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12月15日イラクの18州では国民議会選挙が行われた。その前日14日、ブッシュ米大統領は旧フセイン大統領が核や生物・科学兵器などの「大量破壊兵器」を所有していたという情報は誤りであった、と認めたものの「フセインという脅威」の排除により世界が安全になったと強弁し開戦を正当化した。ブッシュ大統領は選挙後の米軍の撤退日程を設定せず、小泉首相は既に12月8日臨時閣議で自衛隊の派遣期間の1年間延長を決めている。 イラク開戦以来、3万人以上のイラク民間人と2千人を超える米兵が亡くなったが、このほど妻を伴ったイラク帰還兵ジェラルド・マシューさんがプレスクラブで記者会見し、帰還後生まれた赤ちゃんに先天性異常があり自分自身の健康も蝕まれている、と死傷者リストには含まれていないが今なおつづく帰還兵への劣化ウラン弾影響を訴えた。 ニューヨーク州兵だったマシューさんがイラクに派兵されたのは2003年5月。輸送部隊のトラック運転手としてイラクとクエートを結ぶ「死の高速道路」を往復し、自衛隊が駐留しているサマワを含むイラク南部に武器やタンクを運んだ。 任務開始約3ヵ月後からマシューさんは「鋭い頭痛を感じ、下痢、腰痛に悩まされた。 視力が急低下して物が二重三重に見えるようになった」という。最初はイラクの気候や水が原因と考えていたが症状は治まらず、ワシントンにある名門ウオルター・リード米軍病院で検査するも「原因不明」。「心理的な湾岸症候群の一つだろう」と診断され薬局が開けるほど大量の薬を持たされて帰宅した。 生まれた赤ちゃんには「右手」がない「お腹の赤ちゃんには右手がありません。イラクで放射性物質に触れたことはありませんか?」マシューさんの軍服を見るなり産科医は開口一番に訊ねた。マシューさんが除隊時に軍医の「帰還後1年間は子どもをつくるな」という言葉をハット思い出した。しかし久しぶりの妻との再会が嬉しく軍医の言葉の意味を気に留めていなかったという。 ところが昨年6月生まれたビクトリアと名付けた赤ちゃんには右手がなく、豆粒のような指が三つついているだけ。 遺伝性のものかと疑われて遺伝子のテストを受けたが夫妻も家系にも異常はなく、妻のジャニスさんと先夫の間に生まれた11歳の長男もマシューさんがイラク派遣前に生まれた7歳の長女にもなんらの障害もない。 劣化ウラン弾とは劣化ウランは核兵器や原発の燃料を作る際に出来る副産物で、これも再利用した劣化ウラン弾は鉛弾より硬く安価で重さは約2倍、重戦車などを貫くと摩擦熱で一気に燃焼し、その微粒子は周囲に拡散する。また劣化ウランは体内に入ると放射線被爆と同時に重金属の毒性で内臓器官が侵される。湾岸戦争やイラク戦争で米軍が大量に使用しているが米軍も日本政府もその危険性を否定している。マシューさんも後述の兵士7名も劣化ウランの危険性について軍部から情報を聞かされていなかった。 メディアへの訴えところがニューヨーク・デイリー・ニュース紙が劣化ウラン弾による健康被害を訴える帰還兵7名に検査資金を提供しドイツの専門機関で検尿したところ4名から劣化ウランが検出された。そこでマシューさんも同紙の協力で検尿したところ通常の4倍から8倍のウラニウムが検出された。しかし彼がこの検査以前に軍医に渡した尿のサンプルは行方不明になっていた。 「陸軍はもう一度検尿するというが、もう信用できない。陸軍は米国に移民してきた自分に教育と技術訓練を与えてくれたので感謝していたが、今は違う。朝目覚めると頭痛に悩む。哺乳瓶を自分の手で握れない娘を見ると怒りがこみ上げてくる」 メディアの報道でヒラリー・クリントン上院議員(ニューヨーク州選出)やコネティカット州知事らが動き、これらの州では帰還兵の検査費用(約12万円)が公費で支給されることとなった。 イラク駐在自衛隊員の家族へ「いらいらしたり、急に怒り出したりするかもしれません。イラクから帰還した自衛隊員を家族や友人の方は暖かく、いかもしっかりと見守ってください。異常があれば直ぐに医者に診せて下さい」妻のジャニスさんは記者会見で強調した。訪日中マシュー夫妻は原爆の被害にあった広島と長崎を訪れ市民たちと交流した。彼は「自分が原爆を落としたのではないが(米国人として)被爆者に謝った」という。 2005.12.17 掲載
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