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第85回 「敬語・言葉づかいの指導」について


皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
  およそ半年ぶりの更新となってしまいました。その間大変お待たせしてしまい、申し訳ございません。その間遊んでいたわけではなく、仕事などに追われておりました。

現在、高校生の指導要領の改訂が進んでおります。

  • 4月からの新高3は「旧課程・一部理数系のみ新課程」、
  • 新2年生・1年生は「完全新課程」

以上の内容で学習しています。ですので、国語に関して言えば、新高3と高2以下は使用する教科書が異なります。その関連の仕事も、通常業務の傍ら、行なっておりました。

* * * * *

今回は、「敬語・言葉づかいの指導」について、です。
  敬語については、現在、以下の5つに分類されています。

  1. 尊敬語(相手又は第三者の行為・ものごと・状態などについて,その人物を立てて述べる)
    例「校長先生が先ほどおっしゃいました。」
  2. 謙譲語I(自分から相手又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて,その向かう先の人物を立てて述べる)
    例「明日、部長のお宅に伺います。」
  3. 謙譲語II(自分側の行為・ものごとなどを,話や文章の相手に対して丁重に述べる)
    例「電車が参ります。」(駅のホームで、駅員がアナウンスする場合など)
  4. 丁寧語(話や文章の相手に対して丁寧に述べる)
    例「これから○○さんがお知らせを配ります。」
  5. 美化語(ものごとを,美化して述べる)
    例「お酒をお持ちしますか。」

これは、2007年2月に、文部科学省が「敬語の指針」の形で発表したものに基づいています(※)。それまでは「尊敬語・謙譲語・丁寧語」の3分類でした。

    ※平成18年版 コラム「18.文化審議会「敬語の指針」(答申)について」
    http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200601/column/018.htm

ですが、これは学校現場では厳密に反映されてはおらず、「中学校学習指導要領解説 国語編」では、次のように記されます。

「敬語については,小学校第5学年及び第6学年において『日常よく使われる敬語の使い方について慣れる』よう指導している。中学校においては,個別的・体験的な知識を整理して体系付けるとともに,人間関係の形成や維持における敬語のもつ働きを十分に理解させる必要がある。指導に当たっては,基本となる尊敬語,謙譲語,丁寧語について理解させるようにする。なお,文化審議会答申「敬語の指針」に示されている尊敬語,謙譲語I,謙譲語II(丁重語),丁寧語,美化語の5種類については,生徒の実態に応じて取り上げることも考えられる。」

つまり、生徒の敬語の理解が不十分であれば、細かく教える必要はない、とも読めるのです。中学の学力レベルによって、敬語の学習は大きな差があるのではないでしょうか。また、受験指導などが優先されれば、敬語に関する指導は後回しになってしまうことは容易に想像できます。

高校では、やはり学校の学力レベルによって異なると思いますが、受験指導を念頭に置いた学校では、古典文法の敬語学習に重点が置かれ、現代文で敬語に触れることはまずない、というのが実情でしょう。その代わり、外部の講師を招き、マナー講座などを開いて言葉づかいなどを指導している場合もあるようです。

そして、ここが現在の日本での問題なのですが、敬語を学校や家庭などでじゅうぶん学ぶ前に、現代の若者は、「コンビニ(バイト敬語)」など、「間違った敬語」を先に知ってしまいます。以下に、それらの敬語の例を挙げます。

(1) 「○○円になります
→正解「○○円です(でございます)」
(2) 「メニューのほう、お持ちしました」
→正解「メニューをお持ちしました」
(3) 「ご注文は以上でよろしかったですか
→正解「ご注文は以上でよろしいですか」

(1)は、「なる」という語に敬語のような意味があると勘違いしているケースです。
  (2)は、「ほう」をつければ丁寧、と思っているケースです。「ほう」には丁寧な意味はありません。
  (3)は、現在のことなのに過去形で尋ねていることが問題です。これも、過去形にすれば丁寧になる、と解釈しているのでしょうか。

