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第3回 2011年ラグビー世界大会招致へ 


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サッカー世界杯出場の陰に

「日本W杯決定 北朝鮮に2−0で一番乗り」と、日本中の新聞は今日一面バンコックで行われた日本チームの対北鮮戦勝利とドイツでの2006年サッカー世界杯への出場決定を報じた。そのスポーツ欄の片隅に、森善朗前内閣総理大臣の日本ラクビー協会会長就任を伝える小さな囲み記事を発見。同じ球技でも丸いボールを前に蹴リ上げる庶民スポーツ、サッカーと楕円形のボールを後ろにパスする紳士のスポーツ、ラグビーは国民的人気において大差があるようだ。

ところが、日本では知名度が低いが、ラグビーにも世界杯がある。日本ラグビー協会は2011ラグビー世界杯日本招致に名乗りを挙げた。ラグビーを旧英連邦諸国のスポーツからサッカーのようにグローバルな競技にするには、ニュージーランドや南アフリカより日本のように非連邦国で経済力もあり国際ゲームへのインフラの整った国ですべきだ、というのが主張の一つである。

そこで、2011ラグビー世界杯日本招致委員会会長森善朗氏、元日本代表、招致委員会ジェネラル マネージャー平尾誠二氏、1999年世界杯優勝メンバーのマット・コベイン氏、トウタイ・ケフ氏の4名はこのほど特派員協会で日本が世界杯を招致する意義をメディアにアピールした。

イラク殉職 故奥克彦大使の願い

森前首相が招致委員会会長を引き受けたのは、イラク復興支援に尽力中に凶弾に倒れた奥克彦参事官(殉職後大使へ二階級特進)の熱い思いをパスされたからだという。奥氏は伊丹高校時代に全国高校ラグビーフットボール大会出場、早稲田大学政経部在学中もラグビー部に属し、外交官として研修留学したオックスフォード大学では日本人初の正選手としてウィングで活躍。帰国後は同じく早稲田のラグビー部出身の森総理番として官邸に日参するが、話の半分はラグビーで「日本に世界杯を誘致しましょう」というのが口癖だった。「国会議員ラグビーチームも彼のコーチを受けた」。

奥氏はイラク北部を移動中に銃撃されて殉職した。サッカー世界杯誘致時には超党派の国会議員署名が339名分集まったが、森氏が「サッカーより1名でも多く」、と檄を飛ばし、ラグビー招致委員会は衆参議員合計618名の署名を集めた。

「ラグビーの精神は"One for all, all for one" 奥大使はイラクの子どもたちの輝く瞳の為に少しでもボールを先に運びたいといったが、いまも彼の思いに背中を押されている」。森前首相は熱弁を奮った。

競技の普及と選手の強化

紳士のスポーツといわれるラグビーは、オックスフォード対ケンブリッジ、同志社対慶応というように名門同士の対決型スポーツで、伝統的に熱烈なファンがいるがサッカーのように地域住民サポーターの広がりに欠けている。しかし国際オリンピック委員会は空手と共にラグビーを次回の競技種目として考慮中なので、国際ラグビー理事会も日本理事会も早急に選手の強化と競技の一般ファンへの普及が迫られている。

平尾氏は同志社大、神戸製鋼現役時代には名クオーターバックとしてそれぞれのチームを日本一に導き、また監督、代表として世界杯でも歴戦している。J−リーグ発足以来、サッカーは急激に日本中からサポーターを集めたが、ラグビーも日本での大学対抗戦は100年以上の歴史があり、年末年始の高校生の花園ラグビー、大学生、社会人の秩父宮記念ラグビーには多くのファンを集めている。平尾氏によると、協会ではラグビーという競技を日本に普及させるため、小・中学校ではタッチラグビーとして楕円形のボールに触らす事から始め、女性向きにはタグ・ラグビーとしてタックルではなく腰につけた札の取り合いにルールを改正している。しかし、女性ボクサーを描いた映画「ミリオン ドラー ベービー」に女性の人気が集まる時代に、「タックルのないラグビーは泡のないビール」のようではないだろうか。

ラグビーの魅力は「謙虚な男の美学」にある、と筆者は思う。稲妻ステップで次々と敵をかわし、猛烈な勢いでトライを決めた途端、その選手はうつむいて満場の拍手に対して気恥ずかしげに振舞う。これこそラグビー観戦の醍醐味である。観客席の女性の声もこの瞬間「スゴーイ」が「カワイーイ」に替わる。例え全員のスクラムでボールを押し込んでもサッカーのように大袈裟なパフォーマンスなどはしない。世界杯招致にむけて短期的に女性ファンを増やすなら、女性にラグビーまがいの競技を勧めるより、「ラグビーをやるのは紳士、観るのは淑女」との男女別学方針をたて、花園や秩父宮の女性トイレ改善など女性観客優遇アメニティー作戦を進めるのが近道ではないだろうか?

選手を鍛える事についても「外国人選手をチームに3名ぐらい入れることで日本選手の強化ができる」と平尾氏は説明する。しかし、外国人の中には招致委員会プレス発表直前に六本木での狼藉で逮捕されるなど、強化よりイメージダウンに逆貢献する選手もいる。現在クボタ・スピアズで競技するケフ氏は日本選手の弱点はタックルが少ない事で、「オーストラリア選手は6歳の時から(タッチでなく)タックルするハードなラグビーに慣れているが、日本では12歳以下ではやらない(のが問題)」とコメントしている。

J−リーグとことなり、ラクビー協会はボランティアが指導しているのは、人材も資金も十分でない、と平尾氏は語るが、普及と強化、世界杯の招致の有無にかかわらず、今後の日本ラクビー協会の道は険しい。

現在まで6回の世界杯開催国でベスト8に残らなかった例はないが、日本のランキングは今年5月では17位。AP記者の鋭い質問に答えて平尾氏はラグビーの聖地、花園、秩父宮は現時点では国際基準に満たず、設備の整ったサッカー競技場を借用する手筈になっていると語った。市場経済社会で紳士が庶民にオンブする時代となっても、この二つの聖地は大幅改築して世界杯の舞台として是非使用してもらいたいものだ。

第7回ラグビー世界杯の招致候補は日本の他ラグビー強豪国ニュージーランドと南アフリカ。11月に開かれる理事会で最終決定する。ともあれ、サッカーの例で経験したように、世界杯を主催したスポーツはその後日本で飛躍的に伸びる。子どもの頃からのラグビーファンの筆者としては是非招致に成功してもらいたい。

2005.6.21 掲載

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