めている。 日本核武装論キッシンジャー時代の米国政治家が「日本は将来核武装する」と言った時、 立花氏は「それはあり得ない」と考えていた。しかし、安倍氏の外交ブレイン 中西輝政京大教授が編集した「日本の核武装の論理」で右翼の論者が唱えるように、アメリカの核を日本に持ち込ませ、二つの核ボタンを日本と米国が同時に押す、という形なら日本人の気持ちが動くかもしれないと考え直すようになったという。 つまり、北朝鮮と中国に馬鹿にされているのは核兵器を持たないからだという感情が日本人の間に興ってくるのだ。しかし、狭い海峡を挟んで核競争をするのは破滅的だ。戦前、近衛内閣時代に一つの事変(満州事変)が次々と広がって太平洋戦争になると認識している人間はいなかった。(戦後60年の)今、影響力のある人々の中で日本の核武装をやめさせたいと真剣に動く人がいないので、自分が月刊現代に寄稿したという。 岸信介総理のDNAと南原繁東大総長のDNA立花氏は、「安倍晋三首相は父安倍晋太郎より、母方の祖父岸信介のDNAを受け継いでいる」という。 近代史を紐解けば、岸信介は満州国統制官僚、東条英機内閣商工大臣となり開戦詔勅に署名し、戦後はA級戦犯容疑者(不起訴)となり長年の公職追放後、講和条約終結の後、政界に復帰した。グラマン疑惑、インドネシア賠償疑惑など黒い疑惑に包まれ、安保条約改定時には警官500人とやくざ団体である松葉会会員300名を国会議事堂に導入して国会議員を排除し、法案を無理やり通過させている。 安保反対のデモが渋谷区南平台の岸邸宅を取り囲む中で泰然としていた祖父を崇拝する母(信介の娘)と孫(晋三)の記憶には、何故に数百、数千人の安保反対のデモが岸の(民主主義を踏みにじった)暴力国会後に20万〜30万に膨れ上がったのかという記憶が抜け落ちている。この祖父を安倍氏は政治家のロールモデルとして尊敬し、政治家としての歴史認識に欠けているのが不安、と強調した。立花氏は、安保反対デモは実は反安保ではなく、反岸デモと分析している。 それに反して南原繁総長は戦時中には軍部の接収要求を「東大は学術研究の前線で戦っている」と退け、戦後は「日本が文化国家として生きるため学問と教育が必要である」と占領軍の東大接収も退けた。立花氏は血脈こそ繋がらないがないが、(理性的精神的自由人としての)DNAを受け継いでいると明言した。 安倍総理は新憲法と教育基本法の改正を目指すが、この政権下で岸と南原のDNAを受け継ぐ人間が論争する時代となると述べた。 先祖返りで女性の地位後退か立花氏の講演は赴任したばかりの特派員たちにとって、日本政治史の格好のブリーフィングとなったようだ。しかし、滞日40年で日本の政治史に詳しい元南ドイツ新聞特派員ゲプハート・ヒールシャー氏は、質疑応答時に安倍氏が1955年自民党が創立した当時目標としていながら出来なかった憲法改正と教育基本法の改正を目指す「先祖返り」であると指摘した。 また、筆者のジェンダー・フリー教育批判者の山谷えり子氏の教育再生担当首相補佐官任命による日本女性への影響について立花氏は、「女性問題は詳しくないが大田弘子さんのような方が経済財政大臣に任命されているので・・・」と会場を笑わせたが、ヒールシャー氏より滞日の長い元ロス・アンジェルス紙東京支局長のサム・ジェームソンは“It's the end of gender equality in Japan”(これでジェンダー論もお終いだな)」とウインクした。 2006.10.2 掲載
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