これらは、すべて、間違っている敬語です。間違った敬語を先に教えられてしまうと、それを直すには多大な時間と労力がかかります。

なお、敬語ではありませんが、以下のような言葉づかいも、正しくないのですが蔓延しています。

(1) ら抜き言葉
例「これ、食べれますか」
→正解「これ、食べられますか」
(2) さ入れ言葉
例「先日書かさせていただきました通り」
→正解「先日書かせていただきました通り」

現在の日本は核家族化、しかも少子化が進み、「親とひとりの子ども」という家庭が珍しくありません。家庭の中でも、妻が夫に対し敬語を使わない、という状況も珍しくないのではないでしょうか。子どもは「敬語を使うことを指導されない」限り、身につける機会がないように感じます

生徒たちを見ていると、「先生や目上の方には敬語を使う」というルールが身についているかどうかは、成績とは無関係だと感じます。成績が良い高3でも、こちらの問いかけに「うん」と頷き、「先生、○○していい?」と言う者はいますし、成績がいまひとつの高1でも、「先生、それはこういうことですか」と話す者もいます。敬語が使えない者には指導しますが、それでも、本人が「これでは良くない」と気づかない限り、直すことは難しいと感じます。

一生敬語を使わず生きていけるのであれば、覚えなくても問題ないかもしれません。ですが、社会に出ればそのようなわけには行きません。それならば、年齢に応じ、小学校低学年の段階では「先生や目上の方に対しては、うん、ではなく、はい、いいえで答え、言葉の最後はです、ますで話すようにする」などの最低限のことを教え、学年が上がるに従って、ふさわしい表現を身につけていけば良いと私は考えます。

敬語や正しい言葉づかいを学ぶ機会が少ないこともあり、最近、日本語検定が教育現場で注目され始めています。2007年開始と、まだ歴史が浅いのですが、小学生から受検できる7級から開設されています。

似たような検定に日本漢字能力検定(通称・漢検)がありますが、漢検は漢字の成り立ちや読み書きが主な出題内容なのに対し、日本語検定は、敬語や漢字の表記間違いなど、多岐に渡っています。患者に間違った敬語で不快感を与えないように、ということでしょうか、看護師養成の専門学校で受検をさせているケースも出てきています。家庭で、また、学校で、こういった検定も有効に活用することを考えても良いのではないでしょうか。公式サイト(※)に練習問題も掲載されていますので、興味のある方はぜひチャレンジなさってみて下さい。

    ※日本語検定 http://www.nihongokentei.jp/

敬語や正しい言葉づかいで話すことは、その人の教養を表します。いつも丁寧に話す必要はありませんが、場にふさわしい言葉づかいができることは、その人の評価に大きく関係します。大人になって困らないよう、子どものうちから、年齢に応じた言葉づかいを学ぶことは、実は子どもにとって将来役に立つことだと私は考えます。


最後に、敬語や言葉づかいを知るのに、お薦めの本を2冊紹介します。

  1. 菊池康人『敬語再入門』(講談社学術文庫)
  2. 梶原しげる『心を動かす『伝え方』 また会いたくなる『話し方』』(講談社+α文庫)

1.は敬語をきちんと勉強したい方、指導する方にお薦めです。Q&A方式で、解説が丁寧に書かれています。
  2.は話し方、好感度アップのための受け答えなどに加え、人から「絶対の信頼を得る話し方」で、敬語が取り上げられています。1.が難しい、と感じる方でも、こちらならすっと理解できると思います。


【今回のまとめ】
  1. 敬語に関しては文部科学省が大きく5つに分類している。ただし、この5つを学校で細かく習う機会はあまりない
  2. 学校で細かく習う前に、コンビニ敬語(バイト敬語)などで「間違った敬語」を先に知ってしまい、これを取り払うのに時間がかかる
  3. 家庭も核家族化で、子どもが敬語を「自然に身につける」機会が減っている
  4. 社会に出れば敬語や言葉づかいが正しくないと恥をかくのだから、保護者や学校も、子どもたちに身につけさせる手段・指導を考えねばならない。日本語検定といった検定を有効活用することも考えてよい

2014.3.24 掲載

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